137.変わる世界
「――『テレポート』ッ!」
唯葉の詠唱と共に、周りの景色は一変し――そこは、俺たちの住む『家』の玄関だった。
「まさか、日本でも魔法が使えるなんてね」
そう。ここは異世界ではなく、日本。魔法なんて使えるはずもない場所。……であるはずだが、現にテレポートが成功している。
「異世界とここが繋がり始めてる、って事だよな」
考えられるとすれば、この世界でも、世界の結合が始まっているという影響しかないだろう。
同様に、俺たちの高いステータスや、スキルなんかも引き継いでいる。やろうと思えばビルですら倒せるだろうし、車よりも速く走れるこの足で、どこにだって行ける自信がある。
魔法が使えるということは、今までファンタジーの中だけの存在だった魔力が、ここでも実在するようになったということ。……あの術式をきっかけに、異世界も、この世界も、急激に変わっていくのだろう。これから一ヶ月、術式が完全に成功するまでの間に。
***
「そうだ、唯葉。ストレージから『石板』は出せるか?」
「うん。――『ストレージ・アウト』っ!」
異世界にいた頃。全ての戦いが終わり、気まぐれに冒険者として活動をしていたくらいには、もうレベルやステータスを気にする機会も減っていたが……
今回は違う。『カミサマ』と呼ばれる、規格外の敵を倒したのだ。それに、見ないうちにどれほどレベルが上がっているのか気になったのもある。久しぶりに、石板でステータスをチェックしてみることにした。
【梅屋 正紀】
《レベル》???
《スキル》???? 神殺しの加護
《力》????
《守》????
《器用》????
《敏捷》????
《魔力》????
【梅屋 唯葉】
《レベル》???
《スキル》???? 神殺しの加護
《力》????
《守》????
《器用》????
《敏捷》????
《魔力》????
「……なんだこれ。全然読めないな」
「それに……見たことのないスキルがある。『神殺しの加護』だって」
これは元々――じゃないよな。だとすれば、あの時。『カミサマ』とやらを倒したのがきっかけだろうか。
石板は反応するものの、数値はぼかされ、全て読めなくなっている。スキルの欄も、元々あった『味方弱化』、唯葉なら『状態付与』も面影はあるが、やはり読むことはできない。
しかし、その横に――石板に浮かんだもので、唯一読める『文字』があった。それが、『神殺しの加護』というスキル名だった。
石板では、スキルの効果は確認できない。このスキルは一体、なんなのだろうか。『加護』と名のつくくらいだし、プラスのスキルではある……はずだ。
そういや、キリハ村の村長が前に言っていた。『スキルというのは本来、メリットがあるはずの物なのだ』と。デメリットしかないと思われた『味方弱化』でさえ、ステータスの伸びが良くなるというメリットがあったのだから。
そもそも、世界の結合、それによって現れる『カミサマ』という存在、その全てがイレギュラーな状況だ。誰に聞いたところで、答えられる者はいるはずもない。
「これからの戦いで、見つけるしかない……みたいだな」
スキルがあろうと、なかろうと。やるべき事は変わらない。これから一ヶ月、何としてでも守り抜いて、二つの世界が繋がるのを待つだけだ。




