54.魔王・プレシャ
「はああああああぁぁぁッ!」
剣を振るい、次々と襲いかかってくる魔物を次々と切り裂いていく。……しかし、数が多すぎる。倒しても倒しても、キリがない。
一匹一匹はそこまで苦労しないのだが、それが束になって延々と現れるので、なかなか魔人の拠点へと近づくことが出来ない。
「唯葉みたいに魔法で一掃出来れば楽だったんだけどな……」
そんな便利な魔法、俺には使えないので、剣で一匹ずつ地道に倒していくしかない。俺は襲いかかってくる魔物を倒しつつ、一歩、一歩、少しずつ。着実に魔人たちの拠点に向けて歩みを進める。
***
「……あの魔人が魔法陣を維持しているみたいだな」
なんとか魔物を振り払いながら森を進み、魔人たちの拠点(……と言っても、唯葉の放った魔法ですっかりボロボロになってしまって使い物にならないが)の近くまでやってきた。
しかし、その周りにも多くの魔人が待機していて、無策で突っ込めば数で押し負けるだろう。
ただ、何も全部の魔人を倒す必要はない。大量の魔法陣を維持しているあの魔人さえ倒してしまえば、ひとまずこの危機的状況は去るのだから。
「速攻でケリをつけるしかないみたいだな……。――『マジック・コンバータ』……《敏捷》」
静かに唱えると、俺の持つ魔力全てを、敏捷のステータスへ変換。今の俺が出せる『最高速度』の準備を整えると、一度深呼吸をしてから、その一歩を踏み出した。
――ガッ!! と地面がえぐれるほどの力を込め、一気に魔人たちの拠点跡に向けて飛び込んでいく。
魔法陣を展開、維持している魔人に、着実に近づいていく。しかし、その行く手を塞ぐのは、その他数十もの魔人による壁。
「道を、開けろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
全てを倒す必要はない。目の前に築かれた魔人の壁に穴を開けて、通れるようにすれば良いだけの話。さっき襲い掛かってきた魔人を見る限り、速さでは俺が圧倒的なはず。抜けてしまいさえすれば、まず追い付かれることはない。
立ちふさがる魔人に、剣を向ける。――ズガガガガガガガガガッ!! と、正面から魔人を次々に切り飛ばしていき、数十の魔人による壁を強行突破していく。
「――くっ、速すぎる! 抑えられないぞ……!」
「何なのあの人間! このままじゃ……プレシャ様の元に通してしまうッ」
俺の剣を受け止め、最後の砦となった二人の魔人だったが……。
「はああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
力を込めた一撃で、弾き返す。――魔人の壁を破り、向こう側に見えたのは、拠点の残骸が残る平地。そして……今も魔法陣の維持に、魔法を唱え続けている、一人の女の魔人の姿だった。
その魔人は、他の魔人よりもひと際目立つ、紫色に金の刺繍をした、豪華そうなローブを纏っている。被ったフードからは、赤い髪が見えていた。そう、あの魔方陣すべてを展開した張本人。
……そして、近づくだけで身震いがするような、圧倒的なオーラ。今までの魔人のように、一筋縄ではいかないような相手。……しかし、
「……今なら倒せる。一気に近づいて――」
そう思い、さらに速度を上げた俺は、今も唱え続ける魔人の元へと走り、剣を向けた。しかし、あと一歩のところで。
――ガキンッ!
俺の剣は、突然現れた紫色の結界によって、軽々と弾き返されてしまった。
「――まずっ!」
一度詠唱を止め、相手の魔人がこちらを見ると、彼女は剣を向けられているにもかかわらずゆっくりと、落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。
「愚か。実に愚かだ人間よ。たった一人でこの魔王プレシャに挑んでこようとは命知らずにも程があるな。……しかしまあ、ここまで辿り着けたからにはただの人間という訳ではあるまい。我が自ら、貴様の相手をしてやろう」
「……魔王……ッ!?」
「魔物、魔人、魔族の全てを統治する者、それが我、プレシャ・マーデンクロイツ。……魔族の王が自ら、ここまで出向くとは予想外だったか?」
魔王。その名の通り、魔族の王。……言うまでもなく、魔族の中でも最強クラスの相手だろう。
そんな圧倒的な威圧感を放つ彼女に負けじと、俺も剣を構え——魔王・プレシャとの戦いの火蓋が今、切られる。




