111.『暴走』した者たち
Sランク六人が死亡。それを覆せるスキルを持った雫川実里と、佐々木千代が投降。残された第三次召喚勇者は、Sランク達の戦線離脱による戦意喪失で、この戦いは幕を閉じた。
しかし、直接的な戦いは終わっても、この事件はまだ終わらない。
***
――戦いの終わった日の夜、リディエ前線基地。その一室で、手足を拘束され、身動きの取れない状態で座る二人がいた。対する、褐色肌の女性、レイン・クディアは――
「さて。戦意は無いという事は理解した。しかし、納得するに値する話は聞けていない。……あの時の話の詳細を聞かせてもらおうか。……ああ、それはもう外そう」
二人は直接的な戦力ではないし、不可視化のスキルは厄介ではあるが、逃げ出そうという素振りもないので拘束具は外すことにした。
そもそも他のSランク達の遺体は、既に二人の知らない場所へと埋めてある。遺体そのものが無ければ蘇生は不可能なのだから、今更拘束を続ける意味はないのだ。
さらに、他の第三次召喚勇者も、前線基地の地下室に身柄を確保している。そもそも、元は役所のこの建物に地下牢なんてあるはずもないので、地下室と言ってもただの倉庫ではあるが、見張りも立たせているので安心だろう。なので、レインはゆっくりと二人から話を聞くことにする。
――ガチャリ! と、レインは一つ一つ鍵を開け、拘束具を外していく。拘束具から解き放たれ、久々の自由の身を手に入れた二人は、逃げる素振りも見せずに話し始める。
「そもそも、こんな騒動を起こそうとしたのも、私以外のSランクたちが暴走した結果です」
――帰る方法が無い事を、うっかり話してしまったドルニア王国は、そこを突き詰められ、やがて混乱に。
『こんな事をしたって、帰れる訳じゃないのに……どうしてこんなひどい事を――』
『アナタは悔しくないのかしら? 勝手に呼び出され、使われて――アタシは許せない。だから復讐する。自分で呼び出した召喚勇者だかに滅ぼされるのはどんな気分なのかしらねぇー?』
『もう決まった事だ。この決まった方針を曲げる事は出来ない』
『めんどくせェ奴だなァ……テメェはSランクだけどよ、他のSランクがいねえと何もできねえんだろ? だったら他の雑魚共と一緒に黙って言う事を聞いてろよ』
『なーに良い子ちゃんぶってんのー? ホント空気壊れるわ〜』
『黙って従っておけよ。結局、この世界から帰る手っ取り早い方法はこの力で解決する方法ただ一つだろ』
『結局、この世界で殺したって、こっちには関係のないことでしょー?』
『…………』
――圧倒的な力を得た彼らは、紛れもない現実なのに。この世界をゲーム感覚で。ただ腹が立ったから、その力を振るう。
力を持たない、生き返らせるしか能の無い私は――止める事が出来なかった。
ただ、見ているだけしか。従う事しか出来なかった。
他の、Sランクではないみんなも同じ気持ちだったはず。強大な力を手にした彼らの暴走を、ただ見ている事しか出来なかった。従うしかなかった。――あの力を手にした彼らは、狂っていたからだ。歯向かえば殺されるかもしれない。だから、従うしかなかった。
「そんな、見ている事しか出来なかった私たちにも、チャンスが巡ってきたんです」
今度はスキル『不可視化』を持つ女性、佐々木千代が口を開く。
「暴走したSランクは全滅して、私たちは彼らの圧力から解放された。あなた方が、彼らを止めてくれたから――こうして、私たちは動くことができた。……クラスメートを見殺しにしたっていう罪悪感もあるけれど、実里ちゃんと選んだこの道を私は後悔していません」
レインはあの時の涙と、その言葉を聞いて確信する。そして、彼女は――
「アタシも、アイツの暴走を見ているだけだった。結果、お前達はこの世界に召喚され、巻き込んでしまう事になった。――本当に、申し訳ない」
レインも、ウィッツの暴走――迷走という方が正しいのだろうか。どちらにせよ、彼の独断専行を止める事が出来なかった。彼は決して、悪意をもってした事ではないのだろう。……だが、立場としては――レインも、二人も、そこまで変わりはないのかもしれない。




