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百目々鬼

影山と絹井が着いた店は依頼人がいた店舗とは違う服屋だった。当然シャッターは降りていて、中から物音がしていた。


「いるな。間違いなく」


シャッターの奥から影山は妖力を感じていた。絹井が「開けるよ」と言って、シャッターを開ける機械を作動させた。シャッターがゆっくり上がっていくと暗い店内の中、ネットに引っ掛かった存在がうっすら見えてきた。160センチ代の身長の女性、服装も一般的でパッと見普通の女性であるが、決定的に違うのは顔に複数の目、そして手の甲に目玉がギョロギョロとしていた。


「お前らか、これやったのは」


怒気のこもった声。罠に引っ掛かった百目々鬼は影山と絹井を睨んでいた。


「罠に引っ掛かったあんたが悪い。おとなしく今まで盗んだものを返せ」


「そんなもん全部売っちまって金に変えてるよ。ただ、こんなちんけなこそ泥はもうしなくてよさそうだ」


「どういうことだ?」


「お前たちを待ってたんだよ。お前ら、『ガイスト』とかいう奴らだろ?」


百目々鬼は自分に纏わりついている蜘蛛の糸を引きちぎり、右手を前に付き出した。手のひらにはギョロッとした目玉がついていた。


「幽術、眼閃!」


手のひらの目玉からレーザー光線が放たれ、光線は影山を目掛けて放たれた。影山は瞬時にかわした。


「あの女、やる気満々だね」


絹井がそう言うと百目々鬼は糸を光線で焼き切り店の外に出てきた。


「お前ら妖怪退治の『ガイスト』とかいう奴らだろ?待ってたんだよお前らを、怪事件を起こせばいずれ現れると思ってね」


「つまり、お前の目的は俺たちで、誘き出すために泥棒をしてたと?」


「そうだよ。わざわざアタシの目玉を監視カメラに写るようにして、さらに警備員に妖怪ということを認識させてたな」


百目々鬼は両手を前に付きだし、ニヤッと笑った。


「ようやく本来の仕事ができる。あんたら殺したら褒美が貰えるからね。死んで貰うよ」


「簡単に殺されるようなアタシじゃないけどね。陸、こいつを倒せば強さの証明になる?」


「相手の実力次第だな。とにかく、油断するなよ」


九十九から出された試験、それは絹井の実力を見極めこれからの依頼をやっていくのに、そして、巡礼者を倒すのに適任な人材かを判断すること。影山と絹井が話している途中、百目々鬼は光線を出して攻撃。二人は避けて、影山は絹井から距離をとり、戦闘の様子を観察することとした。


「さっきからごちゃごちゃと話してないでさっさとかかってこいよ!」


「随分と好戦的だね。まあ、威勢だけはいいってことか」


絹井は煽るような口調で百目々鬼に話す。その挑発にのるように百目々鬼は光線を放った。絹井は光線を避けると、百目々鬼は舌打ちして光線を乱射した。


「単調な攻撃。そろそろこっちも反撃開始ね」


絹井の人差し指の先から蜘蛛の糸が飛び出し、しなる鞭のように絹井は百目々鬼に対して振りかぶった。百目々鬼は咄嗟に避けるが糸が百目々鬼の服をかすり、かすった場所は剣で切られたように切り裂かれていた。


「斬撃か」


「それだけじゃないけどね」


絹井の指先から再度糸が放たれる。その糸は百目々鬼の体に巻き付いた。


「幽術、炎縛」


巻き付いた糸が燃えだし、火が百目々鬼を覆った。「あっつ!」と言って百目々鬼は巻き付いた糸を引きちぎり、手で体の火を振り払った。


「これがあんたの妖術か…!」


絹井の妖術『蜘蛛の糸』は三種類の特性がある。一つ目は『ネット』。ネバネバした糸を壁や床に張り、獲物を捉える。二つ目は『ブレード』。糸を鋭い刃に変え相手を切り裂く。三つ目は『ロープ』。糸を伸ばし、対象に巻き付かせることができる。


「幽術、火炎生糸」


絹井は糸に炎を纏わせ、ブレードの特性で百目々鬼に振るった。それは炎の刃となり百目々鬼を襲った。百目々鬼は炎の糸を避けるが、糸の追撃は止まらない。


「幽術、眼光砲!」


百目々鬼は大きく後ろに下がり、両手を前に付き出した。そして、両手から先ほどから放たれる光線よりも太い光線を絹井目掛けてうち放った。


(幽術で防ぐか?いや、避けた方がいいね)


防ぎきれないことを想定し、絹井は光線を避けることを選択。光線を避けた絹井はブレードを出し、攻撃に出ようとしたその時、光線が弾け、四方八方に拡散した。


(二段構えか…!)


