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新人バイト

次の日。


「それじゃあ影山くん、今日からよろしくお願いします!」


影山と冬野は大学の講義が終わり、今日から二人でアルバイトの日だった。エプロン姿の冬野が元気に挨拶する。喫茶店ガイストには特定の制服はなく、私服にエプロンをつけるという簡単な感じになっている。


「影山くん、まずは何をすればいい?」


「うん、今は客がいないから何もやることないな」


新人バイト初日のスタートは店内には客が一人もおらず、二人は仕事がなかった。


「えと、影山くん。失礼だけど、この店お客さんってくるの?」


「ほとんど来ないな。来ても十人もいかない」


「へー、そうなんだね…」


「うん、誰も来ないで1日終わるってこともあるな」


「こんなのでお金もらってもいいのかな?」


「いいんじゃないか。時給もそんな高いわけでもないし」


ガイストの時給は900円。労働時間は午後四時から八時まで。よって1日に稼げる金額は3600円である。


「ガイストって土日は休日なんだよね。喫茶店が土日休みって珍しいよね」


「まあ、それは色々と事情があって…」


と影山が言いかけると、店の扉が開き、初老の男性が入ってきた。お客さんが来たのだ。


「いらっしゃいませ」


「い、いらっしゃいませ!」


影山に続き、ぎこちない感じで冬野も続く。カウンター席についた初老の男性はそんな二人ににこやかに笑った。


「ほう、新人さんが入ったのかい」


「はい、よろしくお願いします!」


「初々しいね。陸くんいつものもらってもいいかい?」


「はい、わかりました」


注文を頼んだ初老の男性はカバンから本をだし、読み始める。


「影山くん、いつものって何をつくれば…」


「大丈夫、今教えるよ」


ガイストにくる客は基本的に常連が多い。そのため、固定の注文も多く『いつもの』で注文することがある。今回の場合、キリマンジャロである。影山は冬野にコーヒーの入れ方を教え、実践する。


「お待たせしました!」


できたコーヒーを冬野が出す、初老の男性はニコニコした表情で「ありがとう」と言い、受け取るとコーヒーを一口飲み、本の続きを読み始めた。


「ふう、なんか緊張するね」


「すぐ馴れるよ。それに常連さんは基本優しい人ばかりだから」


「ありがとう」


それから三十分くらい毎にお客さんがちらほらくる。影山は客ごとの注文を受けて、冬野が注文されたものをつくる。そんなこんなで勤務終了三十分前になり、お客さんは全員帰り、店内は再び影山と冬野だけになった。


「今日来たお客さんの数は結局五人か、まあまあってところだな」


「もう七時半か。意外と時間立つの早いかも」


「そうか?俺が一人で働いてるときはすごく時間が長く感じたけどなぁ」


「たぶん二人で話ながら、働いてたからだね。緊張したけど、わたしは楽しかったよ」


「そう考えたら、俺もいつもより時間立つの早かったかも」


(俺も楽しく仕事してたってことか)


一人で働くより二人で働くのがこんなに楽しいのかと、影山は冬野がガイストに来てくれたことがありがたく感じた。


「明日は土曜日だから休みだよね。影山くん、月曜日は仕事?」


「ああ、仕事。ていうか俺の場合週五で働いてるからいつでもいるよ」


「え、週五で働いてるの!?」


「まあ、店長があんな感じだからね」


「ああ、そうだね…」


今日1日働いて店長が店内に現れたことは一度もない。ガイストの開店は午前11時からであるが、影山が働いている最中に伝票を確認するが、お客さんは誰も来ていない。つまり店長は今日一日働いてないということになる。


「店長っていつもあんな感じなの?」


「まあ、基本的に出てくることはないかな」


「じゃあ、基本的には影山くんが一人で?」


「うん」


「大変だったね…」


冬野は影山の肩をポンポンと叩く。影山は「ありがとう」としみじみと答えた。


「影山くんっていつから働いてるの?」


「俺は四月の初めから。店長にスカウトされてね」


「へー、そうなんだね」


影山が九十九にスカウトされたのは4月2日。大学の場所を確認しに近くを歩いていると、偶然ガイストの前を通り、九十九と出会った。九十九のすすめで影山はガイストでコーヒーを飲み、そのときに店員にならないかとスカウトされた。当時バイトをせず、独り暮らしだったため、影山は迷わず了承したのだった。


「まあ一人で大変なこともあったけど、何だかんだで楽しいよ」


一人で働くことが多かったけど、お客さんにコーヒーを入れて、笑顔を見るのは嬉しかった。そして、自分も嬉しくなる。ただ、客も来ないでずっと何もしない日は退屈なのは残念と影山は思った。


昔話をしていると、店の扉が開く音がした。入ってきたのは30代くらいの女性。店に入って席にはすぐ座らず挙動不審で店内をキョロキョロしている。


「いらっしゃいませ。お一人様でよろしかったですか?」


「あ、あのお客さんとかじゃなくて、依頼で来たのですけど…」


「依頼?」


何を言われてるのかわからず、冬野がキョトンとしていると影山は馴れた感じで「依頼ですね。わかりました。まずは好きな席に座って少々お待ちください」と言って女性を席につかせた。


「影山くん、依頼って?」


「ああ、依頼っていうのは…」


影山言いかけた瞬間、店の奥の扉から日中現れなかった九十九が出てきた。


「ああ、依頼人がきたか。陸、雪、お前ら残業頼めるか?」


「えと、残業って?」


何がなんだかわからない冬野は聞き返す、対して九十九は答えた。


「ガイストの裏の仕事、妖怪退治の依頼だ」






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