少女の怨霊
影山と野寺坊が戦闘してる一方で、冬野は少女の霊を追いかけていた。二人は一度寺を抜けて、住宅街を走っていた。
「もう、どこまで逃げるつもりなの?」
ひたすら少女を追う冬野はいい加減疲れてきていた。二人は児童公園に入る。深夜の児童公園には誰もおらず、冬野はここで決着をつけようと考えた。少女が児童公園を抜け出そうとすると、目の前に氷の壁が出現し、逃道を妨げられた。
「もう逃がさない。ここで決着をつけさせてもらうよ」
冬野がそう言うと、少女も観念して冬野に対峙する。
冬野雪の妖術は『氷結』。冬野が黙視しできている液体を瞬時に凍らせることができる能力。凍らせた物体は冬野が能力解除するまで溶けることなく、また、浮遊させ相手に氷塊を衝突させることもできる。
「詩織の魂は返してもらう!幽術、流霊衝!」
冬野の手から水の砲弾が発生し、少女に放たれる。水の砲弾は少女に直撃し、少女をぶっ飛ばす。びしょ濡れになった少女は地面を転がる。少女はすぐに立ち上がろうとするが濡れている部分が所々凍っていて立ち上がることができなかった。
「幽術、水柱」
上空に水の杭が発生する。そして、その杭は凍り、氷の杭となる。杭は落下し、少女の腹を貫いた。
「エグい攻撃でごめんね。でも、友達の魂を奪われて甘くいられる性格じゃないの」
腹を貫かれた少女に冬野は近づく。止めをさそうと少女の顔を見ると、少女は不気味に笑っていて、冬野はゾッとした。
(なんでこの状況で笑ってられるの…!?)
「こんなの、痛くない痛くない痛くない」
冬野が少女に呆気にとられていると、少女が突然話だし、さらに、凍っている手足を無理矢理引き剥がし、腹に刺さった杭を引き抜いた。貫かれた腹の傷は徐々にふさがっていく。
「再生してるの?まさか、これってあの子の妖術?」
傷が完全に塞がると、少女は冬野に飛びかかる。冬野は避けて、少女の腹に蹴りをたたき込み、数メートルぶっ飛ばした。少女は蹴られたにもかかわらず、ニヤニヤと笑って冬野を見ていた。
「遊ぼ?遊ぼ?遊ぼ?遊ぼ?」
「ホント、不気味だね…」
冬野が少女に対してゾッとしていると、突然少女の手から水の砲弾が放たれた。それは冬野が先ほど放った流霊衝だった。油断していた冬野は避けきれず、直撃。数メートル飛ばされた。
「あの子幽術を使えるの…!」
少女は続けて流霊衝を連続で放つ。冬野は避けて、反撃の準備をする。
「幽術、双水槍」
冬野の両手から水の槍が発生し、水の槍は凍って氷の槍となる。冬野は少女から放たれる流霊衝を切り裂き、少女に向かって突撃する。冬野は氷の槍を少女に突き刺した。しかし、少女は怯まず、今度は冬野の真上に水柱を発生させ、冬野を押し潰そうとする。気づいた冬野は避けようとするが、少女に腕を掴まれ、動くことができなかった。
「しまっ…!」
冬野は水柱の水圧で押し潰された。強力な圧力で地面にはりつけにされる。冬野は吐血し、立ち上がろうとするが、少女が冬野の腹を蹴り飛ばし、冬野は数メートル転がった。
「はぁ、はぁ…。やってくれるね…」
冬野は立ち上がり、少女の様子を見る。少女は「もっと遊ぼ?遊ぼ?遊ぼ?」と言って冬野を見て笑っている。
(あの子、私の幽術を見てどんどん強くなってる。本気でやらないと少しまずいかも…)
冬野が懸念していると少女は双水槍を発生させて、冬野に向けて投げつけてくる。冬野は目の前に氷の壁を発生させて攻撃を防いだ。
「久しぶりの戦いだから体がなまってたかな。だから、ここからは本気で戦ってあげるよ」
冬野は凄まじいスピードで少女の懐に入り、拳を腹にたたき込む。続けて手から幽術、流霊衝を放ち少女弾き飛ばす。少女は負けずに反撃で双水槍を放つが冬野は避けて、少女の顔面に拳をたたき込んだ。そして、回し蹴りで少女を蹴り飛ばした。
「私の本気、少し見せてあげる」
冬野は妖力を集中する。
「幽術、氷王流霊衝」
冬野の両手から巨大な水の砲弾が形成され、そして、それは凍りつき、氷の砲弾へと変化し、放たれる。氷の砲弾は少女に直撃し、弾けて巨大な氷山をつくりだした。中心には氷漬けになった少女がいた。冬野は指をパチンと鳴らすと、氷は砕け散り、少女はバラバラになって氷の下敷きなった。
