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意思を取り戻す

影山と野寺坊は石田恵美の過去を見て、意識が児童公園に戻ってきた。過去を見て野寺坊は呆然とていた。


「まさか、恵美ちゃんがいじめられていたなんて…」


野寺坊は石田恵美が学校でいじめられていたという事実を知らなかった。寺にくる時は笑顔で、暗い側面を見せることはなかった。


「すまん、すまん、そんな辛いことがあったのに、我は気づいてやれなかった。許してくれ…」


野寺坊は自分が愚かだったことを悔やみ、少女を抱き締める。対して、少女はヘラヘラとしていて、悲しんでる様子はない。その二人を見て影山は冷静に考える。


(やっぱり、恵美という女の子は怨霊で確定か。怨霊化した霊は祓わない限りは成仏しない。でも、祓って終わりにするには可哀想すぎるよな…)


日上の魂を取り戻すため、石田恵美を祓えば簡単に取り戻すことができる。しかし、石田恵美の過去を見てしまった今、情が移った影山に石田恵美を祓おうという意思はなかった。影山は祓わず、魂を取り戻す手段を考える。


(怨霊は人を襲うという意識しかないのが一般的。だけど、怨霊から妖怪になってしまえば意思をもつことができる可能性がある。そうすれば、話し合いも通じるはず)


妖怪の一種には怨霊から妖怪になる場合がある。怨霊には意思がなく、本能のままに人を襲い続ける存在である。しかし、何らかの手段で意思を取り戻すことができれば、妖怪になることがある。


「野寺坊、この子が怨霊だってことはもうわかってるよな?」


「…怨霊であることは認める。だが、この子を祓おうつもりなら我は…」


「祓うつもりはないよ」


野寺坊が石田恵美を庇うように影山に対峙するが、影山がはっきりと戦わない意思を見せたことで警戒をといた。


「俺は日上さんの魂を取り戻せればそれでいいんだ。だから、野寺坊。魂を返すようその子を説得してくれないか?」


「…わかった」


影山の頼みを野寺坊は了承する。薬を塗り終わった冬野も影山のとなりに立ち、野寺坊と石田恵美のやり取りを見守った。


「恵美ちゃん、さっき取った魂をこのお兄さんに返してくれないか?」


「遊ぼ、遊ぼ…」


「恵美ちゃん、頼む、我の声を聞いてくれ…」


野寺坊は訴えるが、石田恵美の反応は変わらなかった。「遊ぼ、遊ぼ」と呟くばかりで、魂を取り出そうという気配はなかった。


「困ったな。どうしたものか…」


「影山くん、その子の過去を見て何か意思を取り戻すためのきっかけになりそうなものはなかったの?」


「きっかけか…」


影山は先ほど見た石田恵美の過去を思い出す。石田恵美が亡くなる前、少女は野寺坊と遊ぶためにゲームを買いに行き、そして、同級生に奪われた。その後に事故で亡くなり、いじめていた同級生を皆殺しにしている。


「復讐は果たしてるから、悔いを残してるとしたら野寺坊と遊ぶ予定だったゲームができなかったことか…?」


「ゲーム?」


「ああ。この子は野寺坊と新作のゲームをやるといって、それから色々あってゲームをすることができず死んでしまった。それがこの子の悔いになってることかも」


「確かに恵美ちゃんは一緒にゲームをしようと言っていた。しかし、何のゲームをしようとしてたのかは我もわからん」


「うーん、野寺坊さん、恵美ちゃんが亡くなった日っていつかわかりますか?」


「3月24日だ。それがどうかしたか?」


「3月24日だね」


冬野はスマホを取り出し、何かを調べ始める。影山と野寺坊は何を調べてるんだろうと考えていると冬野が「これかなぁ」とスマホを二人に見せる。スマホにはとあるゲームのパッケージが画面に写っていた。


「その日に発売されたゲームで、女の子に人気のあるゲームと言えば、この「農場物語」だと思うんだよね」


「農場物語か。確かに女子小学生が好きそうなゲームだな」


「このゲームを恵美ちゃんに渡せば、もしかしたら何か思い出してくれないかな?」


「試す価値はありそうだな」


生前にやれなかったゲームを渡すことで、生前の記憶をはっきりと思い出し、それがきっかけで石田恵美は意思を取り戻し、話が通じるようになるかもしれない。


「ただ、私、農場物語持ってないんだよね。影山くん持ってる?」


「農場物語なら俺持ってるからとってくるよ」


「影山くんの家ここから近いの?」


「いや、遠いけどそこにトイレがあるから、花子さんに頼んで俺の家に送ってもらうよ」


影山が指を指した方向には児童公園に設置されている公衆トイレがあった。冬野も「なるほど、それなら大丈夫だね」と納得。その二人の会話を聞いていた野寺坊が状況がついていけず、一人困惑していた。


