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20.クリディアへの旅路

 馬車の中は想像以上に暇だ。草原の中を走り続けるが、外を見続けていても景色はあまり変わらないし。


 ……そういえば、魔人を倒してからステータスを見ていなかった気がする。疲れ果ててそのまま忘れてしまっていた。あれほどの強敵を倒したのだ。かなりの経験値が貰えたことだろう。


 バッグから石版を取り出して、一体どれだけ上がったのかワクワクしながら確認してみる。



《体力》100/100%

《レベル》64

《スキル》味方弱化

《力》203

《守》148

《器用》210

《敏捷》182



 横から俺のステータスを覗き込む唯葉は……。


「お兄ちゃん、レベル高すぎない? 何をしたら一週間でそこまでレベルが上がるの……?」


 驚くを通り越して、少し呆れ気味に言う。……とてもじゃないが、自慢げに語れるようなレベルの上げ方はしていない。ただただゲームの効率プレイみたいなことをしていただけだし。


 そうではなく、あれから一体レベルがいくつ上がったのかというと、あの魔人と戦う前はレベルが62だったはず。今見ると……『64』。


 ――たったの2しか上がっていない。あんな強敵を倒して、これしか上がらないものなのか?


「……唯葉。あの魔人を倒したのに、レベルが思ったより上がってない気がするんだが」


「でも、敵が強ければ強いほどいっぱいもらえるんだよね? 昼の魔物よりも夜の魔物のほうが、同じ人数で倒したらもらえる量は多いでしょ?」


 ……だよなぁ。 ――ん? 同じ人数?


「同じ人数……って?」


「え? あっ……そっか。お兄ちゃん、ずっと一人だったもんね」


 唯葉の無意識に飛ばされた鋭い言葉が胸に突き刺さる。ちょっぴり傷付くような言い方はやめてくれ。


「みんなで戦ったら、経験値は平等に山分けみたいだよ。具体的にどれくらいもらえるのかはわからないけどね。……そっか! だからお兄ちゃん、そんなに早くレベルが上がったんだね?」


 ……なるほど。ってことは、キリハ村の人たちみんな、レベルが軒並み上がってるってことじゃないか。


 女性は魔人に改造されてしまって、ありえないステータスを持ってるようだし、ちょっと笑えない状況になってるぞ。村一つで軍隊並みの戦力があったとしたら恐ろしいな……。


 でも見たところ、いつも通りの日常が流れていた訳ではあるし……大丈夫だと信じておこう。


 とにかく、やけにグングンレベルが上がるのにも納得がいった。いくらあんな稼ぎ方をしたにしても、レベルが上がるのが早すぎるとは思っていたし。


 夜の魔物とか、本当は一人で戦うような相手じゃないのを、俺の元々高いステータスでゴリ押して、経験値をまとめて俺が手に入れることでなんとかやってきたらしい。……それで、この短期間にレベルがこんなにも上がっていたようだ。



 ***



 それでも暇だったので……俺はバッグから一冊の本を取り出して読み始めた。白く分厚い本で、『無属性・初級』と書かれている。


 何度か、暇を見て読もうと挑戦してみるが……全く理解できないし、頭さえ痛くなってしまうほどだ。読めば使えるようになるのかなーなんて甘い考えではいかないらしい。


 それを見た唯葉が、驚いた表情で言う。


「え、お兄ちゃん。それ、もしかして魔導書? 魔導書ってすごい高いんじゃないの?」


「あー。大銀貨2枚だったっけか」


「……お兄ちゃん、一体いくら持ってるの? そういえば、私の事はいっぱい話したけど、お兄ちゃんの事は全然聞いてないよ。私」


 ちょっと拗ねたように、唯葉は小声で言う。


「ああ……。俺はたまたまスマホを持っててさ、それを売ったんだよ。小金貨5枚で」


「えぇ!? 小金貨5枚って……。じゃあ私が今持ってるスマホも売れるかな?」


「充電ないだろそれ。二ヶ月も持つ物じゃないと思うし……」


「充電ならあるけど……」


 そう言って取り出したのは、ピンクのカバーを取り付けたスマートフォンと、『使ったら充電するのがめんどくさい』と言って買った、一度充電したらスマホを十回は満充電にできてしまうであろう、大容量のモバイルバッテリーだった。


 ……しかも、充電したてらしく、バッテリーの残量を示すランプは全て点灯している。


「マジか!? ……それ、売らないでとっておこうか」


 スマホのライト機能だけでも持っておく価値がある。電波がないのでもちろん電話なんかは出来ないが、電波がなくとも便利な物は便利だ。カメラとか、メモとか、使い道はけっこうありそうだ。




 ……それから、魔導書を読み進めるが……やはり全く理解が追い付かない。


「あー、分からんっ! 何を言ってるんだこの本……」


 あまりの難しさに投げ出し、思わず叫んでしまう。文字は読めるのに、何を言っているのかわからない。暗号文か何かなのかこれは。


「そんなに難しいの? ちょっと読ませてよ」


 俺が投げ出した本を拾うと、唯葉は本の最初のページから順に読み進めていく。


 ペラ、ペラ、ペラ……と、次々と魔導書をめくっていく唯葉。……意味を理解して読んでいるのだろうか?


「唯葉、意味分かるのか?」


「だいたい、感覚でなんとなく。もう少し読んだら物体浮遊くらいなら使えるようになるかも」


 曖昧な言葉のオンパレードではあるが、なんとか理解しているらしい。あの時、自覚は無いはずだけど、確かに唯葉も魔法を放ってたんだよな。


 その時の感覚が、自覚はなくても残っていたりするのかもしれない。


 ……俺はどうやら魔法の適性が無いらしく、もう読みたいとは思えないのでこの魔導書は唯葉に譲ることにしよう。

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