149.いるだけ迷惑な最強勇者
(クソっ、止めないと。……でも、この爆風を耐え凌ぐのに精一杯で、口を開くなんて無理だ……)
耳に入ってきた『管理者』の紡ぐ声。それは、世界の破壊が止まらない事を示している。
『管理者権限:最終命令・【25%】完了』
(開け、口を。まだ間に合う。世界が完全に破壊される前に――)
『管理者権限:最終命令・【50%】完了』
(紡ぎ出せ。この状況を打開できる命令をッ!)
『管理者権限:最終命令・【75%】完了』
(何故言葉が出ない。権限を持っている今、簡単な事のはずなのに。……何故ッ!!)
『管理者権限:最終命令・【100%】正常終了』
共に、白い爆発さえも消え去り――そこで俺が目にしたのは。
どの方角を見ても。空を見ても、地面を見ても。真っ暗な空間が無限に広がる、まさに『世界の終わり』だった。
何もない空間に残されたのは、管理者、それと同等の権限を持つ四人だけ。
『世界は消え去りました。もう、貴方達が戦う必要も。生きている意味も、ここに存在する理由も全て消え去りました。
……さあ、その身に宿る権限を捨てて、早く楽になると良いでしょう』
どれだけ手を伸ばしても届かない、永遠に続く闇の先にて。金色に光る管理者の、変わらず無機質なその声は終わりを告げる。
しかし。
「まだ諦めてなんかないさ」
世界が消えたくらいで、諦める訳にはいかない。二つの世界を繋げる為に尽力したプレシャ。そして、二つの世界に生きる人々の想いを背負っているのだから。
「みんな。力を貸してくれ」
「――もちろん」
俺の叫びに、水橋明日香が応える。
「物質錬成:構造をも壊せる剣。受け取りなさい、梅屋君ッ!」
俺に向けて渡されたその剣は、虹色の光を放つ。管理者の放つ金色が、安っぽく感じてしまうほどに。
「お兄ちゃん。受け取って」
続けて、唯葉が応える。
「状態付与:|失われた世界を取り戻す力」
唯葉が俺の身体に触れると、全身に力が湧き上がり――そこから虹色の光が放たれる。無限に広がる闇をも照らすほどに。
「梅屋正紀。俺の手を掴めッ!」
俺は、工藤茂春の伸ばしたその手を、がっしりと掴む。
「超速飛行:|その速度は闇をも超える《エクシード・ダークネス》」
彼の叫びと共に――闇の奥、さらに向こう側。どれだけ手を伸ばしても届かないその場所へと、闇を超えて到達する。
そして、『梅屋正紀』と『管理者』は向かい合う。
『貴方達は全てを失ったはず。それなのに。どうしてそこまでして抗えるのですか。理解が出来ません』
「それは……俺たちが『感情』を持つ、人間だからだ。機械のようなお前には分からないかもしれないが」
俺は、みんなに託された全ての力を解放し、叫ぶ。
「味方弱化:いるだけ迷惑な最強勇者」
共に戦うだけで周りを弱体化させてしまう、このスキル。
その代わりに手にしたのは、スキルでも魔法でも何でもない、小細工なしの『ステータス』という力。
これが、ハズレスキルだと笑う者だっているかもしれない。邪魔だと追い出す者だっているかもしれない。
一人で戦う前提に手に入れたこの力に、皆から託されたこの力が合わされば――その瞬間だけでも『最強の勇者』にだってなれるのかもしれない。
「はああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
そんな彼が放つ、虹色の斬撃は、金色の光をも塗り替えて、真っ黒に染められた世界に再び『色』を与えていく――




