ラーメンは旨い
札幌地下街には大通公園を起点に東に続く地下街と南に続く地下街とがある。どちらにも北海道物産展や飲食、雑貨、ファッションと様々な店が並んでおり、また、地下鉄へのアクセスもあるため、多くの人がこの札幌地下街を訪れている。
午後6時半。多くの人が行き交う地下街で、影山は地下街の広場で絹井を待っていた。影山の周囲にもスマホをいじりながら、誰かと待ち合わせをしているであろう待ち人が数人がいる。たまに絹井が来ていないかまわりを確認しつつ、影山もスマホをいじっていた。
「おまたせ」
声が聞こえて、影山は顔を上げて、絹井が来たことを確認して「おう」と答えた。影山が周りを見るとちらちらと絹井を見ている様子が見られた。美少女である絹井は目立つため、周りから注目されていた。
「どうかした?」
影山が視線を気にしていると、怪訝そうな絹井が影山に尋ねた。影山は誤魔化すように「なんでもない」と答えた。
「そしたら行こう。お腹減った」
「そうだな。にしても惑火が俺を飯に誘うとはな。考えてもなかったよ」
依頼主と会う時間が8時であるが、その前に絹井の提案で食事をしたいと昨日話があった。影山はとくに断る理由もないので了承し、地下街で食事をすることとした。
「食べたいものがあるの。ただ、一人で行くと知らない男に話しかけられて鬱陶しいからついてきてほしかった」
「で、どこ行くの?」
「ラーメン屋」
「え、ラーメン?」
「そう。行くの嫌?」
「いや、別にいいんだけど…」
陰キャでオシャレではない普通男子の影山はラーメン屋はよく行く場所である。しかし、オシャレ美少女の絹井がラーメン屋に行くイメージが影山にはなかった。むしろ、絹井のようなオシャレな女子には油っぽいラーメン屋は嫌う傾向があると影山は勝手に思っていた。
数分ほど歩き、絹井の目的の場所にたどり着いた。影山の目の前には香ばしい濃厚な味噌の匂いがするラーメン屋が目の前にはあった。
「ホントにここでいいのか?」
念のため絹井に尋ねる影山。「いいって。何か文句あるの?」とややくどい影山にイラッとした絹井が返答した。二人は店内に入り、ラーメンのいい匂いを感じながら店員の誘導で席に着いた。店員からお冷やを渡され、影山は「はい」と言って絹井にメニューを渡した。
「アタシは決まってるからいいよ。陸が見て」
「わかった」
メニューを見ると、おすすめが白味噌ラーメンとなっていた。他にも、醤油、塩、辛味噌など色々な種類があったが、店に入る前に味噌のいい匂いが影山の脳裏から離れず、おそらくあの匂いは白味噌だろうと考えた影山は白味噌ラーメンを頼むことにした。影山は「俺も決まったから店員呼ぶよ」と話し、影山は店員を呼んで、白味噌を注文した。
「アタシも白味噌で。あと、麺は硬めで」
絹井も注文が終わり、絹井はスマホを出して暇を潰していた。
「惑火はよくラーメン食べるのか?」
「うん。割りと好き。陸は?」
「俺も好きだよ。たまに一人で大学近くの店とか、駅周辺で食べたりね」
「へー、じゃあ、おすすめとかある?」
「すすきのにある『森永』っていうラーメン屋が旨いな」
「そこ知ってる。アタシも食べたことある。塩ラーメンがすごい好き」
「わかるわかる。旨いんだよな塩が」
「あと餃子も美味しいよ。中に行者にんにく入ってて味に深みがある」
それから絹井は自分のおすすめのラーメン屋を続々と話し、その様子はとても楽しげ。ラーメンがこの上なく好きということを影山は理解した。そんなこんなで二人分のラーメンが到着。濃厚な白味噌の匂いが食欲が掻き立てられ、影山は「いただきます」と言って、すぐに食べた。
(んー、めっちゃ旨…!)
濃厚な味わいに影山は感動。絹井を見ると、レンゲで小さなラーメンをつくり、小さな口で少しずつ食べている。そして、表情はとても満足げで赤らんだ顔で夢中でラーメンを食べていた。
(ラーメン、マジで好きなんだな…)
絹井の様子を見て影山はそう思った。二人は黙々とラーメンを食べ、先に影山が完食。少しして絹井も食べ終わり、影山は伝票もって立ち上がった。
「まとめて会計しとくよ。後で金ちょうだい」
「あ、ちょっと待って。ならこのカードにポイントもらっておいて」
と言って絹井は財布からポイントカードを出した。常連のようでカードにはすでにポイントがびっちしついていた。影山は店員に伝票とポイントカードを渡し、カードはポイントがMAXまでたまり、新しいカードももらった。影山が店から出ると、絹井が「はい、お金」と言って自分の食べたラーメン代を影山に渡した。影山は絹井にポイントカードを返すと、「お、貯まった♪」と気分がよさそうに絹井は笑った。
「ホント、ラーメン好きなんだな」
「うん。次は別のところも行こうね。今度は雪も誘って」
「いいけど、冬野はたぶん行かないと思うぞ」
「ラーメン嫌いなの?」
「ラーメンっていうか熱いものが苦手だからな」
冬野は雪ん子で、半妖であるため、基本的に熱い食べ物は苦手であり、影山が以前食事に誘ったときも出来立ては食べずに少し時間をおいてから食べていたため、時間がたってもあまり冷めないラーメンは気乗りしないだろうと影山は思った。
「そう。なら仕方ない。じゃあ陸がまた付き合ってよね」
「いいよ。また今度な」
ラーメンを食べに行く約束をし、影山と絹井は依頼先へと向かった。




