116.崩壊後のクリディア・外れ
大規模な戦いが起こった都市の一つ『中立都市・クリディア』では、建物は軒並み崩れ、腐食の始まった死体が転がり、悲惨な状態になっていたのだが、多くの男手のお陰で片付けも進み。やっと復興の兆しが見えてきた所だった。
女性は、まだ比較的被害の少ないリディエ領の片付けなどを行い、男達はひとまずクリディアの復興の為、全力を注いでいる。
今、リディエ領には家を失った多数の難民が押し寄せており、寝床の確保さえもままならないような状況だ。なので、一刻も早く都市を一つでも復活させなければならないのだ。
なので連日、怒涛の勢いでの復興作業が行われて、ついに瓦礫は取り払われ、死体の埋葬なども完了し、やっと復興へとスタートラインへと立てたのだ。
そんな中、とある村の村長をしていた男――リーク・フェルドが、崩壊したクリディアの隅で座り、呟いた。
「……あれほど大きかったクリディアが、こんな事になってしまったか」
体格の良いこの村長は、前にこの地で、今は亡きウィッツという男と共に冒険者稼業をしていた事があった。今はもう引退して、生まれ故郷であるキリハ村で村長としてのんびりとした日々を過ごしていたが、そんな日常はある日、一瞬にして壊された。
……突如現れた『第三次召喚勇者』による襲撃だった。
何とか、村の若い者や魔人へと改造され力を手に入れた村の女性たちによってなんとか犠牲はゼロで済み、何とかここまで生き残る事ができたのだが……小さなキリハ村は、もう見る影もないだろう。
「ウィッツ……別れの挨拶くらいさせて欲しかった物だ」
冒険者として共にパーティを組んでいた頃から大出世して、ギルドマスターにまで上り詰めてしまった彼が最後に戦ったのもこの地での戦いだった。
後から知った話ではあったが、彼は自身の『罪滅ぼし』のため、最前線に立ち、人民を守り切った。リーク、そして彼が守っていたキリハ村の人々も含めて。……ウィッツ自身の命と引き換えに。
「……人一倍正義感が強くて、自分のした事には最後まで向き合う。とことん真面目な奴だったな、あいつは」
感傷に浸りながら、もう戻らない古き友人の顔を思い出して呟いた。
確かに彼は、第三次召喚勇者を召喚する事となった原因の一端を担った男だ。世間でそういう評価を付けられて当然の行動を起こしたのかもしれない。
しかし、そんな状況になっても彼は逃げなかった。最後まで自分のした事に立ち向かった。改めて、彼は思う。
もしもリークが、同じ立場に立ってしまったとしたら……真っ先に現実に背を向けて、逃げ出しているかもしれない。
「凄い奴だよ、ウィッツ・スカルドという男は」
リークは一人、青空の下呟いた。




