145.魔弾を穿つは闇の少女
「ってことは……別の場所でも『カミサマ』が?」
「そう考えるのが妥当だと思う。だから一緒に飛んだのに二手に分かれてしまった、ってね」
いつまで経っても、二人がやってこないのが証拠だろう。つまり、今回は二人で撃退しなくてはならない。あの、世界を一瞬で消し飛ばしてしまうような敵を。
しかし、ここまで来たのだから、やるしかない。二人は準備すると共に――空が、裂ける。
「……来るわッ!」
「うんっ!」
裂け目から現れたのは――黒髪の、まだ年端もいかないような、小さな少女だった。
しかし、彼女もきっと今まで現れた敵のように、規格外の力でこの世界を破壊し、世界の結合を阻止しようとしてくるのだろう。
『終焉のカウントダウンは始まったの。この魔弾が全て放たれし刻が、この世界の終わりだよ』
弱々しく、小さな声でそう呟いた少女。同時――ババババババババババッ!! 無数の、黒く禍々しい銃弾が次々と生み出されていく。
「……今までの『カミサマ』とやらよりも一段とブッ飛んでるわね……」
「前みたいに、一発でも地面に触れさせたら大変な事になるよね……。水橋さん、協力して全部撃ち落とそう」
「了解。――『物質錬成』」
こちらも、無数の銃弾に対抗するように、リロード不要のハンドガンが彼女の右手に生み出される。
唯葉も、構え――いつ銃弾が放たれても、得意の雷撃で撃ち落とせるように、待機する。
『…………穿つ。穿つ。……穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つッ! 穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つ穿つッ!! 世界を壊す魔弾を、穿つ……ッ!!』
彼女の言葉と共に、禍々しい魔弾が次々と、こちらに向けて放たれる。
「――『サンダー・シュート』ッ!」
唯葉の雷撃が、一度に数十もの魔弾を撃ち抜く。
「こちらは任せて。――全て撃ち落とす」
パンパンパンパンッ!! 水橋も負けずに、その右手のハンドガンを構え、次々と放たれる魔弾を、こちらも弾で撃ち抜く。
――ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババッ!!
魔弾、銃弾、雷撃――色々な飛び道具が入り乱れる。次々と放たれる魔弾に、何とか対応するのが精一杯。少しでも気を抜いてしまえば、魔弾を取り逃がしてしまう。
全神経を集中させて、次々と撃ち落としていく。が、
「……まずッ、外した……ッ! 避けて、唯葉さん――」
水橋の放った銃弾が魔弾に向かうが、そのスレスレを通り、命中することはなかった。
彼女の言葉は途中で遮られ――
ゴオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
激しい音と共に、地面が抉られる。一度のミスは、次々と他のミスも誘発する。隙のできた、その間にも次々と魔弾は地面に撃ち込まれ――
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!
さらに一撃、もう一撃。魔弾が地面へと触れるたびに、大地はボロボロになっていく。
衝撃で吹き飛ばされた水橋は、過去の様々な戦いを通してある程度レベルは上がっているものの、あの爆発で無事でいられるはずはなかった。
地面を転がされ、そのまま意識を失ってしまう。
「――水橋さんッ! ……ここで仕留めないと……」
幸い、魔弾は唯葉や水橋を狙わず、この大地を破壊し尽くそうとしているようだった。……倒すまでもない、と言われているようなものだ。しかし、唯葉はそれを素直にラッキーであると受け取っておくことにした。
「……直接、あの『カミサマ』に攻撃すれば……」
唯葉は、これ以上ボロボロになっていく大地を見ていることはできなかった。首を横に振り、気合を入れ――
「――『テレポート』ッ!!」
同時、唯葉の姿がパッと消える。再び現れたのは、魔弾を今も放ち続ける黒髪少女の背後。
もう、ここまでボロボロにされてしまったんだ。もう気にする必要もない。
「――『サンダー・ブラスト』――ッ!!」
大地をもえぐれるであろう、まるで爆発のような雷魔法。ゼロ距離から放たれるそれは――『カミサマ』であっても、その圧倒的威力で消し飛ばす。
――ゴオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォッ!!
爆発は、魔弾を放つ少女をも飲み込んでいき――
***
見渡す限りの草原は、クレーターだらけの荒地と化してしまう。
そこに一人立つ彼女、梅屋唯葉は、意識を取り戻した水橋明日香の元へと駆け寄った。
「……うっ……『カミサマ』、は――」
「……もう大丈夫。戦いは終わったから」




