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125/151

125.変わる時代の流れには

「ドルニアの復興計画は順調だ。……ああ、そこは現場の方に任せておいて問題ないだろう。…………分かった。では明日、再び連絡する。では」


 受話器を置くと、褐色肌の女戦士――今は、比較的平和になったこのヒューディアルで彼女が戦う事は少なくなり、人類のトップ……クリディアのギルドマスターとして、日々忙しなく働いている、レイン・クディア。


 元々はウィッツ・スカルドという男が担っていたこの立場に、ある日を境に突然立たされた彼女は、この立ち位置の重み、大変さ、あの男がどれほどすごい人間であったのかを痛感する。


 あの男が死に――そのまま流されるように託されたこの立場ではあるが、任されたこの仕事を放棄するわけにはいかないと、彼女は日々、必死に動き続けているのだ。


 平和な世の中になったとはいえ、あの大事件の爪痕や、平和であっても各所で起こるトラブルの対処だったり、やるべき事は山積みだ。


「ニール、ちょっと買い出しに行ってきてもらえるか? ちょっと手が離せない仕事があってな……」


「…………こちらもまだ仕事が――」


「――買い物のメモはあれだ……『けーたい』に送っておくから、よろしく頼んだ」


「……」


 こうして、小柄で銀髪の男――ニール・アルセリアは、半強制的に買い出しへと出かけることになったのだった。



 ***



 復興も進み、賑わいを見せるクリディアの大通りを歩く、一応ギルドのサブマスターを任されている彼は……メッセージのやり取りから電話、他にも『写真』というものを撮ったりと多機能な『ケータイ』とかいう、最近普及してきた小型の持ち運びができる便利な機械の画面を見ながら呟く。


「……便利な世の中になったものだな……」


 画面には、レインから送られてきた買い物のメモが映っている。面倒だなと思いつつも、放棄する訳にもいかず、渋々買い物へと向かう。


 三年前、魔石と魔人たちの技術がこの地にもらたされてから、この『ケータイ』以外にも、世の中はどんどん便利に変わっていった。


 今までは手作業で行っていたものが次々と機械へ置き換わっていったり、『車』という、魔力で動く乗り物が走るようになった。超が付くほどの高級品で、今はまだ日常生活で使うような人はいないものの、いつかは馬車と置き換わって、交通の要となることだろう。


 他にも、便利な道具が溢れかえる……豊かな世の中になった。これからもどんどん、暮らしが豊かになっていくことだろう。


 彼も、元々は最強の冒険者と呼ばれ、魔物と戦い続ける――そんな生活を送っていたが、今はもう魔物と戦ったりすることは無くなってしまった。冒険者という職は残るが、依頼は盗賊討伐や素材集めばかりになっていった。


 そんな世界に、彼は――嬉しくも、複雑な感情を抱いていた。


 色々便利になるのは良いことであるのは間違いないが、これほどまで一気に色々なものが増えると……何が何だか、混乱してしまうのである。


『ケータイ』の使い方を覚えたのだって、かなり最近の話だ。今でも完璧に使いこなせている自信はない。


「……とにかく、早く買い物を終わらせて戻らないと……」


 そんな変わりゆく世界の中で一人――彼はそう呟くと、買い物のメモが映し出された携帯端末を片手に、大通りを走り出した。

 

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