盗難
影山と絹井は依頼主がいる雑貨屋の前に到着した。時間が閉店時間の10分前であるため、客はおらず、他のショッピングモールの店も片付け作業を行っていた。影山は店に入り、店員を見つけ声をかけた。
「すみません、依頼を受けて来ました『ガイスト』の者何ですけど、今よろしかったでしょうか?」
「あ、はい。お待ちしておりました。今、店長呼んできます」
そう言って店員は店の奥に行ってしまった。待っている間、影山は周辺の店内を観察していた。
(少しだけ妖力の残りを感じるな…)
「妖力を隠せてないなんて、とんだ素人ね」
同じく店内を観察していた絹井が呟いた。
「もしくは隠す必要がないかだな」
「どういうこと?」
「バレても問題ない。強さに自信があるってこと。捕まえられるなら捕まえて見ろってな」
「そんな強い妖力じゃないし、そう思ってたらとんだ世間知らずの妖怪ね」
悪態をつく絹井。その様子を見て影山は妖力の強さを見極められるほどの実力があるんだと絹井のことを分析した。
そう考えているうちに店の奥から店長らしき女性が「すみません、お待たせしました」と言ってやってきた。
「泥棒の話ですよね。今回はよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします。それで、被害の状況はどうですか?」
「はい、昨日も店の物が盗まれてました。監視カメラにも写ってます。ただ、盗んでいるのが化物みたいで…」
「それ、見せてもらってもいいですか?」
絹井が店長に尋ねると「もちろんです。どうぞこちらへ」と誘導され影山と絹井は店内の奥へ行き、監視カメラの映像を見た。映像の時刻は午前1時。店内は暗く、そこに一人の女性が映像外から現れた。
「手に目玉があるな」
現れた女の手の甲には目玉があり、そして、女は商品棚から化粧水を取り、映像外へと消えた。
「すみません、聞きたいのですが、閉店したら中にはどうやって入るんですか?」
「閉店するときにはシャッターを機械で閉めているので、機械を作動させないと中には入れないんです。ただ、夜中に機械が動いた形跡はないみたいで…」
「つまり、シャッターを開けないで侵入していると…」
侵入経路は不明。影山は考えた。
(壁を透けて通り抜けられる妖怪は確かにいなくもないが、百々目鬼のような妖怪はシャッターを透けて通り抜けるのはできないはず。じゃあ、どうやって侵入してる…?)
「他に映像がありますか?この化け物がどうやって店内に入っているかわかりそうなものがあればいいんですけど…」
「すみません、そういうのはないですね。私たちもどうやって侵入しているのか調べたのですが、結局わからなくて」
「そうなんですね。わかりました」
「ねえ陸。さっきから侵入方法とかの話してるけど、重要なとこはそこじゃないでしょ。ようはこの女を倒せばいいだけでしょ?」
「まあ、そうだな…」
「なら、待ち伏せして、その場で倒す。それだけで十分。すみません、この女が出る時間までこの店にいてもいいですか?」
「うちは構わないのですが、この泥棒、うちの店だけを狙ってるわけじゃないんです」
「というと?」
「この地下街のショッピングモールの色んな店が被害にあってるんです。日によって襲われる店が違うんです」
「それは、面倒だな…」
仮に影山と絹井がある一つの店内で待ち伏せするとしても、百々目鬼が待ち伏せした店ではなく、別の店に出現してしまえば待ち伏せの意味がない。影山たちが妖力に気づいて追いかけたとしても、シャッターを開けて、百々目鬼のいる店に行ったときには逃げられてしまっている可能性がある。
「よく被害にあう店をピックアップすることってできますか?」
影山が悩んでいると、絹井は店員にそう尋ねていた。店員はスマホでショッピングモールの地図をだし、よく被害にあう5つの店を絹井に教えた。
「なあ惑火、なんか考えがあるのか」
「まあね。場所さえ特定できればあとはなんとかなる」
「何をする気だ?」
「簡単な話。トラップを仕掛ける。陸も店員さんも一回店から出て」
絹井がそう言うと、絹井は両手を前に出した。すると、絹井の指先から細い糸のようなものがでて、店内の至るところにクモの巣ように貼り付けられた。
「暗くなればアタシのネットは見えにくくなるし、引っ掛かれば少しの間動けないはず。これなら泥棒のやつに逃げられないでしょ」
「惑火、おまえ何者なんだ?」
「ん?まだ言ってなかったっけ?アタシは絡新婦だよ」
絡新婦。
女郎蜘蛛とも言う。大蜘蛛が女に化けた蜘蛛の妖怪。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』では蜘蛛を操る様子が描かれている。伝承として、蜘蛛が女に化けて男を誘惑するというものが一般的である。
「アタシの妖術は『蜘蛛糸』。まあ、このネットはその蜘蛛糸の一つ。何重にも引っ掛かれば少しの間身動きできなくなるよ」
店内張り巡らした糸を見る影山。明るいところでは糸ははっきり見えるが、暗いところではまず気づかないくらい細い。
「なるほどな。このトラップを他の店にも仕掛けて、それで引っ掛かったら俺らが駆けつければいいって作戦か」
「そういうこと。じゃ、他の店にも仕掛けていこ」
影山と絹井は過去に被害のあった店舗をまわっていく。ネットを仕掛けて、特に不備もなく進展した。
「準備OKだな。あとは来るまで待ち伏せだな」
「そうだね」
影山と絹井はショッピングモールの椅子とテーブルがいくつかある場所まで移動した。昼間は待ち合わせやおしゃべりをする場所であるが、時間が9時を過ぎているため誰もおらず、薄暗く静かであった。
「とりあえず時間までここで待機だな。ターゲットがネットに巻き付いたらすぐにわかるんだよな?」
「うん」
5つの店舗はすでにシャッターが閉まっているが、手動で開けることができるよう鍵はもらっていた。
「それにしても暇だよな。犯人が来るとしてもまだ4時間あるし」
「そうね。…待って、引っ掛かった」
「マジか!」
時間はまだ9時頃。いつも事件は深夜に起きているのに今回は早い。影山と絹井はすぐに動き出した。
「店員がただネットに引っ掛かっただけとかじゃないよな?」
「ない。アタシのネットは妖力を感知することもできる。ついでに言うとその強弱も。今引っ掛かったのは低級の妖怪じゃない」
「というと、百々目鬼の可能性があると」
「たぶんね。わかったらさっさと行こう」
影山と絹井はネットに引っ掛かった妖怪がいる店舗に急いで向かった。




