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117/151

117.小さなテントの中にて

 かなりの時間を歩き、後ろを振り返ればここまでの道のりが小さく見える。


「……高い所から見ると、こんなにも綺麗な景色なのか……」


 褐色肌の女戦士、レイン・クディアが、振り返ると広がるその景観を見て感動している。


 もう、軽く千メートル以上は登ったのだろうか。下に広がる地上は、綺麗な緑の草原が広がっており、所々には建物の集まり……つまり、街が見える。離れているのでよく分からないが、先の戦いによってそのどれもが無惨にも壊されている。


 そんな情景が燃えるような夕焼けによって照らされ、さらに壮観なものへと変貌していた。


 やっと山頂が見えてきたのだが、まだまだ距離はある。さらに、少し進めば雪が積もり始めており、そこへ夜の視界の悪さと冷え込みが加わる中で進み続けるのは危険すぎる。……そこで、ここにテントを張って夜を過ごし、明日、万全の状態で山頂を目指すことにした。


「よし、建て終わった……んだけど」


 いざテントを建ててから、俺は一つの問題に気が付いた。……それは、テントが思っていたよりも一回り小さい事だった。


「……まあ、三人寝れない事もないだろう」


「私は全然気にしないよ。さ、お兄ちゃん、入ろう? それにしても、テントなんていつぶりだろう……?」


 と、他の二人は気にしない様子ではあったが、一番気にしていたのは俺自身だ。……しかし、そんな俺も妹の唯葉に引っ張られ、テントの中へと連れていかれる。



 ***



「私は一番右にしようかな」


「それではアタシは左にするとしよう。少々、寝相が悪いのでな」


 ……と、先手を取られてしまった俺は必然的に真ん中になってしまう。二人は全くと言っていいほど気にしておらず、そんな流れを変に断ち切るわけにもいかないので、そのまま寝袋へと入るが……、


(……まあ、実際に寝てみると思っていたほどでもないな……)


 寝袋に入り、真ん中で寝ている俺だったが、二人との間隔はそこそこ空いていて、危惧していたようなぎゅうぎゅう詰めの状況にはならなかった。……ともかく、落ち着かないのでみんなが寝静まったら外に出ようと考えていた俺は、しばらく寝袋の中で明日の予定なんかを考えながら過ごすことにした。



 ……それからしばらく。そろそろ二人が寝静まったようで、寝袋を出ようとしたその時、突然。……俺の体に、何かがのしかかってきたのだ。見ると、それは左隣の寝袋が、方向転換をして俺の体に乗りかかってきていたのだ。


(……どうしよう。起こしてしまいそうだな……って、待て待て待て待て!)


 そう気楽に考えていると、次の瞬間、予期せぬ事態が起こったのだ。ごろん! と、左隣の寝袋が九十度転がった。嫌な予感がした俺はその方向をみると……目の前には、女戦士、レインの無防備に眠りについている顔があったのだ。それも、あわや接触寸前の近さで。


 慌てて俺は顔を逸らすが、レインの寝息が俺の髪にかかる。……マズイ。隣には実の兄妹である唯葉が寝ているんだぞ……! と、俺は慌てて唯葉のほうを向くと、そこにも。


 レインに気を取られて気が付かなかったが、唯葉もまた、こちらに向けて寝転がっていた。その距離もまた、近い。


(……なんなんだ! 二人して寝相最悪じゃないか! ……もうどうにでもなれ!!)


 俺はヤケになって、テントの天井を見上げると、目をつむり――早く朝になってくれと願いながら目を閉じた。


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