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119.知恵の原石

 雪の降り積もる中、俺と唯葉、レインの三人はひたすら登り続ける。


 頂上が見えてきたので、もう一息といったところだが……積もる雪に足を取られ、歩くペースは落ちてきている。


「……寒いな……。かなり厚着をしてきたつもりだが、それでも寒いぞ……」


 レインが、小刻みに震えながら呟く。


 普段の肌を大きく晒しているあの装備の上から、さらに防寒着を羽織っている。それでも、防寒着を貫通してくるような寒さに悶えているのは彼女だけではなかった。


「いくらステータスを上げても、寒さには対抗できないらしい……」


「炎属性の魔法も覚えておけばよかったかなあ……」


 その高いレベル、ステータスでも勝てない、見えない相手――『寒さ』に、苦戦を強いられていた。


 いくら『力』が高くても、『守』が高くても。敏捷が高かろうが、結局は人間。熱い物は熱いし、痛みは感じるし、辛い物は辛いのだ。


『守』のステータスで、気休め程度には軽減されているのかもしれないが……根本的にこのステータスは身体がどれだけ丈夫になるかであって、『守』を上げても、確かに高ければ低い時よりも痛みは微妙に抑えられるのだが……攻撃を喰らった際の痛みは普通に感じるのだ。寒さに関しても、それと一緒だ。


 さっさと登り切って『知恵の原石』を手に入れて一刻も早く帰りたいところだ。……幸いにも、


「流石に、この寒さにもなると魔物も現れないんだな……」


 この寒さは魔物たちにとっても脅威らしい。そんなおかげか、ほどほどに襲いかかってきた大小問わない魔物たちも、すっかり姿を現さなくなっていた。


「そうだね。あとは登り切るだけ」


 ここまで、多くの魔物と遭遇しては瞬殺で、魔物自体は大きな脅威ではなかったのだが、何度も何度も遭遇すれば、その度に足止めを喰らい、思うように進めなかった。


 寒さ自体は厳しいが、魔物に出会わないという事は大きい。この調子で頂上へと一気に登ってしまうことにした。



 ***



「見えたぞ、頂上だッ!」


 レインが、興奮気味に言い放つ。二人も長い登山についに終止符を打て、その長い道のりの先にあるものを見ることが出来ると思うと、興奮を隠せない。


 頂上から下を見ると、一面の雲海が広がっていて。その隙間から見えるヒューディアルは、小さすぎてあれが一体どこなのか、全く見当もつかない。


 そんな景色を噛み締め、三人は頂上にある『目立つもの』の元へと向かう。


 ――それは、虹色に光るクリスタルのような透き通る綺麗で大きな石が一つ、宙に浮かんでいる姿だった。


「……これが古文書に書き残されていた伝説の――『知恵の原石』か」


「……綺麗な石……!」


「だが……どうする?」


 その『知恵の原石』は、()()()()()()。魔族と分け合うというのは不可能ではないのか……?


 三人は、しばらく悩み込む。ここまできたからには、知恵の原石を持ち帰らなければならないが……。


 その時、レインはふと思い立ち――


「そうだ。魔族の皆だって、大切な資源をこちらに分けてくれると言うんだ。ならば、こちらも――」


 そう言い、レインは――キイイイィィィィンッ!!


 耳を突き刺すような高い音と共に――()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 突然のレインの行動に、二人は驚き――


「……何をやっているんだ!? 大切な物なんじゃ――」


 俺は、驚きを吐き出すように言うが、その瞬間。――あり得ないような光景をみた。


 切り裂かれた二つの原石。そのそれぞれの断面から――それぞれが修復し、元の形に戻っていく。


 ……つまり、()()()()()()()()()()()()()()。 


「なっ……これは予想外ではあったが……まさか、知恵の原石が二つになるとはな……」


「……もしかして、そういうことなんじゃない?」


 それを見た唯葉が、ふと口を開く。


「……魔族は知恵の原石を持ってない。そんな魔族に分け与えられるように。世界中に広げられるように、分裂するようになっていた……なんて」


 唯葉の言った推理は、正しいのかもしれない。これで、魔族にも、人間にも。この知性の原石が平等に分け与えられるのだから。最初から、こうするべきだった『アイテム』だったのかもしれない。


 一番驚いていたのは、真っ二つにした張本人のレインだった。


「……ともかく、これで魔族との取引に間に合った。……改めて、二人には本当にお世話になったな。あの会議の時から、何まで……本当に」


「気にしないで、レインさん。……それじゃ、やる事も終えたし、帰ろう?」


 そう言うと、いつの間にか知恵の原石を魔法『ストレージ』に入れていた唯葉は続けて魔法を唱える。


「――『テレポート』ッ!」


 ヒューディアル大陸最高峰『ゼル・マウンテン』の山頂から、三人の姿が一瞬にして消えた。

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