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喫茶『ガイスト』

大学を抜け出した影山と冬野は数分歩き目的地に到着した。


「喫茶『ガイスト』?」


冬野は書かれている店の名前を読んだ。


喫茶ガイスト。

こじんまりとした小さな喫茶店で、中はカウンターと小さなテーブル席が一つあるだけで、数人の客しか入れないようになっている。


影山と冬野は店の中に入る。店内には客どころか、店員すらおらず、無人になっていた。


「誰もいないね」


「はあ、また店長働かないで寝てるな…」


影山は「店長ー!」と大声で呼ぶと「へーい」と元気のない眠たそうな声が店の奥の扉から聞こえた。扉がガチャっと開きエプロンをつけた中年の男性が出てきた。


「店長また仕事サボっと寝てたんすか?」


「どうせ客も来ないんだから寝てても問題ねーだろぉ」


と言って中年の男性は欠伸をする。


「影山くん、この人は?」


「ああ、うちの店長九十九呂魔」


「どうも、店長でーす」


九十九呂魔。見た目30代後半。眠たそうな表情が印象のおっさんが自己紹介し、近くにあった椅子に座った。九十九は影山のとなりにいる冬野を見てニヤッと笑った。


「なんだなんだ陸、とうとう彼女できたのか!よかったな!」


茶化すように言う九十九に対し、影山は「違いますよ、ただの同級生」と平然と答える。冬野は九十九に対して軽く会釈をした。


「冬野雪です。影山くんには危ないところを助けてもらいました」


「危ないところ?ていうか陸お前顔面腫れてんじゃん、それと関係あんのか?」


「まあ、一応。店長、なんか冷やすものもらってもいいですか?」


「ああ、今もってきてやるよ」


そう言うと九十九は店の冷蔵庫から手のひらサイズくらいのアイスノンをタオルに巻いてもってきてくれた。影山それを腫れている部分に押し当てて、とりあえずカウンター席に座った。冬野も影山の隣に座って影山の顔を見る。


「影山くんごめんね。わたしのせいで迷惑かけて」


「いや、気にしなくていいよ。それより冬野も顔の方大丈夫か?」


「うん、わたしは大丈夫だよ」


冬野の言うとおり冬野の顔に目立つ外傷はない。しかし、ぶたれたことに変わりはなかったので影山は少し心配だった。


「大丈夫ならよかった。あと、冬野の友達ぶっ飛ばしちまったけど、あれ大丈夫かな?」


「友達って須藤くんのこと?だったら安心して。あの人は友達でもなんでもないから」


「そうなのか?」


「そう。あっちがいつも勝手にくるの。嫌だって行っても離れなくて、正直困ってた」


そう話すと冬野はハァ、とため息をついた。


「わたしいつも昔から変な男の人付きまとわれるんだよね。だから女の人からビッチとか裏で言われてて、友達できなくて…」


冬野が暗い顔で悩みを打ち明ける。話を聞いた影山は冬野の噂にそういう事実があったことに、偏見で見てしまっていた自分を自己嫌悪した。冬野は決してビッチではない。普通に悩みを抱える少女だった。


「あ、ごめんね。こんな暗い話して」


「いや、愚痴くらいなんぼでも聞くよ。俺ら友達だろ?」


「うん、ありがとう影山くん」


冬野はニコっと笑う。その笑顔にドキッとした影山は照れ臭くて頭を掻いてると、九十九がコーヒー二つを二人の前に置いた。


「いやぁ、若いっていいねー」


ニヤニヤしながら九十九は影山と冬野を見る。影山は照れ臭くてコーヒーを飲み、冬野はアハハと誤魔化すように笑い、コーヒーを飲んだ。


「おお、美味しい!」


「そうか、俺のコーヒーの味がわかるとは、冬野はわかってるな!」


喜んでコーヒーを飲む冬野を九十九はじぃーと見つめる。


「ところで冬野さん、今なんかバイトとかしてるのか?」


「いえ、してないですけど」


冬野がそう言うと、九十九は「それは調度いい!」と調子のいい声色で話す。そんな反応に冬野はキョトンとし、影山は店長が何を考えているかある程度察していた。


「店長、冬野をスカウトするつもりでしょ?」


「その通りだ陸!冬野さん、いや雪!俺の店で働いてくれないか?」


突然スカウトされた冬野は驚き、「えーと…」と言って混乱していた。


(まあ、突然スカウトされたら困るよな…)


そう考えながら影山は冬野を見ていた。


「嫌ならはっきり断ってもいいんだぞ冬野。店長の思惑は労働力増やして楽したいだけだからな」


「そ、そんなわけではないぞ…」


(図星だな)


普段から仕事をしたがらない九十九の考えは影山にとってお見通しだった。


「嫌というわけじゃないんだけど、わたしにできるか自信なくて…」


「大丈夫。わかんないことは全部陸が教えてくれるから」


「いや、あんたも働けよ」


「それに陸。お前も気づいてるだろ?」


影山はツッコミをいれるが、対してさっきまで動揺していた九十九が急に真剣な声で影山を見る。九十九が単に楽をしたくて冬野をスカウトしているわけではないことに影山は今気づいた。


(店長も冬野のこと気づいてるんだな)


影山と九十九は冬野を見る。そして、冬野は「よし!」と一言いい、決心した。


「わかりました!わたしここで働きます!」


「よし、これからよろしくな雪!」


「はい、よろしくお願いします!」


「じゃあシフトとか時給とか細かい説明したいけど、時間は大丈夫?」


「大丈夫です。お願いします」


「わかった。それじゃあ奥で話そう。陸はこれから店番頼む」


「わかりました」


九十九は店の奥の扉を開き中に入っていった。


「これからよろしくね。影山くん」


「ああ、よろしくな冬野」


冬野も立ち上がり、奥の扉に入っていった。店内には影山だけとなり、影山は残りのコーヒーを飲みきった。


(まさか冬野と働くことになるとはな)


とりあえず影山は九十九に言われたとおり、店番をすることにした。





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