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114.リディエ領・戦いの跡地

 彼らが『知恵の原石』を求めて山へと入ったその頃、第三次召喚勇者(サードヒーロー)とこの世界の人間での戦いのあった地――リディエ領では。


「――『死者蘇生』っ!」


 普段と変わらず爽やかな風が吹く草原に、一人の少女の声が響く。


「――『死者蘇生』……『死者蘇生』……っ! はあ、はあ……」


 ――Sランクスキル『死者蘇生』を持つ女性、雫川実里。彼女は、『封印』された六人を除き、先の戦いで一度死んでしまった人々を生き返らせていた。


 ただし、クリディアやドルニアでの戦いで亡くなった人々を生き返らせる事は出来ない。死体から生き返らせる事ができる『タイムリミット』が、およそ一週間であるからだ。


 より厳密に言えば、腐食の始まった死体はもう生き返らせる事ができない。それは、この身をもって経験している事だった。


 ……雫川実里は、第三次召喚勇者(サードヒーロー)による戦いが幕を開けてからこれまでも、他の人たちに見つからないように隠れて、今のように少しずつ蘇生していた。その時に得た『死者蘇生』スキルに関する知識の一端だ。



「実里ちゃん、大丈夫? そろそろ休憩しよう?」


 そんな彼女に向けてもう一人、傍らで彼女の手伝いをしていた女性――佐々木千代が言う。しかし雫川は、


「ううん、まだ大丈夫。私にできる償いは、これくらいだから。……もっと頑張らないと」


「いいえ、無理は禁物よ。……貴方、相当疲れが溜まっているわよね?」


 再びやる気を出そうとした彼女に話しかけてきたのは――黒の長い髪をなびかせてこちらへやってきた女性。彼女もSランクであり、最前線で戦っていた人間の一人、水橋明日香。


「あなたは……水橋さん……? でも、私は――」


「私の『物質錬成』でさえ身体に結構な負荷が掛かるのに、人を生き返らせるなんて芸当、さらに負担が掛かるはずよ。頑張りすぎで倒れられては元も子もないわ」


 そう強く言われ、雫川は渋々、その場で休憩を摂ることにした。



 ***



「直接話すのは初めてだったわね。……でも、貴方達の話は風の噂で聞いたわ」


 二人は、水橋明日香と会った事自体はあるが、こうして腰を置いて話すのは今が初めてだ。今も、たまたま彼女はこの辺りの戦いの跡を片付け終えた後の休憩だったし、近くだったので訪ねた訳で、水橋も水橋で色々と忙しいのだ。


 それは彼女だけではなく、この大陸に生きる全員がこうして忙しなく働いていると言っても過言ではない。この大損害を乗り越え、元の生活を取り戻すためには少しの辛抱だ。


「……どうしてわざわざ私たちの所に? ――その話を聞いて、弱いやつだと嘲笑う為とか」


 佐々木千代は、少し敵対心を剥き出しながら言う。しかし、水橋は変わらない調子で、


「いえ……かつて、私も同じような立場に立っていたから。いや。今だって、私たちのクラスが完全に元に戻った訳じゃない。だから、今も貴方たちと同じ立場に立っている。だから、痛いくらいにその気持ちが分かるのよ」


 水橋明日香のクラス――二年四組も、一度はバラバラになった。再び一つに戻ったと言っても、あのクラスが100パーセント、完全に戻ってきた訳ではない。


「……同じ、立場?」


「ええ。私も、力を持ちながらも見ている事しか出来なかったから。ある意味、貴方たちよりも最低かもしれないわね」


 水橋は、バッグから取り出した水筒に入った水をぐいっと飲みながら言う。


「それじゃ、私はそろそろ戻るとするわね。もし何かあったら私に相談してほしい。きっと同じ立場に立つ者として、力になれると思うから。……くれぐれも、頑張りすぎは禁物よ」


 そう言うと、水橋明日香は立ち上がり、立ち去ろうとする。


「……あの、ありがとうございました。私、あなたのことを遠目で見ていて、みんなを引っ張っていけて凄いなあ……なんて思ってました。そんなイメージが強くて、話しかけにくいような人だとすっかり思ってて……」


 そんな雫川に向けて、水橋は言う。


「私は弱い。でも、周りの人達のお陰で強くあれた。結局人間なんて、どんなに強い力を持っていたところで、一人じゃ何もできないもの」


 そう言い残して、彼女はそこから立ち去っていく。

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