新・終章 世界結合、その果てに
ある日。魔王と呼ばれる存在――プレシャ・マーデンクロイツによって、二つの世界は繋がった。
突然現れた、互いの世界からすれば『新世界』である、交わり合ったもう一つの世界に、一時は大騒ぎになっていたが、それも次第に落ち着いてきた。
一方の世界で続いていた自然災害に疫病なども、まるで今までのが全て夢であったかのように収まり、もう一方の世界でのテロ騒ぎなども収束し、異能の力がやがて普通になっていき……二つの世界には平和が訪れた。
今では互いの世界間で、文化や知識の交流も活発になってきている。
片方の世界からは『魔法』『スキル』といった独自の法則が持ち込まれ、もう片方の世界からは『科学技術』が持ち込まれ、互いに入り混じった。
科学と魔法、二つが共存する時、人類は大きく発展する。やがて、世界は次なるステージへと昇華する。それが『管理者』の恐れていた事なのかもしれない。
***
時は流れ、世界が繋がっていることそのものが、当たり前になった頃。
……人間はもちろん、寿命の長い魔人さえ、繁栄したこの世界で何代も続いていった。そんな世界の片隅に一人、涙を流す者が居た。
「梅屋正紀、梅屋唯葉、工藤茂春、水橋明日香。お前達のお陰で、この世界は……」
世界を飲み込むほどの大爆発と共に、世界を守り抜くと共に消え去った四人。それを間近で見ていた彼女の呟きだった。
魔族の王である彼女の寿命は、一般的な魔人の何十倍、もしくはそれ以上かもしれない。とにかく、途方もなく長い。
あれから何千年と経っただろうか。その間、彼女は一度たりとも忘れた事はなかった。四人の名前、四人の顔、声、姿を。
そして、彼女はその名誉を永遠と語り継ぐ。もし、いつか寿命を迎えたとしても――それから何万年、何億年とでも。この世界へとその名を刻み付けるかのように。
「……本当に、すまなかった。我にもっと力があれば。お前達に頼り、巻き込む事も無かったというのに」
何度、謝罪の言葉を口にしただろうか。
「我は――絶対に、お前達が守ってくれたこの世界を二度と壊させはしない。例え、神が攻めてこようとも。必ず守り切ってみせる。あの時のお前達のように――」
彼女は、あの日から誓った。何があってもこの世界には傷一つ付けさせないと。
それが、命を掛けて守ってくれたあの四人の、想いを受け継ぐ事ができるのなら。
――世界の結合者にして、未来永劫を守る魔王。プレシャ・マーデンクロイツ――
***
「……プレシャ……」
とある魔王の涙を流す姿を、一方的に眺める者がいた。それは、世界の外側から。
「……せめて、伝えられたら良いんだけどね。『こっちは元気にやってる』って」
「そうだな。でも、『管理者』は原則、世界に介入してはいけない。四人で決めた事だ」
管理者が不在となり、世界の存続が危うくなった時。不在となった枠を引き継ぐ形で、新たに四人の管理者が誕生した。
……そもそも、管理者を務められる存在が、前任と同じ権限を持つ彼らしかいなかった。そして、管理者を殺したのは同じく彼らだ。最後まで責任を持つのは当たり前の事。
人としての生き方を捨て、管理者という概念へと生まれ変わった四人は、元居た世界はもちろん、それ以外の世界全てのバランスを保つため、達観していた。
最低限、必要な管理だけは受け持ち、あとは世界に委ねる。それが四人で出した結論だ。
「そうよ。例え世界がどんな結末を迎えようとも――その世界に暮らす者を信じる。そう決めたじゃない」
「……そういやそうだったな。そういや、あれから何年続けてるんだ?」
「ここにいる以上、時間に意味なんて無いさ。ただ世界がある限り、使命を全うする。それだけだ」
これから何万年、何億年と。彼らが守ったこの世界の終わりを見届けるまでは、『管理者』として。彼らは外側から、見守り続けるだろう。




