17.レベル1
「宴じゃあああぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」」
さらわれた村のみんなを取り戻し、誰一人欠けることなく村へと戻ってきたその日の夜。村は一世一代のお祭り騒ぎだった。
広場の中央にはキャンプファイヤーが燃えていて、それを囲むようにみんなで酒を呑み、御馳走を振る舞っている。
「お兄ちゃんは行かないの?」
「あまり騒がしいのは苦手だからな……」
俺は、そこから離れた所で宴会の様子を見守る。唯葉はというと、お腹いっぱいに肉を食べて満足そうだ。……一方の俺はというと、疲れすぎて食欲もあまり湧かなくなってしまった。
「はい、お兄ちゃん。どれも美味しいよ?」
唯葉は、わざわざ俺の分も貰ってきてくれた。……そんな気持ちを無駄にする訳にはいかないので、唯葉が持ってきたまるでマンガみたいな骨付き肉に一口、かじりつく。
……美味しい。こんなに美味しい肉、前の世界じゃ食べられなかった。肉厚で脂がのっていて、口の中でとろけていくような味わいだ。村のはずれでは確か牛を飼っていたような気がする。こんなのびのびとした自然の中で育てられれば、こんなに美味しいのも納得だな。
「ね、美味しいでしょ?」
「……そうだな」
俺のクラスの奴らとか、妹のクラスの人たちは、こんな食事を毎日のように食べていたりするのだろうか。
こっちは本当に死にかけて、何とかここまでやってきた。あいつらは……せいぜい楽して、危険もなく、着実に強くなってるんだろうな。……俺なんかとは比べ物にならない、強いスキルを使って。
***
ドルニア王国を出てすぐの平原。異世界へとやってきて五日目。昼の草原で、今日もみんなで特訓を行なっている。……のだが、私――水橋明日香の所属するクラス『二年四組』の雰囲気は最悪だ。
今までは何とかひとつにまとまっていたこのクラスも、ついに崩壊してしまった。現在、クラスは一つのようで、事実上は二つへと分裂してしまった。
このクラスには、二人の『Sランク』がいる。
――《超速飛行》を持つ、工藤茂春に、
――《物質錬成》を持つ、水橋明日香。……ほかでもない、私だった。
そして、二人のSランクが分裂したそれぞれで、二つのグループを率いているのだが……。
工藤茂春が率いる、クラスの三分の二が所属する、レギュラーなグループと、
――私が率いる、通称『嫌われ者』の、二つのグループだ。
グループ『嫌われ者』には、この城の人や、Sランクである工藤茂春に嫌われた人だったりを迎え入れている。――よって、私たちのグループは、城の人たちにも差別されて『いない物』のように扱われてしまっている。
そして、実質クラスのリーダー的存在である工藤茂春は……自分より下のランクの人を見下すようになった。
「おい、そこのお前! そいつは俺の獲物だ、横取りするんじゃねーよ!」
「ご、ごめんなさいっ!」
……そんなやり取りも、もう見ていられない。もう以前の私のように、クラスをまとめ上げる力なんて存在しない。
どれだけランクが高くて、実力があって、どれだけ城の人たちに好かれるか。ここではそれが全てなのだから。
この世界に来た初日。スキル鑑定のあの時、Fランクという判定を受けた彼、梅屋正紀を庇った時から、私は城のみんなから嫌われていた。……Sランクであるという事だけが、私の存在価値らしい。
今頃、初日に城を出ていってしまった彼はどうしているのだろうか? ……ふと気になった。
こんな世界にたった一人で、生きていけるはずがない。もう死んでしまったのかもしれない。
(あの時、私がもっと反論出来ていたら、変わっていたのかもしれない)
そう思うと、後悔で頭がいっぱいになってしまう。
「……水橋さん! 向こうに魔物がいるよ。倒しにいこう?」
――神崎あかね。同じ『嫌われ者』の同級生で、工藤茂春のまるで独裁的なやり方が気に入らず、私のグループへとやってきた女子だ。
……同じように、彼のやり方が気に入らずに私の元へ来る人も多い。というか、直接的に嫌われてこちらに来た人よりも多いような気がする。
「……私は良いわ。少し、一人にさせてほしい」
気分の乗らないその申し出を、私はきっぱりと断った。
強くなる事に何の意味があるのか、全く理解できなかったからだ。
魔族との戦いの為に私たちは呼び出され、次の戦争までに私たちは強くなって、戦いに勝利しなければならないと、そう聞かされた。
――だからどうしたと言うのか。この世界の事なんて知った事じゃないし、あんな人たちに協力する気なんて起きる訳がない。
だから、もうどうでも良かった。故に、私は――
ステータスをチェックする為に使う、携帯型の石版を制服のポケットから取り出すと、指を軽く当てる。
故に、私は《レベル1》――




