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パラドックス・スラッグス  作者: 転転悠悠
赤と黒を基調とした廊下の幾何学的性質
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赤と黒を基調とした廊下の幾何学的性質 Part2

僕は恐る恐る廊下を進んだ。天井には等間隔でライトが点灯しており、薄暗くはあるが、廊下を照らしている。廊下の半ばまで来たところで、心配になって後ろを振り返った。ホラー映画では、帰り道がなくなっていたりする。よく見るパターンだ。だが、そこには大口を開いたエレベーターが毅然としてあり、その中の明かりが申し訳なさそうに周囲を照らしている。僕は安心し、また前を向いた。そして再び歩き始めた。

手元の論文に手汗が染みるのを感じる。心臓の鼓動がゆっくりと、しかし、大きく音を立てている。

奥の扉の前まで辿り着き、赤いドアノブに手を掛ける。そこで少し躊躇した。いくらこんな訳の分からない状況とは言え、誰かがいるかもしれない部屋に勝手に入ってもいいのだろうか?


「入ってもいいよ」


部屋の中から今度はハッキリと聞こえた。声変わり前の少年の声の様だった。

僕はその声に従い、扉をゆっくりと引いた。


そこは白い部屋だった。家具も光も、そして音さえも白く感じた。部屋の奥の中央には壁に向かって白い事務机が置いてあり、その両脇に白い本棚があった。当然、そこに置いてある本も全て白い。天井には、中央に裸電球がぶら下がっており、尻尾で枝にぶら下がる猿みたいに揺れていた。

その中で唯一、他の色を持った存在が電球の真下にいた。"それ"は紫のスーツを着ていて、白いスツールに座り、背を丸めて絵を描いていた。大きさは10歳の少年程度だ。左手にはパレットを持ち、右手で絵筆を注意深く操っていた。その手は灰色で、酷く骨張っている様に見えた。どうやら抽象画を描いているらしい。それもこの部屋で色を持ったモノだ。僕にはその絵がうねる一匹のナメクジに見えた。僕はその姿を後ろから見ながら立ち尽くしていた。


「そんな所にいないで。部屋に入りなよ。椅子はそこにある」


そう言って、"それ"は絵筆で左後ろの隅を指し示した。そこには白いパイプ椅子があった。

僕は部屋に入ると、扉を閉め、パイプ椅子を取り、"それ"の左後ろに座った。扉を閉めた事で、その部屋は完全な白になった。


「ここは一体何なんだ?」


ようやく僕は声を発した。しかし、その声には現実味が欠けていた。


「覚えてないの?何度か来ているはずなんだけどなあ」


"それ"が少し残念そうに答えた。相変わらず、絵筆をキャンパスの上で走らせている。どうやらその質問には答える気がなさそうだ。


「君は何だ?」


僕は続けて質問する。


「好きに捉えればいいし、好きに呼べばいい」


"それ"は素っ気なく答えた。

僕は"それ"の頭部を観察した。縮れた髪の毛は肩まで伸びており、無造作に放置されていた。その様は、先週見た民家の花壇の雑草を思い出させた。一本一本が存在を主張している。僕の角度から顔は見えなかったが、髪の毛の間に覗く皮膚はやはり灰色だった。


「僕をなぜここに呼んだんだ?」


僕はそう言って、違和感を感じた。"呼んだ"?僕は自らここへ来たのではないのか?

すると"それ"は絵筆を止め、ゆっくりと僕の方へと向き直った。


"それ"の顔は非常に整った少年の顔だった。いわゆる美少年というやつだ。瞳は青く、その眼差しは落ち着いた印象を僕に与えた。しかし、その瞳以外は灰色で、それ故に全体として不気味な感じがした。額の両端に申し訳程度に小さな角があった。


「そう、僕が君を呼んだんだ」


"それ"は当たり前の事を言うように答えた。


「君には知ってもらわなくちゃいけない事がある」


そう言うと、"それ"はまたキャンパスに向かった。


「僕が一体何を知る必要があるんだ?」


これまで、僕の質問をはぐらかしてきた"それ"に段々腹が立ち始めた。冗談じゃない。何でこんな訳の分からない奴に付き合わなくちゃならないんだ?


「君がナメクジを見たからさ」


"それ"は僕の気持ちを察知して言った。


「君は『パラドックス・スラッグス』と関わってしまった。望む望まざるに関わらずね」


『パラドックス・スラッグス』?それは一体何だ?さっきから意味の分からない事だらけだ。

暫く"それ"はキャンパスに色を与えていたが、手を止め、じっと額面を見た後で、小さく頷いた。どうやら絵が完成したらしい。

そのままの姿勢でゆっくりと、そしてハッキリと"それ"は言った。


「君の行動に宇宙の存在が懸かっている」


そして、"それ"はもう一度小さく頷いた。

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