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冬野雪

有平学園大学に到着した影山は宇宙科学の講義がある5号館の4階を目指し、大学内を歩いていた。何となくまわりにいる大学生を観察しつつ、歩いていると、突然、頭に平手打ちされた。


「よお、陸!これからどこにいくんだよ?」


叩かれ、明るい男の声が影山の後ろから聞こえ、影山は振り向いた。


「よお、一樹。相変わらず陽キャだなお前は」


影山の目の前には黒髪短髪のGジャンを着た、いかにも典型的な大学生がそこにいた。影山の知り合いである。

彼の名は雨野一樹。小学校からの影山はの幼馴染。親友にして、影山に声をかけてくれる数少ない人物。今年一緒にこの大学に入学したのだ。


「これから宇宙科学の講義だよ。.....ていうかお前も宇宙科学の講義とってるだろ。一緒に行こうぜ」


「悪いな陸。俺は今日自主休講だ」


「ようはサボりだろ」


「そういうこと。今から俺サークルのやつらとカラオケ行くんだよ。陸もどうだ?」


「カラオケとか陽キャが行きそうな場所、俺が嫌いだって知ってるだろ?」


「わかってる。聞いてみただけだ。そんじゃあ、俺の分のノート頼むぜ陸!」


「はいはい、今度なんかおごれよ」


「OK!今度うまいもん食わせてやるよ!!」


そう言って影山の幼馴染である陽キャは手を振って影山から去っていった。次あったときにはラーメンでもおごってもらおう。影山はそう思った。


一樹と別れた影山は途中購買でお茶を買い、それから、宇宙科学の講義がある教室向かった。影山は教室の前に到着し、中をのぞく。200人くらいは入れる大きな教室にはすでに人が多く、席はほとんど埋まっていた。講義が始まる20分前だというのに中々の人混みで影山は少しげんなりした。


(人気な講義だから仕方がないか.....。)


これは一樹からの情報だが、有平学園大学の宇宙科学のテストは例年レジュメ持ち込み可能で、テスト内容はほとんど変わりないらしい。つまり、単位が取りやすい科目として認知されている。そのため、学生に人気な科目であるとか。


影山はできるだけ人の少ない後ろらへんの席を確保する。前後左右人は今いないが、講義が始まる頃には満席になっているだろう。講義が始まるまで影山はスマホゲームで暇を潰しながら待つことにした。影山の予想通りどんどん席が埋まっていく。仲間連れで来たやつらが「一緒に座れないどうしよ〜」とか言っているのが聞こえてくる。早く来ないのが悪いんだろと、影山は心の中でツッコんだ。


「あのぉ、すみません、となりいいですか?」


影山が心の中でリア充を蔑んでいると突然、となりから声をかけられ、影山は声のした方向を見て、驚いた。


「冬野、雪!?」


声をかけてきたのは清楚系ビッチの噂があるあの冬野雪だった。まさかそんな有名人に声をかけられると思っていなかった影山は思わず冬野雪の名前を呟いてしまった。


「あれ?何で私の名前知ってるんですか?初対面ですよね?」


「あー、えと、友達の友達があんたと知り合いでな」


正直に噂のことは言えないので影山はてきとうに嘘をついた。


「ふーん、そうなんですね。それで、私ここ座っていいですか?あなたが友達のためにとってる席とかだったらやめときますけど.....」


どうやら冬野は影山のとなりの席は影山が誰かと一緒に講義を受けるための予約してる席と思ってるらしい。


「いや、席の予約はしてないよ。座って大丈夫です」


「わかりました。では失礼」


冬野は影山のとなりに座ると、背負っていたリュックを通路の端に置き、中からモナカアイスを取り出し食べ始めた。


「あの、1人で講義受けに来たんですか?」


さっきまで男と一緒だったのに今は1人だったので、影山は気になって質問した。


「そうですよ。講義を受けるときは1人が多いですね」


珍しいなと、影山は思った。冬野は常に男と一緒にいるイメージがあるので、1人で講義を受けに来ているのが意外だった。


「まあ、この講義親友と一緒にとってるんですけど、さっきラインでサボるって来てたんで、今日は1人なんです」


「なるほど、俺と同じだな」


「同じ、ですか?」


「ああ。俺も親友がサボるっていうから1人なんだ」


「そうなんですねぇ。お互いだらしない友達を持つと苦労しますね.....」


「だな」


そんな会話をしながら、冬野がモナカアイスを食べ終わる頃に宇宙科学の講師が教室に到着した。この講義は大学内のサイトからレジュメを配布しているので、あらかじめ印刷しておいたレジュメを影山はカバンから取り出した。


