正三角形と正四面体を繋ぐモノ Part1
気が向いたら書きます。
「いいかい、よく覚えておくんだ。"追い付かれたら終わり"これがルールだ」
アイツはケタケタと笑いながらそう言った。アイツの瞳を見ようとするが、視界が曇っていてよく見えない。
「僕は"それ"を守ればいいんだね?」
僕の声は虚空に飲まれるように消えていく。返事はない。段々と意識が遠退く中、アイツの輪郭だけがくっきりと浮かび上がる。
「陽真君、大丈夫?」
千里が耳元で囁く。閃光と轟音が僕を包み込む。
「ああ、問題ないよ千里ちゃん」
目を擦りながら、小さな声で彼女に答える。銃声と弾幕をかわしながら走る男。
「そっか、なら良かった」
そう言うと、彼女は安心そうな顔をして前に向き直る。女が啜り泣く、そして波の音…
僕は大きくあくびをしながら映画館を出た。千里が不思議そうな顔をしながら、僕の顔を覗き込む。
「そんなにつまんなかった?」
彼女は僕に問いかける。
「いや、そういう訳じゃ無いんだけど…」
実際、映画は面白かった。故郷で待つ女を残し、一人月で戦う男の運命を描いた物語だ。まあ、多少荒唐無稽な感じもあり、手放しで評価できるものではなかったが、まずまずといったところだろう。
歩道の敷石に軽く躓いた。クスッと彼女が笑うのが聞こえた。千里とは付き合いはじめて3ヶ月になる。僕が大学のカフェテリアで彼女に声を掛けたのがきっかけだ。あの頃は僕は出会いを求めていたし、彼女も付き合っていた彼氏と別れたばかりだった。
「陽真君ってちょっと抜けてるとこあるよね」
彼女はからかいながらそう言った。
「…よく言われるよ」
僕は両手をズボンのポケットに突っ込みながら答えた。そして横目で彼女の顔を見た。真っ直ぐと前を見ながら歩く彼女は、僕とは正反対でしっかりした女性だ。一重瞼の眼は揺るぎ無い信念をもって前だけを見つめている。左目の端近くにあるホクロがとてもチャーミングだ。少し綻んだ口元は、僕を安心させてくれる。短く切った髪が歩調に合わせて静かに揺れていた。
「お昼どうしよっか?」
彼女が僕の方に顔を向けて聞いた。彼女と目が合い、恥ずかしくなって少し俯きながら僕は答えた。
「イタリアンなんてどうかな?」
僕はポケットからスマートフォンを取り出し、事前に調べていた店のページを彼女に見せた。
彼女は立ち止まり、宝石を鑑定する鑑定士のように僕のスマートフォンの画面を吟味した。暫くして、彼女は頷くと、
「よし!ここにしよう!」
そう言って、再び歩き始めた。僕は半ば彼女の後ろを追うようにして、スマートフォンをポケットに戻しながら、歩を進めた。
そのまま大通りをまっすぐ進み、対角にドンキホーテがその存在を誇示する角を曲がり、細い路地に入って2分程歩いた所にそのレストランはあった。黒を基調としたその店の外観は何処と無く潜水艦を連想させた。小さな丸窓がある扉からは、店内の様子が見える。僕は少しその窓から店内の様子を偵察して、ゆっくりと扉を開けた。安全を確認し(その必要は無いのだが)、千里を先に通した。そして僕も入店し、店員の女の子に人数を告げた。




