食堂にて
講義を抜け出してきた影山と冬野は大学内の食堂に移動していた。講義してる時間帯もあいまって食堂内は人が少なく、座れる席が結構空いていた。影山と冬野は適当に飲み物だけ頼み、席についた。
「ねえ、あなた名前は?」
「影山、陸」
「影山くんね。覚えとく」
名前を言った影山はまわりをチラッと見る。影山たちを見てヒソヒソ話してるやからが何人か確認できる。
(そりゃあ、有名人の冬野とパッとしない男が二人でいれば気になるよな…)
「影山くんって何学部なの?」
「一応、法学部」
「あ、わたしと同じなんだ。全然気づかなかったよ」
注目を浴びていることを気にする影山に対して、冬野は視線を気にすることなく、影山に質問をしてくる。
「でさ影山くん、影山くんはどんなゲームふだんするの?」
「そうだなー、JPEX、ヴァルキリークエスト、ダイナハザード、ネーアオートマタ…」
影山がやったことあるゲームを話していくと、見るからに冬野の目がキラキラしていく。そして、突然冬野が「影山くん!」と勢いよく声をかけてきたので、驚いた影山は一旦話すのを止めた。
「影山くん、あなた最高だね!」
「お、おお。ありがとう」
褒められて、とりあえず感謝した。
「めっちゃ、ゲームしてるじゃん!しかもわたしがやったことあるばかりのやつ!ねね、JPEXのアカウントとID教えてよ。今度一緒にやろ!」
「いいよ。ちょっと待ってな…」
影山はリュックからルーズリーフとボールペンを取りだし、アカウント名とIDを書こうとすると、冬野が「待って!」と書くのを止めた。
「どうせならLINE交換しよ。その方がゲームやるときに連絡つきやすいし」
「いいけど、冬野はいいのか?今日あったよくわからん男とLINE交換して?」
影山のイメージだが、女性が男とLINE交換するのは大分親しくなってからというイメージがあるのだが、対して冬野は「え、全然」と何言ってんだこいつみたいな顔で平然と答える。ということで影山と冬野はLINE交換することにした。交換したあと、冬野は興味深そうに影山のLINEのプロフィール画像を見ていた。
「影山くんのプロフィール画像キレイな景色だね。これどこで撮ったの?」
「いや、これ写真じゃないよ。俺が描いた絵」
「絵!?マジ!?」
影山のプロフィール画像は趣味で描いてる油絵にしてる。今回は夕日の海の絵を画像にしていて、それを冬野は写真と勘違いしていた。
「こんな綺麗な絵描けるなんてすごいね影山くん。わたし絵で感動したの初めてかも!」
「そう?ありがとう」
素直に絵を褒められたことがなかったので、影山は嬉しかった。
(なんというか、冬野に男が集まってくるのもわかるような気がしてきた)
満面の笑みで影山の絵を褒めてくれた瞬間影山はドキッとしていた。顔が赤くなっていないか心配になる。正直なところ影山は完全に今の一瞬で冬野に惚れてしまっていた。こういう感じで何人も男が冬野に恋してるんだろうなと、改めて冬野雪という人物の魅力を思い知った。
「お、雪ちゃんここにいたんだ~」
影山がドキドキしてると、影山の後ろから男の声がする。影山が振り替えるとそこには影山がカフェを出て冬野を見かけたときに一緒に歩いていたピアスだらけの男がいた。ピアス男は一緒に座ってる影山のことを気にせず、冬野に話しかけていく。
「雪ちゃん、講義あったんじゃないの?」
「うん、サボったの。影山くんと話がしたくて」
「影山?」
そう言ってピアス男は影山の顔を見る。とりあえず影山は「どうも影山です」と一言挨拶する。
「おまえ、雪ちゃんの何なの?」
「何なのって、それは…」
「友達だよ」
影山の代わりに冬野が答えると、ピアス男は「ふーん友達ねえ」と不快そうに影山を見て、それから冬野の方に顔を向ける。
「雪ちゃん暇なら、俺とカラオケ行こうぜ。こんな冴えない男といたって暇だろ?」
「そんなことないよ。影山くんとは趣味も合うし、これから語り合うところ」
「趣味ってゲームでしょ?それなら俺ともいつも話してんじゃん」
「須藤くんのやってるゲームってスマホゲームでしょ?正直スマホゲームよくわからないし、それに須藤くんわたしの話聞かないで自分のゲームの話ばっかごり押ししてくるから面白くない」
ピアス男もとい須藤は冬野に言われたことが面白くないのか、あからさまに不満げな表情を見せる。そして、突然冬野の手を掴んだ。
「いいからお前は俺と黙ってついてこいや」
「痛い!何すんの!?」
須藤は冬野の手を引っ張って無理やり立たせる。冬野は「離してよ!」と抵抗するが須藤は手を離そうとしなかった。食堂にいる人たちもこの事態にざわざわし、遠目から注目している。
「なあ、あんた。離しなよ」
嫌がってる冬野を無理やりつれていこうとするのは流石に見過ごせない。そう思った影山は須藤の腕を掴み、離すよう促すが、苛立ってる須藤に対してそれは油に火を注ぐような行動だった。須藤は冬野の手を離し、影山の胸ぐらを掴み睨み付けてきた。
「なんなんだよお前、関係ねえだろ」
「関係あるとかないとかの問題じゃない。あんたの行動が気にくわないんだよ」
「なんだと!」
キレた須藤は影山の顔面にパンチを叩き込む。もろにくらった影山は数歩のけぞった。影山は顔を触ると鼻から血が出ていた。
「普通に痛えー」
「大丈夫影山くん!?」
冬野はすぐに影山に駆け寄ってきて、影山の体を支える。影山は「大丈夫」と一言言って冬野を離した。
「テメーみたいな陰キャがいきがってんじゃねえぞ!」
そう言って須藤がまた掴みかかってくる。影山は須藤の腕を掴み抵抗した。
「もうやめてよ!カラオケならいくから!」
「お前は黙ってろ!」
そう言うと須藤は影山を離し、冬野の顔面をビンタした。それを見た影山はブチキレた。影山は須藤の肩を掴み、無理やり正面に向けて顔面を殴った。その威力で須藤は数メートルぶっ飛んだ。
「は、はにがおき…」
殴られた須藤の前歯は一本折れており、鼻血を流しながら何が起きたのかわからず混乱して倒れてた。明らかにパワーがおかしいのでまわりで見ていた人達も呆気にとられていた。
「やば、やりすぎた」
我慢できずに殴ってしまい、思いのほか注目を集めてしまったことに影山は焦った。
「冬野、ちょっと場所を変えよう」
「そうだね。影山くんの顔も心配だしね」
「これくらい、放っておいてもすぐ治るでしょ」
「ダメ。鼻血も出てるし、殴られたところも腫れてるからなんとかしないと」
殴り飛ばした須藤は放っておいて影山と冬野は食堂を逃げるように出ていった。大学内の敷地を歩きながら影山と冬野は話をしていた。
「とりあえず影山くんの顔を何とかしないとね。わたしの家少し遠いし、影山くんの家は近い?」
「いや、俺の家もそんな近くはないな」
「そっか、じゃあどうしようか…」
「いや、治療するならいい場所がある」
「いい場所?」
「大学の近くに俺の働いてるバイトの店がある。店長に頼めば、応急処置の道具を貸してくれるはず」
「わかった。じゃあまずはそこに向かおう」
目的地を決めた影山たちは影山のバイト先に向かうことにした。