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124/151

124.とある街の小さな宿屋

 ドルニア領にある、小さな街の一角に立つのは、二階建ての小さな宿。


 その宿はたった二人の少女だけで回していて、今のところは、そこが街唯一の宿だというから大忙しだ。


「……神崎さん、そろそろ炊事を始めないと夕飯の時間に間に合わなくなるわ。一旦掃除は止めて、こっちを手伝って頂戴」


「分かった、今行くよー」


 黒髪を伸ばした少女、水橋明日香に呼ばれた赤髪の彼女――神崎あかねは、持っていた雑巾を一度置いて、毎日、お客さん全員分の料理を作っている広い厨房へと向かった。



 ***



「最近、やけにお客さんが多いわね……。ほぼ毎日、満室じゃないかしら?」


「ドルニアの王都の復興がついに始まるらしいよ。ほら、私たちが召喚されたあの街だよ」


「へえ……。あんなに大きな街なのに、今まで手が付けられて無かったのが不思議ね……」


「ドルニアの王都はほら、一番最初に戦いが始まった場所だし、避難もスムーズにいかなくて、ほとんどの人が死んでしまった場所だし……後回しにされていたらしいよ?」


 あの戦いが終結して、三年。未だ、全ての街が完全に元の姿を取り戻した訳ではなかった。


 まだ復興されていない村や街も多く、この大陸が元の姿を取り戻すのはまだまだ先のことだろう。


 二人があの戦い以降、移り住んで平穏に宿を営んでいるこの街も、復興の真っ最中だ。……戦い以前のこの街も、ドルニアとクリディアの中間で、一日休む為の宿場町として賑わっていたらしい。今でこそ、何もなくなってしまったドルニアへとわざわざ向かう人は少ないので、かつての賑わいは失われてしまったが……。



「とにかく、今日も美味しい料理を作らないと。料理目当てで来てくれるお客さんだって多いしね」


「そうね。期待を裏切る訳にはいかないもの。…… 今日も頑張りましょう!」


 数々の戦いを乗り越えた果てに手に入れた、平穏な日々。これ以上の戦いもなく、そんな時間がいつまでも続けば良いと、そう思う。


 同じ二年四組のクラスメートや、同じ召喚勇者たちもそれぞれ、思い思いの時間を過ごしているのだろう。そんな、平穏な時間がいつまでも――。



「今日のメニューは何にするの?」


「そうね……。シチューでも作ろうかしら。近くの村で、牛乳をたくさんおすそ分けしてもらったから」


 この宿では、他では食べられないような珍しい料理……二人の住んでいた元の世界ではよく食べられている料理ではあるが、そんな珍しい料理が食べられると、わざわざ遠くから足を運んでくる者もいるくらいだ。


 元々、前の世界でも料理をほどほどにしていた彼女らであったが……この世界で宿を始めて、さらに腕に磨きが掛かっている。今は、この宿屋をのんびりと、平穏に経営することが、二人がこの世界で見つけた生きがいなのだから。


 そう言うと二人は早速、調理に取り掛かる。

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