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52.思い込み

「……どうするの? お兄ちゃん」


「さて、どうするか……」


 二人は顔を見合わせる。さっきまでは魔物のまの字も無かった草原が、今ではダンジョン、もしくはそれ以上の危険地帯になってしまったのだから無理もない。


 そうこうしている間にも、大勢の魔物がこちらに向かってくる。


「――『サンダー・ブラスト』ッ!」


 さっきも不意打ちに使った、爆発魔法もとい雷魔法を放つ。


 ――ゴオオオオオオオオオォォォォォォ!! 轟音と共に、向かってくる魔物たちは吹き飛ばされ、塵と化す。


 周囲の魔物はあらかた吹き飛んだので、しばらくは何とかなるだろう。


「助かった……。やっぱり唯葉の魔法、とんでもないな」


「威力の制御ができないから、こういう時くらいしか役に立たないんだけどね」


 確かに、使うのに不便な魔法ではあるものの、唯葉は他にもいろいろな魔法を習得しているし、魔法以外にも状態付与というスキルも持っているので、戦い自体はどうとでもなる。


「こっちは大丈夫そうだけど……」


「やっぱりウィッツさんたちの方が気になるな。向こうも魔物だらけだろうし」


 ウィッツが率いる大規模部隊の方も、こちらと状況は変わらないだろう。大量の魔物に対処は難しいはず。


 向こうは人数は多いのだが、戦力は充分……とは言い難いだろう。俺も援護には行きたいが、味方弱化のスキルで足手まといになっては逆効果になってしまう。なので、


「……唯葉、ウィッツさんたちの部隊の援護を頼めるか」


「私は大丈夫だけど……お兄ちゃんが一人になっちゃうけど大丈夫なの?」


「大丈夫だ。俺は今まで、このスキルのせいで一人だったんだ。その頃に戻るだけだ、何の問題もないさ」


 そう、俺は本来、仲間と一緒になんて戦えない。仲間と呼べる存在がいたとしても、戦う時は一人でなくてはならない。


 ……今まで、一緒に戦ってくれた仲間だっていた。でも、それは同時に、俺の存在だけで仲間に迷惑をかけてしまっている。


 唯葉だってそうだ。俺がいなければ、もっと強い力を発揮できるはず。それなのに、俺が足を引っ張るせいで、唯葉は真の力を発揮できないのだ。


 だから俺は、本来なら一人で戦わなくてはならないはずなのに。


「分かった。ごめん、お兄ちゃん。……行ってくるね」


「すまない、唯葉。俺が足を引っ張ってさえいなかったらな……」


 その言葉を聞いた唯葉は、それを否定するような明るい声で、


「足を引っ張ってなんかないよ。むしろ、お兄ちゃんに助けられてるんだよ。だって、お兄ちゃんがいなかったら私、何もできないから」


「……ありがとう、唯葉。でも、みんなのステータスを下げてしまう。それは事実なんだ」


 変えられない事実。『味方弱化』という背負わされたスキル。それでも、唯葉は首を横に振る。


「ステータスなんかどうでも良いの。私はお兄ちゃんがいてくれたから、ここまで来れたんだから。仲間っていうのは、強さだけで語れるものじゃないんだよ」


 そうか。だからあの時も、キリハ村のみんなはステータスが下がる事を知りながら、死の危険を顧みずに、一緒に戦ってくれた。


 てっきり、ステータスが下がるから、仲間はできない。一緒には戦えない。そう思っていたのに。……そんな考えは、俺の思い込みだったらしい。


「……でも、今は分かれたほうが良いかもしれない。私はみんなの援護に行くから、お兄ちゃんは――」


 唯葉の言葉に続くように、俺は言う。


「――この魔法陣を生み出した元凶を倒す。だから、唯葉はそれまでみんなを守り切ってくれ」


「うん、それじゃあお兄ちゃん、また後で!」


 そう言って、俺と唯葉は別々の方向へと走り始めた。

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