136.結合の始まり
「術式は成功した。が、まだ結合自体は不完全なのだ。二つの世界が完全に一つに繋がるのには、あと一ヶ月ほど掛かるだろう」
術式を終え、次はマーデンディアへと向けて車で移動を始めた俺たちは、プレシャから詳しい話を聞いていた。
「そして、これからの一ヶ月で、さっきのような『カミサマ』がさらに攻めてくる事が予想される。この世界にはもちろん、お前たちの住む世界にも影響が及ぶかもしれない」
「それを全部守り切って、やっと俺たちの仕事が終わり……って事か」
「そういう事になる。……これから、今回以上に厳しい戦いも訪れるかもしれない。それでも。我だけではどうしようもないのだ。どうか、力を貸してほしい」
「もちろん、協力するよ」
プレシャには、唯葉の事だったり、第三次召喚勇者の件だったり、元の世界へ帰る時だって、何度も助けてもらってきた。今度は、俺たちが助ける番だ。
それに、世界の結合が終わればこの異世界だって、自分たちの世界という事にもなる。ならば、これは他人事ではないだろう。
唯葉、工藤茂春と水橋明日香も、うんと首を縦に振る。
「感謝する。我はあの術式で魔力を使い果たしてしまってな……あまり力になれそうにない」
「世界と世界を繋ぐんだもん、しょうがないよ。どれくらい魔力を使うかなんて、想像も付かないし」
魔王・プレシャを除けば、この場で唯一の魔法の使い手である唯葉がここまで言うのだから、魔力の概念さえよく分からない俺には想像も付かないほど消耗してしまっているのかもしれない。
それでも、魔王である彼女がその素振りを表に出すような事はなかったのだが……
プレシャは、気を取り直し。
「さて。皆にこれを渡しておく」
そう言い、取り出したのは――黒い石がはめこまれた、全員分のペンダント……のようなものだった。一人ひとつ、プレシャは手渡していく。
「……これは?」
「これは『カミサマアラート』。我がこの戦いに備えて作っておいた魔道具だ。別次元からの敵……つまりはカミサマが現れれば、光と音で知らせてくれる。
そして、このアラートが鳴っている状態で強く握りしめるだけで、敵の元へと一瞬で移動できる、という代物だ」
まさに、これから一ヶ月の戦いの為だけに作られた、そんな魔道具だった。プレシャの世界を救うという強い信念、その本気さがひしひしと伝わってくる、そんな『ペンダント』……だった。
***
マーデンディアへの帰路の途中。プレシャは車を運転していると、唐突に唯葉へと何かを渡そうとする。
「ところで唯葉。お前ならこの魔法も使いこなせるんじゃないか?」
「……魔法?」
そう言い、プレシャが唯葉に手渡したのは、少々乱雑に文字が走り書きされた『メモ』だった。
唯葉は受け取ると、それを黙読する。少しして、唯葉は――
「これ、もしかして……元の世界に帰る魔法?」
「既に部分的な結合は始まっているから、正確には『世界を阻む壁を超える』という表現の方が近いな。これが使えればいつでも、お前たちの住んでいた場所へと戻れるだろう」
マーデンディアの魔王城だったり、ヒューディアルの宿屋なんかに泊まっても良いが……やはり、自宅が一番休まるだろうし、この際辞める覚悟でいたバイトにも行けるかもしれない。もし唯葉がこの魔法を使えるとしたら、かなり便利だが……
「唯葉。その魔法、使えそうか?」
「うん。そんなに難しくないし、すぐにでも使えそう……かな?」
「世界は既に、微力ながら繋がってはいるからな。召喚術式やら大掛かりな事をしなくとも、前よりは簡単に行き来は出来るだろう」
まさか、またすぐに日本に帰れるとは思ってもみなかったので、ちょっと予想外だった。




