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修行

影山陸は子供の頃から幽霊や妖怪を見ることができる。昔から見えている影山にとって、幽霊や妖怪は当たり前の存在である。ぬらりひょんとは子供からの付き合いで、今は影山の師匠として鍛えてもらっている。そして、今回の修行の場として有平学園大学の近くにある廃校の体育館に影山は来ていた。現在の時刻は夜の九時。体育館の中はほぼ真っ暗で何も見えない。


「きたようじゃな」


体育館のどこからかぬらりひょんの声がすると、急に体育館全体を照らすように数個の火の玉が出現する。そして、影山の数メートル前にぬらりひょんは立っていた。その右手には木刀が握られている。


「それでは、修行を始めようか。陸、武妖具を出せ」


ぬらりひょんに言われ、影山は右手を前に出す。すると、右手に刀が突然出現し、影山はその刀を握り、構えた。


武妖具。

この世界に十二個存在すると言われる人間が妖力を手にいれることができる特別な武器。武器ごとに特別な力を宿しており、持ち主である人間を強化する。故に武妖具を持つ人間は人間であるが、妖怪の力を使える特別な存在なのである。


「よし、ではかかってこい陸。遠慮はいらんぞ」


「ああ、あんた相手に遠慮はしないよ!」


影山は刀を構え、ぬらりひょんに向かって一気に接近する。そして、刀を横に構え、一閃する。ぬらりひょんの胴体を切り裂いたはずであるが、手応えはない。肉を切り裂いた感覚はなく、空を切ったような感覚だった。


「まだまだじゃな、それはワシの幻影じゃ」


影山の横にはいつの間にかぬらりひょんが立っていた。影山はすぐに横にいるぬらりひょんに攻撃、刀はぬらりひょんの木刀に受け止められた。


「ほう、瞬時に攻撃をしたその反応速度はよし。だが、威力は弱い!」


影山の刀はぬらりひょんの木刀によって弾かれる。影山は負けずと刀で切りかかるが、すぐに受け止められ、決定的なダメージは与えられていない。そして、隙を見てぬらりひょんは木刀で影山の胴体を打とうとする。影山は避けきれず、木刀が胴体にめり込もうとした瞬間、ぬらりひょんは木刀を振ろうとする前の瞬間まで戻っていた。


「ほう、三秒だけ戻しおったな」


再び木刀を振るうが、その木刀を影山は刀で受け止めた。


「巻き戻しの力、厄介じゃな」


影山のもつ武妖具の力は『時を巻き戻す力』。影山が定めた対象の時間を巻き戻すことができる。それは物でも生物でも適用される。影山の妖力次第だが、現在の影山は最大15秒巻き戻すことができる。


影山は木刀を弾き、ぬらりひょんに切りかかるが、ぬらりひょんは再び煙のように消え、影山の目の前から消えた。


「巻き戻しの能力の欠点は2つ、一つは大きく妖力を消費し、連続では使えないこと、そしてもう一つ…」


ぬらりひょんの声が言い終わる瞬間、影山の数メートル背後から火の玉が飛んでくる。影山は瞬時に火の玉を避けると、影山のすぐ背後にぬらりひょんは立っていた。そして、影山の脇腹にぬらりひょんは木刀を叩き込み、影山を弾け飛ばした。


「もう一つの欠点は目視した対象しか巻き戻すことができないこと。つまり、死角からの一撃は対処できないということじゃ」


影山はふらふらと立ち上がり、刀を構える。その姿にフンッとぬらりひょんは笑う。


「能力に頼ってるだけじゃ、戦いは上手くはいかない。素の実力を鍛えなくてはな」


ぬらりひょんは木刀を目の前につき出す。すると、木刀の先端から炎が出現する。


「幽術、赤光閃」


炎は火の玉となり、影山に向かって発射される。対して影山も刀を振りかぶる。


「幽術、烈風!」


刀を一閃すると、風の斬撃が火の玉に衝突し、打ち消した。それを見たぬらりひょんは「ふむ」と感心する。


「簡単な幽術は使いこなせるようになっているようじゃな」


妖怪には妖術と幽術という二つの力を行使することができる。妖術とはその妖怪の特性としての力。ぬらりひょんの場合は自分の幻影を作り出したり、姿を消して別地点に移動するのがそれにあたる。


対して幽術は妖怪ごとに備わった属性として力である。属性は火、水、雷、風、地の五種類。その属性によって妖怪は幽術という力を行使することができる。幽術は使うものによって独自性があり、同じ属性でも様々である。


「幽術は妖力を消費するが、とても強力な力じゃ。使いこなせば、お主の戦力となる。幽術の練習を怠るなよ陸」


「わかってる。あんたほどじゃないけど、そこそこ使えるようになってきたよ」


「ほう、それなら結構。さて、今日の修行はここまでにしようかの」


そう言うと、ぬらりひょんは木刀を構えるのをやめる。右手に持っていた木刀は煙のように消え去った。戦う気をなくしたぬらりひょんに「ん、もういいのか?」と影山が尋ねると、コクりとぬらりひょんは頷いた。


「お主の今の実力を知れたからな」


「鍛えにきたんじゃないのか?それだと、ただ実力をみにきただけなような…」


「実際その通りじゃ。妖術と幽術を使いこなせるかどうか確認したかっただけだからな。実力を見た限り今の戦闘力ならそこらの妖怪程度なら問題ないじゃろう。ただ奴らと戦闘するなら少々力不足を感じるがな」


「そうか…」


武妖具をもつ者は妖力を身につける。妖力を強化するには妖怪を倒し、妖力を吸収する必要がある。つまり、RPGのようにモンスターを倒し、経験値を上げてレベルアップするのと同じ原理である。


「ワシは帰るとしよう。それではまたな、陸よ」


ぬらりひょんはそれだけ言うと影山の目の前から一瞬で消えた。体育館の中を照らしていた火の玉も消え、辺りは暗闇に包まれた。影山は「ふう、疲れた」と呟き、体育館から出ていった。


「力不足か…」


ぬらりひょんは影山が武妖具を手にしたときから影山を鍛えている。武妖具に備わる妖術と幽術を教えたのもぬらりひょんである。


(もっと強くなって、あいつを倒す力を手にいれないとな)


ある思いを胸に、影山は夜道を歩き始めた。



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