138.Wave1:次なる戦場はこの街で
魔王・プレシャによる、世界と世界の結合、その術式から一週間経った。
俺と唯葉は、日本へと戻り――些細な変化がありつつも、そこまで変わらない。そんな日常を送っていた。
些細な変化、というのも。魔法やスキルがこちらの世界でも使えるようになったこと。と言っても、日常生活でこれらを使うことは少ない。まだこちらの世界では、魔法もスキルも存在しないはずの物なのだから。
せいぜい人に見られないところで唯葉の『テレポート』で瞬間移動したり、高いレベル、ステータスのおかげで普段の仕事が楽になったりとか、その程度。異世界のように、派手に魔法をぶっ放したり、剣で魔物を切り刻んだりなんてできるはずもない。
――そう、今は。
二人の兄妹が、ここ最近いつも身に着けているペンダントが、高く、耳に残るような警報音を放つ。
「『カミサマアラート』が鳴ったな……」
「……また敵が攻め込んできた、って事だよね」
二人は、顔を見合わせると……物置から、異世界で身につけていた装備品を取り出す。急ぎ、戦闘準備を整えた俺と唯葉は――
「確か、こうやって握る……んだったよな」
俺はとりあえず、このペンダントを渡された時に言われた通り、光を放つそれを右手で強く、握りしめてみる。唯葉も同様に、それを左手で握りしめる。
――ザザザザザザザザザザザザザザザザザザッ!!
周りの風景が砂嵐のように乱れたかと思うと、一瞬にしてどこか、別の場所へと立っていた。
しかし、そこは――あの『異世界』ではなかった。
「……? ここって、うちの近所……だよな」
飛んだ先には見覚えがあった。そこは、俺たちの住む街の中心部。ビルや商業施設が並ぶ場所だった。
「『カミサマ』の来る場所に飛ばされるんだよね。ってことは、まさか――」
「そのまさか、みたいね」
「プレシャの奴が言ってたけどよ……でも、本当にこっちで戦うことになるとはな」
唯葉の言葉に続くように、一足早く来ていた工藤茂春と水橋明日香が言う。
「こんなところで戦うことになったら……」
唯葉の考える通り。今も人通りの多いこの場所で、あの時のような戦いが起これば――ただでは済まないだろう。
前は何もない草原での戦いだったので、周りのことなどそこまで気にする必要もなかった。しかし、今回は違う。戦いが長引けばそれだけ周囲への被害も大きくなっていく。
とすれば、今回の戦いで求められるのは、勝つことだけではなく――
「速攻で終わらせないとな。誰一人、怪我をさせることなく」
「うん」「ああ」「ええ」……俺の言葉に、三人も続く。
おそらく周りからはコスプレか何かだと思われているのだろうか。周囲からの視線が刺さるようで痛いが――同時。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
大地を揺らすような音とともに、交差点のど真ん中、その上空が割れる。