「流石に終わりだよね。さて、詩織の魂を抜き出そうかな」
冬野が手を前に出すと、氷は一瞬で水となり、下敷きになっていたバラバラの少女が現れた。その姿を見て冬野は少し違和感を感じた。
(おかしいな。倒せば普通奪った魂は出てくるはずなんだけど…)
冬野がバラバラの少女を見ていると、バラバラになった少女のパーツが集まり、くっついていく。最終的には全てのパーツが合わさって少女は元通りになった。
「遊ぼ遊ぼ遊ぼ」
「嘘でしょ!?あの子無敵なの?」
復活した少女は何もなかったの如くニヤニヤしながら冬野を見ていた。
「あれで仕留められないなんて、ホント化物だね…」
冬野が悩んでいると、そんなのお構いなしで少女は拳をたたき込む。腕で防ぐが、その威力で冬野は怯んだ。そして、次に少女は妖力を集中する。そして、流霊衝を放とうとするが、流霊衝が放たれることはなかった。
「流石に妖力が尽きたみたいだね。あんな無茶苦茶な再生をしたなら大分妖力を消耗しただろうしね」
と言う冬野もほとんど妖力を使い果たしてるため、攻撃は物理攻撃で、少女の顔面を殴り飛ばした。殴られた少女は地面に倒れた。
「勝負ありだね。さ、魂を返して」
冬野は少女を見下ろす。少女は相変わらず笑っている。魂を出そうとする気配がない。
「返したら見逃すから、お願いだから魂を返して!」
できれば殺したくない。冬野はそう思って少女に要求するが、応じない。ただただ笑っている。
「そう。それがあなたの答えだね。なら、仕方ない」
冬野は幽術で双水槍をつくりだし、そして凍らせて氷の槍をつくりだす。
「ごめんね」
冬野は氷の槍を少女に突き刺そうとしたそのとき、「待ってくれ!」と叫び、止める声が聞こえて冬野は手を止めた。振り返ると、そこには影山と野寺坊が急いでこちらに向かってきていた。
「その子を祓わないでくれ!頼む!」
野寺坊は少女を守るように冬野の前に立ちふさがる。意味が分からず冬野は答えを求めるように影山の顔を見た。
「野寺坊と契約したんだ。その子の過去を見て成仏させるって」
「えと、過去を見る?成仏させる?」
よくわからず冬野は聞き返す。
「野寺坊はその子を成仏させたいみたいなんだ。だから、成仏さえさせれば日上さんの魂もその子から離れて元の主のところに戻る」
「なるほど、それで過去を見るっていうのは?」
「その子の過去を見て何で成仏できないのか調べる。俺の武妖具ならそれが可能なんだ」
「影山くんの刀ってそんなこともできるの?」
「ああ。俺の武妖具の力は時を遡ることだからな。人や妖怪の過去を見ることもできる」
「へー、便利だね」
「ところで冬野、身体中怪我だらけだけど大丈夫か?」
冬野の服はところどころ破れ、手足には擦り傷ができていた。戦闘中に地面を転がったりしたためにできたものである。
「これくらい大丈夫だよ」
と冬野は笑顔で応じたが、明らかに大丈夫な怪我ではなくて影山は呆れた。「とりあえずこれ使ってくれ」と言って、影山はポケットから小さな丸い筒のようなものを取り出し、冬野に手渡す。蓋を開けて中を見ると、軟膏のようなものが入っていた。
「これって?」
「水吉さんの傷薬。結構効くから」
水吉という名前を聞いて、以前黒坊主を倒したときに影山が入院した診療所の河童の名前がそうだったことを冬野は思い出した。
「冬野はそれ塗って休んでてくれ」
「…わかった。それじゃあ、頼むね影山くん」
冬野は近くのベンチに座り、傷口に塗り薬を塗り始めた。一方で、影山は少女に近づいていく。傍らには野寺坊が不安そうに見ている。
「本当に大丈夫なのだろうな?」
「ああ」
影山は頷き、少女の頭に触れる。少女は特に抵抗はせず、ニヤニヤ笑っている。
「野寺坊、お前もその子の頭に触れろ。そしたら一緒に見ることができる」
「わかった。恵美ちゃん、少し頭触るよ」
野寺坊は少女の頭に触れた。
「そしたら過去を見るぞ」
影山がそう言うと二人の視界は暗転し、二人は頭に触れたまま気を失った。




