140.違和感
「――『物質錬成』……レイフィロア」
「……それって、元々俺が使ってた剣じゃねえか!?」
「あら、そういえばそうだったかしら? でも、あれは梅屋君にポッキリと折られたんじゃ――」
伝説の魔剣、元々は工藤茂春が使っていたはずのその剣を生み出した、水橋明日香は笑いながら。
「なんてね。私に剣は使えないわよ。使いなさい」
「……魔剣、レイフィロア。これがあれば、俺も……。ありがとう」
投げ渡されたそれを、工藤はガシッと掴み取る。あれ以来、魔人となり、修行を重ね――あの時とは比べ物にならないほどに強くなった。
今なら、この魔剣を最大限に活かせるはず。
「私はやっぱりこれね。――『物質錬成』」
そう言い、ずっしりとした狙撃銃を生み出すと、そのまま構える。
「俺も、準備はバッチリだ」
唯葉が稼いだわずかな時間のおかげで、なんとか俺たち三人の準備は整った。
「魔剣・レイフィロアを手にした俺は無敵ッ! うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
最初に突撃したのは、工藤茂春。ミスリルの輝くその剣先を、白いスーツを纏う男へと向ける。が、それは軽々とハンマーによって止められてしまう。
俺も続けて、工藤が受け止めるハンマーの、その根本を断ち切ろうと、持ち手部分を剣で切り裂こうとする。一気に近づき、剣を振り下ろすが――傷一つつかない。
『カミサマ』が振るう武器なのだから仕方がないのかもしれない。が、俺たち四人には『カミサマ』をも恐れさせる、『神殺し』の力があるらしい。直接、この攻撃を当てられれば――。
唯葉と水橋が、同時に雷撃、銃弾を男に向けて放つ。
それは真っ直ぐに彼を貫こうとするが――当たらない。ギリギリで避けられてしまう。
俺は、諦めずに今度は彼を直接切り刻もうと、間合いを詰める。
何度も、何度も剣を振るうが、感触は一度もない。いくら神殺しの加護があろうと、全てを避けられてしまえば意味がない。
魔剣、レイフィロアではハンマーを壊せないと判断した工藤も、一度離れ、今度は彼自身を切ろうとするも、それさえ届かない。
『カミサマ』と『人間』、根本的な速さが違うのだった。
雷撃、狙撃弾も彼を狙い続けるが、当たる気配はない。
俺は、ここまで隠していた『秘策』を解放する。
「――『マジック・コンバータ』……《敏捷》。うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
俺は、魔力を全て、敏捷に割り振る。不規則に、急激に上がったその速度は――相手の『カミサマ』の予測さえも超えて、グサリッ!! 胸元に一撃。剣が突き刺さる。
『……ぐああッ! あり得ん、貴様らにこの俺が殺、され……ッ』
「やった……のか」
『神殺しの加護』を纏った一撃は、確実にカミサマへとダメージを与えている。
彼の表情には、苦しみと共に――笑みが溢れていた。
そんな彼の違和感に、気づいた時には――もう遅い。
彼が意識を失ったと同時、世界を壊す槌『アクルトアス』が、地面に向けて放たれていた。
直後。激しい衝撃と共に、意識は消え――




