126.街の外れの教会
クリディアの街の外れには、小さな教会がある。一見、どこにでもあるただの教会だが……そこでは、一度死んでしまった人間を蘇生させることができるという、唯一の場所だった。
どんな死因でも、例外なく生き返らせる――といった、都合の良い話ではないのだが……。
「――『死者蘇生』っ!」
黒い修道服を纏った一人の少女がそのスキルを唱えると――不慮の事故で息を引き取ったはずの男は、なんと、息を吹き返した。それはまさに『奇跡』そのものだった。
Sランクスキル――『死者蘇生』。死んだ者を生き返らせることができる、Sランクという名に相応しいスキル。
ただし、病気や寿命などはこのスキルだけでは取り除けないので、決して万能という訳ではない。
そして、そのスキルを持つ雫川実里を含めた、第三次召喚勇者の生き残りは――あの事件の『精算』の為、この教会で働くことになっていた。
……そう聞くと、悪く聞こえるかもしれないが……少なくとも彼女らは、食事も出るし給料も少なくはあるが出る。休日は好きに出かけることが出来るこの環境が『罰』だとはとても思えなかった。
息を吹き返した男の傷口に包帯を巻き、やがて意識を取り戻したその男と、彼を連れてきた女性に向けて、雫川実里は言う。
「これで大丈夫。しばらくすれば意識も取り戻す事でしょう。……油断した時に事故は起こります。気をつけて下さいね」
「ありがとうございます……『女神様』ッ!」
巷では『女神様』だとか、そう呼ばれているが……実際は、仲間の暴走も止められず、多くの犠牲を生んだ張本人。咎められても、感謝されるような立場であるはずがないのに。
「奥の部屋が空いています。そこでしばらく、安静にさせておきましょう。すぐに意識は戻ると思いますが……怪我自体を治したわけではありませんから」
そう言うと、担架に乗せた男を、教会の奥……ベッドのある療養室へと連れて行く。彼を連れてきた女性も、追うように歩き出す。
***
「千代ちゃん、事務仕事は終わったの?」
「うん。パソコンが来てから、本当に作業が捗るよ〜」
「そういえば千代ちゃん、パソコンとか機械に強かったっけ……」
教会の仕事と聞いて、神に祈ったりとか、そういうイメージを抱いていたが……それは教会での仕事のほんの一部で、事務仕事から掃除、出張して除霊やその他色々な事を行ったりなど、仕事は幅広い。
その分、単純作業よりもやりがいがあって飽きない。ここで働くことは、苦痛どころか日々の楽しみにすらなっている。
「私はまだやることが残ってるから、千代ちゃんは先に上がってていいよ?」
「分かった。実里ちゃんも早くあがりなよー? 働くのは良いけど、ほどほどにね?」
そう言うと、彼女……佐々木千代は、休憩室の方へと戻っていった。
一人、教会に残された彼女は――
「……さて、あの人……そろそろ大丈夫かな。様子を見に行こう」
そう呟くと、修道服を纏う少女は……昼間にこの教会へとやってきた男女が休んでいる、奥の療養室へと向かう。




