128.突然の選択
「さて、わざわざ我が魔王城までご足労頂き感謝する。今日は『大切な話』があり、皆を集めたのだ」
魔王城へと集められたのは、
第一次召喚勇者――梅屋唯葉や七瀬裕美を筆頭に、召喚勇者たちの中では一番長くこの世界にいる、ごく普通の中学校のクラス『一年二組』。
第二次召喚勇者――梅屋正紀に工藤茂春、水橋明日香といった実力者が多く揃っているのがこのクラス『二年四組』。
第三次召喚勇者――かつて、七人のSランクがいたが、今は一人、雫川実里だけが残り、全員例外なく、クリディアの教会で働いている……とある高校の『三年一組』。
数々の戦いを経て、その数は半分ほどに減ってしまったが……今も生き残る召喚勇者たち全員が、この魔王城の一室へと集結した。
そんな彼らへと、魔王プレシャは――
「単刀直入に聞こう」
彼女は続けて、彼ら召喚勇者にとって、その後の運命を左右する言葉を言い放つ。
「――元の世界へと帰りたいか」
それは、突然訳も分からずにこの世界へと呼びだされて、誰もが思っていたであろう事。
『元の世界へと帰る――』
そんな言葉を聞いた彼らに、動揺とざわめきが浮かび上がる。そんな彼らにも構わず、プレシャは話を続けた。
「我は、お前達が元々住んでいた異世界――『地球』とここを繋げる魔法を創り出した。……ただし、それには膨大な魔力が必要だ。我の力を以ってしても一度きり……数十分ほどの時間しか保たないだろう」
つまり。元の世界へと帰れるチャンスは一度きり。それまでに、帰るのか帰らないのかを決断しなければならない。
……ただ、と。プレシャは後から付け足して。
「我としては……お前達は全員、元の世界へと帰るべきだと思っている。元々はこの世界にいるはずの無かった存在だ。それに、三年も経ってしまった今、今更と言われるかもしれないが……元の世界には、お前達を心配する者が沢山いるのだろう?」
しかし、この世界で積み重ねた思い出――良い思い出も、悪い思い出も、色々とあるだろう。この世界での出会い、別れだって。……それだって、彼らにとって大切なはず。
……そんな事、プレシャには分かっている。
……その上で。
「なあに、心配するな。我を誰だと思っている。……『魔王』だ。我は必ず――この魔法を更に進化させて、再び元の世界へと戻ったお前達がこの世界へと来られるよう、我は研究を続ける。 ……我を信じて欲しい。だから、その時が来るまでは、お前達がいるべき世界で、待っていてくれ」
魔王――プレシャ・マーデンクロイツは、彼らへとそう言い聞かせると、一度話を終える。
***
嵐のような質問に答え終えて、役目を終えるプレシャ。
突然の選択に、葛藤する召喚勇者たち。
……そんな、はっきりしない状況のまま、魔王城での会は終了する。
一週間後。再びヒューディアルの『あの場所』で、彼らは集結する。――元の世界へと続く道は開かれる。




