53.決して諦めない
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
ある者は剣を取り、強大な魔物に立ち向かいその剣を振るう。全身全霊の斬撃は、格上であるはずの魔物をも切り裂き、ダメージを叩き込む。
「くっ、――『衝撃吸収』ッ! 危ねえ……、本当に死ぬ所だった……」
「何してるの! こんな所でやられたら手当ても出来ないわよ! ――『正確射撃』ッ!」
勢いよく放たれた矢は、魔物の頭部を一撃、撃ち抜いた。
ある召喚勇者は、授かったスキルを使いこなして強力な魔物を倒していく。
「――『ウォーター・ジェット』ッ!」
勢いよく放たれた水は魔物に命中するが、所詮はただの水で、効果は薄い。――しかし、
「――『ショック・ボルト』!」
別の魔法使いが放った雷撃が魔物に命中する。普段なら弾き飛ばせるほどの電流かもしれないが、今は違う。濡れた体には電気がよく通るのだ。
ある者たちは、なけなしの知恵を合わせたコンビネーションで、強大な魔物を撃破する。
再び闘志を取り戻した部隊は、一見好調に見えるかもしれない。しかし、体力は有限だ。そして、相手は無限に湧き続けるのだ。どちらが優勢かは言うまでもない。
「はあ、はあ、もう……動けん……」
「――『衝撃吸しゅ……、ぐああぁっ!?」
「――『ウォーター・ジェット』ッ! ……あっ、で、出ないっ!?」
休む間もなく現れる魔物によって、ジリジリと体力は削られていき――ついに、この部隊も限界を迎えようとしていた。
「……もう、ダメなの? こんなところで、終わってしまうの……?」
それでも両手で持つ機関銃を離さず、撃ち続ける明日香だったが、それでも彼女の中でこんな考えが湧き上がってくる。……もう、終わりなのだと。
それでも諦めずに、彼らは戦い続けた。自身の文字通り『全て』を出し切る、その瞬間まで。
誰もが諦めてしまいそうで、それでも戦い続けていた――その時。
「――『サンダー・シュート』ッ!」
一人の通る声が、絶望感の漂う戦場に響き渡った。
一直線にほとばしる、一本の雷撃が――魔物を貫き、塵へと変え、一本の道を切り開いた。
「……遅くなっちゃったけど、みんな大丈夫? 私も加勢するよっ」
雷撃の放たれた場所に立っていたのは、黒髪のショートヘアに、紅い目を持つ少女。今回の作戦における重要な戦力の一人、梅屋唯葉の姿だった。
彼女は、次々と雷撃の槍を放ち、その圧倒的な力で襲ってくる魔物を次々と葬っていく。
「あれって、唯葉さんっ!? ……まだ私たちも勝てる! みんながんばろう!」
「反撃だッ! さあみんな、人間の本気をみせてあげよう!」
「「「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
それだけで、魔物たちを圧倒できるほどの。そんな激しい叫びが響き渡る。
みたび取り戻した闘志は、今、最高潮へと達する。
「俺の剣を、喰らええぇぇぇぇッ!」
「こっちはハンマーだ! 一発すげえのをくれてやるッ!」
「僕は槍で! ……一匹残らず貫いてやる!」
「ワシは斧ッ! 老いぼれだと思って舐めるでないぞッ!」
「――『物質錬成』ッ! みんなまとめて撃ち抜くッ!」
「――『ウォーター・ジェット』ッ! あとはお願い!」
「はいよっ! ――『ショック・ボルト』ッ!!」
「――『衝撃吸収』ッ! へっ、効かねえなあ! 次はこっちだッ!」
「――『正確射撃』 ……まだまだ! ――もう一度、『正確射撃』ッ!」
「――わたしも負けてられないなあ。……『サンダー・シュート』ッ!」
ここにいる全員が、自身の全てを出し切って、命を燃やしながら強大な敵へと立ち向かう。
……戦況は変わった。次は人間側の反撃だ。