「幽術、火壁巣!」


絹井の目の前に蜘蛛の巣が展開され、その巣は燃えて炎の盾となった。しかし、一部の光線は盾を貫き、絹井の肩と脇腹をかすった。炎の壁がなくなると百目々鬼は炎の壁を死角として絹井の至近距離まできていた。百目々鬼は近距離から絹井の顔面を狙って手を付きだし、光線を放とうとする。だが、絹井は瞬時にかがみ百目々鬼の懐に拳を叩き込んだ。


「がはっ!」


怯んだ百目々鬼にさらに顔面に拳を叩き込み、数メートル弾き飛ばした。百目々鬼は床を転がり、すぐに反撃で光線を飛ばしたが、絹井は天井にぶら下がる電光掲示板にロープを巻き付け、飛び上がった。光線を避け、絹井は百目々鬼の顔面に蹴りを叩き込んだ。


「舐めんなよ!!」


百目々鬼は絹井の足をつかみ、思いきり引っ張った。ロープはちぎれ、絹井は投げ飛ばされた。百目々鬼は光線を放ち、避けきれず絹井の足に光線がかすった。


「少し動きがトロくなってきてるんじゃないか!!蜘蛛女!!」


足を怪我したことで絹井の動きが少し鈍る。その隙を狙って百目々鬼は近距離から光線を当てるため、一気に接近。光線が放たれ、絹井の頬をかする。絹井は反撃で百目々鬼の顔面に頭突きをすると、百目々鬼は怯んだ。


「幽術、火炎生糸…!」


ブレードに炎纏わせ、切り裂く。「熱ぅ!」と百目々鬼は叫び、切り裂かれた箇所は火傷し、怯んでいるところを絹井は百目々鬼の頭に回し蹴りを叩き込み、ぶっ飛ばした。百目々鬼は壁に衝突し、頭に衝撃を入れられ脳が振るえた。百目々鬼はグロッキーとなり、膝を着いた。


「が、はぁ、くそが…!」


なかなか立ち上がれず、百目々鬼は膝間付いていた。


「勝負はついたな」


一連の戦いを見ていた影山は壁にもたれかかる百目々鬼のそばに立った。


「惑火、糸でこいつを縛って話をしよう。戦闘前に気になること言ってたしな」


「そうね。アタシたちを殺すのが目的だったみたいだしね」

 

絹井は糸で百目々鬼を縛り、身動き取れないようにした。百目々鬼は抵抗せず、観念したようだった。


「お前ら、アタシを、どうする気だよ?」


「少しは話せるようになったか?だったら質問に答えて貰うぞ」


絹井は壁にもたれかかり、影山は縛られた百目々鬼を見下ろすように話しかけた。


「俺たちを殺せば報酬が貰えると言ったな。誰だ?その報酬ってやつを渡すやつは?」


「…言うわけないだろ」


「だろうな。ただなんとなく予想はついている」


「あ?」


「襲うように命令したのは巡礼者もしくはその代行だな」


「…」


先月、影山は巡礼者代行であるさとるくんを倒した。そのことによって巡礼者から敵意を持たれた可能性があると影山は考えていた。そして、今回のガイストを標的とした襲撃。巡礼者絡みの可能性は高いと影山は考えていた。

