133.滅びゆく世界
気が付くと、そこは――ドルニア王国の地下、勇者召喚の儀式場だった。
そこに倒れる、俺に向けて……一人の声が飛んでくる。
「来てくれると信じていた、梅屋正紀。久しぶり……だな」
起き上がって顔を上げると、そこには――あの日、夢にも出てきた魔王。プレシャ・マーデンクロイツの姿があった。あの言葉は本物だったらしい。
「プレシャ……!」
「あれから元気でやっていたか? すっかり平和ボケしてしまったような顔をしているが」
「ああ。『日本』――俺たちの住む世界じゃ、ここみたいに戦うことだって無かったしな……。ところで、他のみんなは?」
「皆はもうとっくに起きて先に行っている。さあ、時間がない。急ぐぞ」
どうやら、また俺は長いこと意識を失ってしまっていたらしい。最初にこの世界に来た時も、日本へと帰ったときも、毎回目を覚ますのが最後で迷惑をかけてしまっている。申し訳ないな……
俺は、プレシャに連れられるがままに、その儀式場を後にする。
***
ドルニアの王城はすっかり廃れてしまっているらしい。儀式場以外の中は手つかずで荒れ果て、人の気配さえない。
「街の外に車が停めてある。皆もそこで待っているはずだ。急ぐぞ」
「プレシャ。色々と聞きたい事があるんだが……」
「こちらも話さなければならないことがたんまりとあるのでな。それは車の中でゆっくりと話させてもらおう。少々、長くなるものでな」
そんな会話を交わしながら、城を出た俺は――絶句した。
「……ちょっと待ってくれ。ドルニアは順調に復興が進んでたんじゃないのか?」
目の前に広がっていたのは――小さな民家や建物は崩れ、瓦礫の山を築く。ぽつり、ぽつりと人は歩いているが、かつての活気は完全に失われてしまっている。
日本へと戻る前に見た、復興計画が着実に進むあのドルニアからは考えられない程に、街は再び寂れてしまっていた。あんなに人で溢れかえっていた大通りも、今ではこの通りだ。
「伝染病が蔓延してからは、人々は生きていく上で必要最低限しか出歩かなくなった。トドメと言わんばかりに何度も訪れた、未曾有の大災害によって各地はボロボロにされた。言っただろう。『世界が滅びようとしている』と」
『助けてほしい』。夢を通して伝えられたプレシャの言葉から覚悟はしていたが……想像以上だった。予想の何倍も酷い惨状だった。
「俺たちに、どうしろって言うんだ……どうすれば、この世界を救えるんだ……ッ」
数多くの戦いを収め、やっと取り戻した平穏を見てきたからこそ……悲しみと悔しさの感情が、際限なく湧き上がってくる。プレシャは、
「策はある。だからこそお前たちをこの世界に呼んだのだ。その辺りも含めて移動中に話そう。急ぐぞ」
それだけ言うと、プレシャは寂れた大通りを走り始めた。
この惨状を見て、一刻も早くプレシャの言った『策』とやらで何とかしなければ。俺も、プレシャの後を追い、走り始める。




