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Birthday turn

作者: 神水たゆら

今日は私の失態の日である。

数十年前の今日、私は地球という惑星に生まれ人間の中から生まれてきた。それを喜ぶ人もいれば、どうでもいいと思う人もいる。

そんな今日私は産声を上げた。

喜ぶ人がいて、祝福する人もいただろうがそれを私が自分自身生涯許すことはできないだろう。

朝も両親に「おめでとう」と言われた。

学校にいけば友人に「おめでとう」と言われた。

私は変わっているのかその言葉を許すことができなかった。

何故、こんな気持ち悪い日に許すことのできない言葉を喋りかけられなければいけないのだろう。

苦痛だ。



家に帰れば両親が特別なものを用意しているだろう。

想像するだけで吐き気がした。

バスに揺られる体と、地味に落ちていく窓の向こうの太陽。

何故私はここに生まれてしまったのだろう。

苦しみながら生きて、自分を否定しながら生きて、

気がつくと時間がたち、日がたち、年がたつ。

年がたてばまたこの日がやってくる。

壊れそうになる。

すべてがなかったことにできるなら、どれほどすばらしいものだろうか。



気がつくと私は定期券内をとっくに越えていて、運転手は私にここが終点です。といった。

私は仕方がなくそのバス停で降りることにした。運転手に駅までの道のりの地図を書いてもらい歩くことにした。



簡素な住宅街。

いつもどおりに動く人々。

街中を散歩している猫。

私を知らない人たちは今日は日常の中に入っている。

それも滑稽だった。



しばらく地図を無視して歩くことにした。

住宅街には小さな病院があった。

町医者というやつだ。

なぜかそこがあわただしく見える。

興味本位で病院に入り、看護師になにがあったのか聞くと興奮しながら今赤ちゃんが生まれたんです!!と言っていた。

こんな不思議な出会いもあるのかと思い。自分も今日誕生日だといったら看護師は病室に案内してくれた。



病室の前に立つと、扉には自分の苗字と同じ名前が書いてあった。

こんな偶然もありか・・・と思いながら扉を開けた。

母親の姿見えなかった。

小さなベッドの上には、ビー玉のような目をして自分を見つめている子供がいた。

生まれてすぐの子供など、目ははっきりと見えていないのに私を見つめていた。

私はその子の細く小さな首に両手を添えていた。

無意識に力が入っていく。小さな気管が息を吸っているがわかる。


何故、この子は泣かないのだろう。

   苦しくはないのか。

   悲しくはないのか。

生まれてすぐに、見ず知らずの私に殺されようとしているのに。



我に返ると、手の下の首は呼吸をしていなかった。

脈もなくあの目を見ることももうできることはなかった。



自分の中にぽっかりと穴が開いてしまったような気分だった。

足が足ではなくなってしまったように、その場に座り込んでしまった。

手が手ではなくなってしまったように、肩から下がるだけになった。

目が目ではなくなってしまったように、飾りもののようになった。



いまさら気がついた。

今私はまさに、自分自身にケリをつけたようだ。

もう、力が入らなくなった首を無理矢理持ち上げ天井を見た。

自然に涙が出た。

うれしい、よかった。



「ごめんね。私」



ゆっくりと微笑み私は消えたようだった。


end 20090502


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