「あれ?この講義ってレジュメあるんですか?」


「ん?ああ、そうだよ。前回のオリエンテーション出てなかったんですか?」


「うん。今日が初めてで」


「なら今回は俺のレジュメ見るといい」


影山はレジュメを冬野にも見えるようにテーブルの真ん中に置いた。


「ありがとう。でも、見せてもらわらなくてもいいですよ。私たぶん授業あまり聞かないので」


「は?それってどういう.....」


影山が尋ねていると、冬野は自分のリュックの中をあさり始める。影山は冬野がノートと筆記用具を取り出すのかと思ったが、それは違った。取り出したものはなんと携帯ゲーム機。しかも最新の。正直目を疑ったが、幻覚ではない。


「何でゲームなんて取り出してるんだよ?」


あまりの驚きに敬語を忘れて影山は冬野に尋ねていた。


「え?それはゲームをするからに決まってるよ」


「いやでも講義もう始まってるぞ?」


「講義内容聞きながらゲームするんだよ。まじめに勉強なんてしてたら私30分もしないうち寝ちゃうと思うしね」


ということで私はゲームをします。冬野が最後にそう言うと、ゲームを隠しながら本当にプレイし始めた。


(この女、さっきはだらしない友達を持つと苦労しますねとか言ってたくせに、自分だってそうとうなダメ大学生じゃねえか!?)


講義中にゲームを、しかもスマホゲームとかではなく、本格的なゲーム機で遊んでるやつを見るのは初めてだった。しかもそれが噂の美少女冬野雪で驚きである。まさかゲームをするなんて意外だった。


(とにかく、俺は講義に集中しなきゃ。)


影山は黙ってまじめに講義を聞く。しかし、15分くらい勉強頑張ったが、となりでメチャクチャカチカチ鳴らしてプレイする冬野が気になって講義に集中できなかった。それに、まわりの席の奴らもぺちゃくちゃしゃべるチャラい大学生ばかりなので講義に集中するのは至難だった。最悪な席を選んでしまったなと、影山は後悔した。


(それにしても、冬野は何のゲームをしてるんだ?)


おそらく誰でもやるようなメジャーなゲームなんだろうなと思い、チラッと影山は冬野がやってるゲームの画面を見た。


「ら、ライトソウル.....!?」


ライトソウル。それは最近発売された超高難易度のゲーマー御用達のRPGである。このゲームをまともにプレイできる人はほとんどいないほど難しい。影山は結構なゲーマーで色々なゲームをプレイし、もちろんこのゲームもクリア済だが、すごくやりがいがあってさらに面白かったので印象に残っていた。そんなガチのゲーマーがプレイするようなゲームを冬野がやっていて影山は驚いた。


影山が驚いて呟くと、冬野はバッと、勢いよく影山を凝視した。


「あなた、ライトソウルを知ってるんですか!?」


「え?あ、ああ.....」


影山がそう答えると、冬野はすごく嬉しそうに笑った。


「まさかこんなところでライトソウルプレイヤーに会えるなんてびっくり!ねえねえ!講義さぼって私とちょっとお話しよ。ね?」


突然冬野が影山の手を握って、影山はドキッとした。たぶん顔も赤くなってる気がする。興奮した感情を抑え、影山は冬野に反論した。


「いや、俺この講義のノートとって友達に見せてやらないと.....」


「大丈夫!今度私があなたとあなたの友達に勉強教えてあげるから!ほら、早く行こう!!」


「痛い痛い!おい!無理矢理腕を引っ張るな!」


そう言い終わると、冬野はゲームをリュックにしまい、背負って、影山の腕を無理矢理引っ張った。影山は冬野にされがままに教室を去るのだった。




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