表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/151

16.魔人であっても変わらない

 思わぬ再会に、話したい事が山のようにあるが……ひとまずはこの一言だけで十分だろう。


「……おかえり、唯葉」

「た……ただいま、お兄ちゃん……っ!」


 元々、前の世界でも仲の良かった二人の兄妹は、二ヶ月ぶりの再会に――抱き合い、涙を溢す。


 再会を果たした二人だったが……積もる話は村へ戻ってからたくさんする事にして、まずは村へと帰ることにした。帰るまでが遠足とも言うし。



 ***



 ……そして、一時間ほどの道のりを経てついに、キリハ村へと戻ってきた。


 朝早くから出発したのに、気づけばもう夕方だ。昨日まで泊まっていた村唯一の宿で、今度は二人部屋を借りると、俺と唯葉は、――バタンッ!


 極度の疲れから、部屋に入ったその瞬間に、ベッドで倒れ込んでしまう。


 俺もあんな戦いの後だったし、唯葉もあの魔人に操られ続けて……俺とは比べ物にならない程に疲れているはずだ。


 村のみんなもきっと同じように倒れ込んでいるのかもしれない。それも、勝利の余韻に浸りつつ。



「……唯葉も気がついたらこの世界に?」


「うん。いつの間にか学校の教室じゃなくて、あの王国の城の中にいたの」


 唯葉も俺と同じで、ドルニア王国の奴らに召喚されたのだろう。……だが、気になる点がある。


「でも、何で唯葉だけこの村にいたんだ?」


「……それは、ね。私、スキルも弱くて、ドン臭くて。それで戦力にならないからって――」


「――まさか、捨てられたのか」まさか


 あの時の俺と同じように。邪魔だから捨てる。あの王国のやり方だ。


「……うん。それで、身元のはっきりしてない私じゃ仕事にも就けないし、生きていくには冒険者になって依頼をこなすしかなかったから、冒険者ギルドがあるクリディアを目指していたの」


「クリディア?」


 俺は一度起き上がると、バッグから大陸の地図を取り出す。……あった。この大陸のど真ん中にある、そこそこの大きさの街だ。


「この大陸には二つの国があるよね。そのどっちにも属さない中立の都市があるの。それが中立都市・クリディア。私が目指してた街だよ。その途中、この村に寄ったんだけど……」

 

 どうやらそのクリディアという街を目指す途中、このタイミングで運悪くあの襲撃に巻き込まれてしまったらしい。


「俺も同じ。つい五日前にこの世界に来て、その日に捨てられた。で、俺はずっと先の『リディエ共和国』ってとこを目指してた」


「……そうだったんだ。でも、お兄ちゃんはあの魔人を倒せるくらい強いのに、どうして捨てられたの?」


 ……俺は『味方弱化』のスキルの事を唯葉へ話す。


 他の人の足を引っ張ってしまうこと。だから、俺と一緒に行動していては、唯葉自身に危険が伴ってしまうということを。


「そんな事くらい、へっちゃらだよ。お兄ちゃんがそばにいてくれるだけで私は安心できるから」


「……そうか。俺もこのスキルのせいで一人だったから、唯葉がいてくれたら心強いよ。でも」


 あの時、村人たちと一緒に戦えたのは……たまたまだ。


 これ以上俺が誰かと一緒に戦って、このスキルが災いして味方に迷惑をかけてはいけない。だから、本当は唯葉にも一緒に戦ってほしくはないのだが。


 ……妹に対して。俺が前の世界でも、この世界でも、唯一心を許せる相手に、依存してしまう自分がいた。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 そんな俺に向かって、ベッドで倒れながら唯葉は優しく言う。


「そのスキルがどれくらい弱くなっちゃうのかは分からないけど、()()()()()()()()()()()()()()()、ス()()()()()()()()()()()()()()。元に戻っちゃうようなものじゃないかな」


 ……ちょっと待て。その紅い目は後遺症なんかじゃないのか?


 ……あの魔人を倒して正気を取り戻し――みんな、元の人間に戻った訳じゃないのか!?


「だから、村に帰ってくる途中、まるで私の体じゃないみたいに体が軽かったの」


 いやいや、嘘だろ? 唯葉は――これからもずっと、人間ではなく『魔人』として生きていかなければならないのか?


 いや、まだそうと決まった訳じゃない。俺は急いでバッグから石版を取り出すと、


「唯葉。この石版に触ってみてくれ」


「お兄ちゃん。私が人間でも魔人でも、私は私。梅屋唯葉。それだけは変わらないんだよ」


 そう言いながら唯葉は石版に触れると――



【梅屋 唯葉】

《レベル》12

《スキル》状態付与

《力》84

《守》64

《器用》113

《敏捷》79



 ――何だこれは!? まだレベル12にも関わらず、もう三桁のステータスが存在している。


 俺がレベル40くらいの時に村長に見せたあのステータスですら、あんなに驚かれたのに。こんなのを見せたら、一体どうなってしまうのか?


 ……魔人に改造されたのが原因だとしたら、まさかこの村の女性全員がこんなステータスなのか!?



「……でも、そうだよな」


 俺は、あの時アニロアにこう言った。『まだ人間とか魔人とかにこだわっていたのか』――と。


 例え魔人であっても唯葉は唯葉だ。……この世界でたった一人の、俺の妹なんだ。その事実は変わらない。


「むしろ、ドンくさい私がこうしてお兄ちゃんの役に立てるかもしれない……って考えたら、魔人になったのもラッキー、だったのかもしれないね」


 純粋な笑顔を向けてくる唯葉を見て、俺は。――やっぱり、涙を溢さずにはいられなかった。


 唯葉は何もしていないのに捨てられて、挙句に魔人なんかにされて。――一体、唯葉が何をしたって言うんだ。


「くっ、クソッ……、やっぱり、俺は……耐えられないよ」


「……お兄ちゃん……」


 唯葉は立ち上がると、情けなく泣きじゃくる俺を抱きしめた。


「私はここにいるよ。だから、泣かないで」


 触れたその体の温かみは……魔人であったとしても、確かに俺の大好きな妹……唯葉の物だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 状態付与…… 人間の状態を自分に付与とか味方弱体の効果を相手に付与してデバフみたいに使うとかできるのかなw
[良い点] 主人公と妹ちゃん!良かった良かった! [気になる点] 今思いつきましたよー!…主人公のスキルの解消方法をもうひとつ!…そのなも反転スキルです!…これならデバフをバフに…デメリットをメリット…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