強くなる
「ん…」
影山は目を覚ます。目の前はさとるくんが造り出した校舎やグラウンドではなく、天井だった。さらに、影山はベッドで横になっていた。
「よお、やっと目覚めたか」
影山は声のした方向を見ると、そこにはベッドの近くの椅子に座っている九十九がいた。影山は部屋周囲を見渡し、ここがマヨイガの診療所であることを認識した。戦いで倒れたあと誰かが運んだんだろうと考えた影山はふと一緒に倒れた冬野のことが心配になった。
「冬野は?」
「別の病室にいるよ。お前より先に目覚めて今飯食べてるぜ」
「そうか。よかった…」
冬野の安否が聞けて安心した。そして、九十九がどうしてここにいるのか気になった。
「店長が俺たちを助けてくれたんですか?」
「いや、ここにお前らを連れてきたのは花子だ。今度礼を言っとけよ」
「そっか。花子さんが…」
花子は力尽きた影山と冬野を抱えて、崩壊するさとるくんの世界から脱出し、二人をマヨイガの診療所まで連れてきたのだった。次に影山は依頼人の大貴について気になった。
「そうだ、大貴くんはどうなったんですか?」
「俺が親のところに帰したよ。お前らが二日も寝てるから俺がしなきゃならなかったからな」
「え、俺たちそんなに寝てたんですか?」
「だいぶ妖力を消耗してたみたいだからな。水吉さんが処置してくれたからもう大丈夫だ」
「すみません。お手数おかけしました」
「いいよ別に、なんだかんだあのガキの親から感謝料もらったし、結果オーライよ!」
機嫌良さそうに話す九十九。実は大貴の親からお礼として二十万という大金をいただいていた。依頼料ちゃっかりもらっていることに影山は呆れつつも、結局自分が請け負った依頼を代わりに代行してもらったことに申し訳ないと思った。
「ところでお前、巡礼者代行と戦ったんだな」
「どうして店長がそのこと知ってるんですか?」
「花子から聞いたんだよ。それに、お前の妖力前より強くなってるし。よかったな会えて。それで、なんか情報は得られたのか?」
「少しだけ。代行には各日本の地方ごとに担当妖怪がいることを」
影山は九十九にさとるくんが北海道地区担当であることを説明し、他の地方にもさとるくんのような代行がいるのではないかという可能性の話をした。
「なるほど、確かに北海道担当とか言ってたなら、他の担当がいるという可能性はあるな」
「店長は何か知りませんか?」
「知らん。けど、そのさとるくんが強い妖怪ってことは大分人殺してるってことだろ?だったら何かしら依頼という形でうちに来るかもしれない。そしたらまた巡礼者の情報も入るだろ」
今回さとるくんから巡礼者自体の情報を聞き出すことはできなかった。それは、さとるくんと全力で戦うのに余裕がなかったからである。故に、力をつけて巡礼者代行よりも強くなれば聞き出す余裕ができてくる。
(もっと強くならないと。代行があれだけ強いなら巡礼者本人はもっと強いはずだ。やつを殺すためにももっと強く…!)
影山はより強くなることを決意しつつ、今回の戦いで自分の妖力が強化されていることに喜びを感じた。
「さて、俺はそろそろ帰ろうかねぇ。バイトは今週休んでいいから。それじゃ、ゆっくり休め」
「ご迷惑おかけします。店長」
「いいって、むしろお前のおかげでガキの親から金ももらえたし、ラッキーだと思ってるからな」
九十九は手を振って病室から出ていった。そして、十分後に入れ替わりで今度は冬野が入ってきた。
「影山くん、目が覚めたんだね」
冬野は九十九から影山が目を覚ましたことを聞いて、自分の病室から様子を見にきた。冬野が元気そうで影山は安心した。冬野は「ちょっと座りますよ」と言って、先ほどまで九十九が座っていたイスに座った。
「体調はどう?」
「全身が痛くてまだ本調子でないな。冬野はもう動けるんだな」
「うん。私は昨日目が覚めて、それから大分よくなってきた」
「そっか。よかったな」
「うん…」
返事をする冬野。その表情は冴えない。どうしたのかと影山が思っていると、冬野が「ごめんね」と急に話した。
「なんだよ急に謝って」
「影山くんがこんなダメージを受けてるの私のせいだから…」
冬野は影山が雷のメンコから庇ったこと、雷のベーゴマを捨て身で受けたことを思いだし、謝罪した。
「私がもっと強かったら、影山くんにこんな無理をさせることにはならなかった。だから、ごめん…」
「冬野が謝ることないよ。俺はただ、冬野が傷つく姿を見たくなくて、勝手にやっただけだ。冬野が気にすることない」
「でも…」
「それに、今回の戦い冬野がいなかったら絶対に勝てなかった。感謝してる。ありがとう、冬野」
影山は冬野にニコッと笑う。
「ホント、優しいね影山くんは」
「俺は陰キャだからな。少ない友達を大切に扱うのが俺流なんだよ」
「それって、陽キャは友達を大切に扱わないってこと?」
「あー、そういうわけでもないか。じゃあ、陰キャ関係なく俺は友達思いなんだよ」
「なにそれ、ふふ」
冬野も嬉しそうに笑う。
「私影山くんと友達になれてよかったよ」
「ああ。俺もだ」
互いに友達が少ない同士、改めて友達の大切さを実感した。
「私、影山くんに無理させないようもっと強くなるよ」
「俺ももっと強くなる。巡礼者を倒すために、そして、友達を守れるようもっと強く…!」
二人は頷き、強くなることを誓う。
「そしたらまずは怪我を治すことだな。明日も大学普通にあるし、単位も落としたくないからな」
「そうだね。さっさと治して日常に戻ろう」
その後、二人は他愛もない話をしながら、病院生活を送った。