「よくわからないが、おぬしがそのゲームを今から持ってきてくれるのか?」


「ああ。少し待っててくれ」


そう言って影山はすぐにトイレに向かう。そこで、一番奥のトイレを三回ノックし、「花子さん、遊びましょ」と声をかける。すると、扉が勝手に開き、中から不機嫌そうに花子さんが出てきた。


「汚いトイレだねー、こんなところで呼び出して何のつもり?」


「俺の家までワープしてほしいです」


「いいよ。ただ、こんな汚いトイレに呼び出してくれたんだから、今度何かおごってもらうからね」


「わかりました。今度何かお詫びします」


「はい、それじゃあトイレに入って」


影山は花子と共にトイレに入り、目を閉じる。そして、再び目を開けるとそこは影山のアパートのトイレであった。


「また、あのトイレに戻りたいから、ちょっと待っててください」


「あいよー」


影山はトイレを出て、ゲームをしまっている棚から農場物語を探す。農場物語はすぐに見つかった。農場物語は携帯ゲーム機なので、ソフトとゲーム機本体を持って影山はトイレに戻った。再び、花子に頼み、児童公園のトイレに戻った。


「ありがとうございます、花子さん」


「いーよ、それより、急いでるんでしょ?早くいきなさい」


「はい!」


影山はトイレを出て、野寺坊たちのところへ向かう。


「お待たせ!持ってきたよ」


影山はゲーム機と農場物語を野寺坊に渡す。野寺坊は早速、石田恵美にゲームを見せた。


「恵美ちゃん、一緒に遊ぼうと約束したゲームだよ」


石田恵美はゲームを見る。すると、ヘラヘラしていた表情はなくなった。「ああ、ああ…」と突然目から涙を流しながらゲームに触れる。


「ゲーム、一緒に、やるって、約束した…」


「そうだ。遅くなってしまったが、一緒にやろう」


「うん、うん…。遅くなって、ごめんなさい…」


「いいんだ。それよりも、恵美ちゃんが辛い目に合っていたのに気づけなくて、すまなかった」


野寺坊は泣きながら、石田恵美に謝罪する。対して、石田恵美は頭を横にふった。


「いいの。どんなに辛いことがあっても、野寺坊さんと遊んだら、へっちゃらだった。だから、謝らないで」


「ありがとう、恵美ちゃん…」


ヘラヘラとした表情ではない、明るい表情で石田恵美は野寺坊に笑顔を見せた。そして、その二人を見守っていた影山と冬野の方を見た。


「お兄さんたち色々ご迷惑おかけしてごめんなさい。お姉さんの魂返すね」


そう言って石田恵美は手のひらから青白い球状のものを取り出し、影山に手渡した。


「お兄さんとお姉さんの声ちゃんと聞こえてたけど、体が言うこと効かなくて、だから私を自由にしてくれてありがとう」


礼を言う石田恵美は怨霊から、妖怪として顕現し、意思を取り戻すことができていた。


「いいんだ。それより、自由になれてよかったな」


「うん、それとねお兄さん。しばらく農場物語借りてちゃダメかな?」


「いいよ。今やってないから。でもちゃんと返せよ?」


「ありがとお兄さん!」


影山と話をしていた石田恵美は、今度は冬野の方を見た。


「お姉さんも、友達の魂奪っちゃってごめんね」


「魂が戻ってきたし、気にしなくていいよ。それに詩織の半分自業自得だからね」


「お姉さん強くて楽しかったよ。また戦おうね!」


「あはは、それは勘弁してほしいな…」


冬野は愛想笑いするが、戦闘は好きではないので、本心は二度としたくないと思った。対して、石田恵美はやる気満々。冬野のことを気に入っていた。

冬野と石田恵美が話している間、野寺坊が「青年」と言って影山に話しかけてきた。


「礼を言う。おぬしのおかげで恵美ちゃんは前の恵美ちゃんに戻すことができた」


「気にしなくていいよ。それより、これからどうするんだ?」


石田恵美は妖怪となった。妖怪となってしまえば成仏はすることができない。妖怪として生きていくしかない。妖怪には寿命がないため、祓われない限りは永遠を生きることになる。


「変わらず恵美ちゃんを守り抜こう。友としてな」


「…そうか」


共にゲームを遊び始めた野寺坊と石田恵美の姿を見てから、魂を取り戻すことができた影山と冬野は二人にゲームを預けて、児童公園から立ち去った。




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