影山に問われた百目々鬼は沈黙。巡礼者について答えることはなかった。


「答える気はないか…。じゃあ、お前にもう用はないな」


「殺すのか?」


「それは惑火の判断に任せる。どうする惑火?」


傍観に徹していた絹井に影山は問いかける。壁にもたれかかっていた絹井は百目々鬼を見た。


「あんた、人を襲ったことは?」


「人間なんて興味ない。あんなカスみたいな魂を食らっても大した力にならない」


「もうひとつ質問。妖怪を殺すことは?」


「ないわけではない。わかるだろ?妖怪の世界は弱肉強食。やらなきゃやられる。お前らを殺そうとしたのも金も目的だが、自分をより強くなるためだよ」


百目々鬼は絹井を睨み付ける。


「…そう。だったら見逃してあげる」


絹井は百目々鬼を縛っていた糸を解いた。


「…いいのか?アタシを逃がして…」


「無差別に殺しをしてるわけでもなさそうだしね。ただし、次に襲ってきたときには殺す」


「だそうだ。もう行っていいぞ」


百目々鬼は無言でその場から逃げ出した。その後ろ姿を見送った。


「それで、どうなの陸。アタシは合格?」


「合格だよ。強さに関しては申し分ない。それと、百目々鬼を見逃したこともよかった。うちは無差別に妖怪を殺したりはしない。あくまでも無害な人間や妖怪に害を及ぼす妖怪だけを退治するのがガイストだからな。その判断ができた惑火はうちにふさわしい人材だ」


妖怪退治をする組織として滅幽会があるが、滅幽会はなりふり構わず妖怪を殺す組織である。だが、ガイストは有害となる妖怪や幽霊を退治するだけの組織であり、今回百目々鬼は無差別に人や妖怪を殺す存在ではなかった。


「自分で言うのもなんだけど、逃がしてよかったの?」


絹井に問われ、影山は「たぶんな」と返し、話を続けた。


「百目々鬼は巡礼者もしくは代行とつながりがある。それは間違いない。ただ、そのことを話したら何らかのペナルティもあるんだろう」


百目々鬼は単なる雇われの刺客。誘き出すためのおとりでもある。巡礼者にとって使い捨ての駒。情報が流出した場合には最悪消される可能性がある。


「巡礼者絡みの依頼はいずれまたくる。今日はもう帰ろう。惑火も疲れたろ?怪我大丈夫か?」


光線がかすったことで絹井は全身ボロボロになっていた。妖力も消費して絹井は体力を消耗しているが、「これくらい大丈夫」と返事をした。


「強がるな。腕のいい妖怪の医者知ってるから、とりあえずそこに行こう」


「別にこれくらい平気なのに…」


「いいから。さ、帰ろう」


影山と絹井は歩きだし、影山はスマホで九十九に依頼解決したことを連絡しようしたそのとき。二人の目の前、上からボタッと何かが落ちた。影山と絹井がふと下を見て、血の気が引いた。


そこには、百目々鬼の生首が落ちていた。


「びっくりしたよーねーーーー」


その声は後ろから聞こえ、影山と絹井はすぐに振り向いた。そこには顔面が真っ黒で顔がない白装束を着た女性が立っていた。その不気味な容姿に影山と絹井は息を飲んだ。


「それはー、土産よー、わたしがさっっきー、首を引きちぎってねぇー」


ゆっくりとしゃべる口調。女は少しずつ近づいてくる。


「誰だお前?」


「その女のやーといーぬしーと言えばーわかるよねー?」


「お前、巡礼者代行か?」


「正確にー言えばー代行者様の部下ーだねぇー」


「部下?」


「骨女さんの部下ーの後神ーと申しますー」


「骨女だとっ!」


絹井が怒りのこもった声で反応する。その様子を見て後神と名乗った女はクスクスと笑った。


「殺せーと言われてるのでねー、死んで貰いますよー」


と言った瞬間。後神は瞬時に絹井の目の前まで移動し、ドスを構えて突き刺そうとするが、影山が間に入り、刀でドスを防いだ。


「下がってろ惑火。こいつは俺がやる」


「骨女が関係してるんだ!アタシがやる!」


「お前は体力を消耗してる!それに、こいつ実力的にお前より上だ!」


影山はドスを弾き飛ばし、刀を横に振るが、後神は後ろに大きく下がり、ドスを構えた。


「バイトの先輩がいいとこ見せてやる。だから今は休んでな」


「…わかった」


絹井は大きく下がり、影山の言う通り戦いを見守ることにした。


「話は終わったかなー。いくよー」


「おう、行くぞ!」


ガキン!と、刀とドスがぶつかり合い、勝負は始まった。




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