103.一次も二次も、第三次も
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
圧倒的な『破壊』が、周囲へと撒き散らされる。
さっきまでは一撃一撃、追い詰めていくような攻撃だったのが、今は違う。
同時に何発も、あらゆる方向へと、全てを薙ぎ倒す衝撃波が放たれ続ける。『近づかせない』という彼女の言葉を、具体的に表したような攻撃。
確かに、まともに近づく事は難しいかもしれない。少なくとも『物質錬成』という、思い描いたものを生み出す事以外は特殊な力を持たない水橋には、あの衝撃波の雨を避け切ることなんて不可能だ。
だから、彼女は託す。
「――七瀬さん、受け取ってッ!」
投げられたのは、二度生み出された黒色の魔剣――レイフィロア。
七瀬は、その魔剣の持ち手をがしっと掴み、普段使いの剣を置いて握りしめる。
この剣ならば、三十分限りではあるものの、彼女の衝撃波をも斬り刻む事が出来る。……つまり、ここで決めるッ!
「受け取ったわ! あとは任せて」
そう言い残すと、魔剣レイフィロアを構えながら金髪の女性、紗倉瑞紀の元へと走りだす。
対する紗倉も、魔剣を握り向かってくる彼女を見据えると――ゴゴゴゴゴゴゴッ!! 轟音と共に、無数の衝撃波を放つ。
――しかし、彼女には視えている。いつ、どこに衝撃波が放たれるのか。……十秒先までの未来が。
衝撃波を避け、一歩一歩、歩みを進めるが――彼女も、あくまで未来が視えるだけ。超人的なステータスも、攻撃手段も持っていない。いくら視えていても、音速を超えるそれを避け続けるのは無理があった。
――ならば。
「避けられないなら、斬り刻む!」
もう一人のSランク、水橋明日香の生み出した、衝撃波をも斬り刻む、その魔剣・レイフィロアで。
――向かってくる衝撃波を斬り、打ち消した。
互いの距離はもう10メートルもない。近づくにつれて、未来が視える彼女でも距離が短くなる以上、反応するのが難しくなってくる。……それでも、彼女は足を止めない。
――一歩。
――また一歩。
――そして、魔剣レイフィロアは一撃、振るわれる。
剣は、紗倉瑞紀の身体を真っ二つに切り裂いた。
さらに一撃、もう一撃。その黒き魔剣は、確かに彼女を切り裂き、多くの血を噴き出させ、絶命させた。――戦いは終わった。
水橋明日香のいたクラスも、七瀬裕美がいたクラスも。彼女らの仲間は、確かに殺された。
その敵を今、確かに討ち取った。それは喜ばしい事かもしれない。
しかし、少なくとも二年四組の学級委員を務めていた水橋明日香の気持ちは晴れなかった。こうして敵討ちに成功しても――失った仲間は戻ってこないのだから。
そして、もう一人のSランク――七瀬裕美も、きっと同じ事を思っているに違いない。彼女も彼女で、浮かない顔をしていたからだ。
そして、第三次召喚勇者と呼ばれた彼女らは、第一次、七瀬たちのクラスと。そして第二次である水橋たちのクラスと同じことを思っていたはず。
七瀬たちも、水橋たちも。帰る方法が無いということを知ったのはこの第三次召喚勇者を巡る事件を通してだった。
彼女らは、まだ元の世界へと帰れる希望を捨てず、再び立ち上がる事ができた。でも、もしその時。立ち上がる事が出来ず、絶望に押し潰されていたら。――きっと、今ここで殺してしまった紗倉たち第三次召喚勇者のようになっていたのかもしれない。
根本的な所では、何も変わらない同じ人間だ。――殺さなくとも、より良い結果の待つ未来があったのではないか。……水橋明日香は、そうとも思う。




