144.剣を振りしは光の少女
「水橋も来ないな……。ってことはだ。まさかと思うけどよ……」
「離ればなれになった。……俺たち二人で、これから現れる『カミサマ』に対抗しなきゃいけない……って事だな」
それに。離ればなれになったということは……離ればなれになった先、唯葉のいるであろう場所にも、こことは別のカミサマが現れるかもしれない、とも考えられる。
向こうはどうか分からないが……こちらは何もない、広い草原。前とは違って、周りを気にせず戦えるのは良いが……果たして、たった二人であのクラスの敵を相手に、対抗できるのだろうか。
「……来るぞ!」
「ああ」
空が裂け、そこから現れたのは――
『へえー。ここが《アクルトアス》ですら壊せなかった世界かあ。とてもそうとは思えないけれどなあ』
そこへ現れたのは、これまでと同じく人間に見た目の近い、金髪を少し伸ばした、活発そうな少女だった。
そして、これまで戦ってきた『カミサマ』に比べて、どこか人間らしいというか……話が通じそうな、そんな相手だった。
初めての話し合いが出来そうなチャンス。試してみる価値はあった。
「……聞きたいことがある」
『ん? なんでこんなところに人が……。あっ、そっか。キミたちがアクルトアスを。まあいいや、聞きたいことって?』
「何故世界の結合を止めようとするんだ? ただ、滅びようとするこの世界を救おうとしている。それだけの話だろう」
『イレギュラーは排除しろって、上からの命令だからねえ。それにキミたちだって、他の世界の存在を危険にさらしてでも生き残ろうとしてるんでしょ? だったら文句を言える立場じゃないんじゃない? まあ、やめろとは言わないよ。ただ力尽くで止めるだけだから』
「……来るぞッ、工藤!」
「分かってる。話し合いはムダみてえだなッ!」
二人は同時、飛び上がる。その瞬間、二人の立っていた地面は割れる。
かつては敵として戦った二人は、二つの世界を守る為に今、共闘する。
『味方弱化』、そのハズレスキルさえ、世界を壊そうとするカミサマの前には意味を成さない。ステータスが減ろうが、増えようが、あの圧倒的な存在を前には無意味。
アレを倒せるとすれば、『世界を守る』という意地と、『神殺し』の力だけ。
「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」
俺と工藤は、同時にその剣を振りかざす。
対する、『カミサマ』は――光の剣を生み出し、対抗する。
空気さえも刻むような、そんな音が響く。それでも、俺たちは剣を握り――戦い続ける。
***
『――『マジック・コンバータ』……《力》ッ!!』
俺は、宿る魔力を全て力に変換する。そして、光剣を何とか折り砕くが――砕かれた光は、再び剣の形を取り戻し、一撃振われる。
何とか避けるが、あの剣をどうにか出来そうもない。しかし、どうにかしなければ相手には近づくことさえままならない。
彼女は、ただこちらを見ているだけ。……どうにか、あそこまでたどり着けないものか。
「……くっ、梅屋。俺はもうダメだ……ッ! どうにか奴を止めて、くれ……ッ!」
その瞬間。何とか光剣を押さえ込んでいた工藤が、力を無くして地面へと吹き飛ばされる。
「く、工藤……ッ!」
俺は考える。圧倒的なその力を突破できないのなら。……突破する必要もないんじゃないかと。一か八かの賭けにはなるが……
「――『マジック・コンバータ』……《守》」
一秒でも長く耐えられるように、俺は魔力を防御力へと振り直す。
そして、俺は――光剣から剣を離し、その攻撃を一身に受け止めた。
身体が引き裂かれる感覚に襲われる。が、俺はまだ動くことができる。何度も何度も、後からこちらへやってきたもう一本の光剣にも切り刻まれながら、俺は少しずつでも『カミサマ』の元へと近づく。
そして、視界に捉えたその少女の顔は――『驚き』で溢れていた。
『あり得ない。人間の戦い方じゃない。いくら何でも……狂ってるよ』
「…………喰らえ。『神殺しの一撃』を」
俺は、最後の力を振り絞って――その剣を一気に振るう。
スパン――ッ!! 光剣を操る『カミサマ』、その身体は真っ二つに裂け――そのまま消えていく。
『まさか、あたしが負けちゃうとはね。でも、今戦っているのはあたしだけじゃない。双子の妹も別の場所で戦っているからね。……きっと、上からの命令は果たせる、は、ず――――』
彼女が消えたと同時。俺の意識も消え――
バタンッ!! 空から降ってきたのは、光剣に引き裂かれ、グチャグチャになってしまった一人の死体。
「……すまん、梅屋……。すぐに雫川の元に連れて行くからよ。待っていてくれ……」
工藤茂春は立ち上がり、彼の遺体を拾うと――それを抱え、スキル『超速飛行』で、元の世界へと帰るアテのある場所へと目指して飛んでいく。……元の世界へと帰せる力を持つ魔王、プレシャの元へと。




