冬野家
日上の配信を一緒に見るため、影山は冬野の家に誘われた。一旦影山は荷物を取りに影山の住んでるアパートに寄り、そして今冬野の家の前に着いた。
「マジで来てしまった…」
冬野の家は二階建ての一軒家である。見た目は古くも新しくもなくという印象であるが、所々リフォームしたようなあとがある。家の近くには小さな花壇があり、色々な花が植えられている。冬野は家に入り、影山も続いて家に上がった。
「ただいまー」
「おじゃまします…」
家に上がり、影山は冬野に続く。奥から「おかえりー」と女性の声が聞こえる。おそらく冬野の母親だろうと影山は予想した。冬野についていって、居間にいくとソファーに座ってテレビを見ている女性が一人いた。
「いらっしゃい、あなたが影山くんね」
冬野と同じ黒髪のボブ。整った顔立ちで一瞬影山は見惚れて固まってしまう。女性はニコッと笑う。顔が冬野に似ているので、影山はすぐに冬野の母親であることに気づいた。
「影山陸です。夜分遅くにすみません」
「雪の母です。娘から色々聞いてるわ。娘がお世話になってるようで、ありがとね」
「いえいえ、逆に冬野がバイトに来てくれたおかげで助かってます」
「そう。ならよかったわ」
「母さん、ご飯ってある?わたしも影山くんもなんも食べてなくて」
「晩御飯の残りあるわよ。今持ってくるわ」
「あ、わたしも手伝う!影山くんはそこで待ってて!」
冬野に促されて、影山は近くのソファーに座った。依頼以外で誰かの家に招待されるのは久しぶりなので、影山は少し緊張していた。少し待っていると、冬野と冬野の母が晩御飯の残りであろう、ご飯や味噌汁、野菜炒めなどを持ってきた。食事の準備ができ、影山と冬野は「いただきます」と言って、食事を始めた。影山はまず、野菜炒めを皿に取り分けて一口食べてみた。
「美味しい!」
思わず影山はそう言うと、「あら、ありがとう」と冬野の母は返答した。一緒に食べている冬野は誇らしげな表情を浮かべている。
「ねえ、影山くん、雪とは普段どんな話をしているの?」
影山が黙々と食事をしていると、冬野の母が話しかけてきた。
「えと、ゲームの話をよくしてます」
「そう、最近雪が部屋で喋りながらゲームしてることあるけど、その相手って影山くん?」
「はい、そうです」
最近影山は冬野とボイスチャットで話ながらFPSをすることがある。冬野の母はそのことを話しているのだろうと、影山は思った。
「良かったわね雪。ゲームで遊べる友達ができて」
「うん、影山くん、ゲームうまいから楽しいよ」
「それで、影山くんとはどこまでいったの?」
「ん、どこまでって?」
「キスくらいはしたの?」
と冬野の母から言われて影山と冬野の二人は思いがけない言葉で思わずむせ込んだ。
「母さん、影山くんとはそういう関係じゃないから!」
「そうなの?てっきり、雪は影山くんのことが好きなのかと思ったけど…」
「違うから!影山くんはただの友達!恋愛感情はこれっぽっちもない!!」
(これっぽっちもないのか…)
全否定されてしまい、間接的にフラレた影山は一人落ち込んだ。落ち込みながらも食事を食べた影山。食べ終わり、食器を下げ終わると、冬野が影山の服を引っ張って「影山くん、早く部屋に行こう」と催促する。影山は冬野のあとをついていくと、冬野の母が「雪」と冬野を呼び止めた。
「ちゃんと避妊はするのよ?」
「な、だから、そういうのじゃないから!」
冬野は顔を赤くして全力で否定する。冬野の母は愉快そうにニコニコしていた。
「冗談よ。影山くん、雪のことよろしくね」
「えと、はい…」
影山は冬野の母の顔を見る。冬野に似ている冬野の母は優しそうに微笑んでいる。
(あれが、八妖将の一人、雪女か…)
噂の妖怪を目の当たりにし、影山はじっと見る。妖力をセーブしているのか、まったく妖力を感じられないが、解放されたとき凄まじいものであろうことを影山は予想した。影山が冬野の母を見ていると、冬野は面白くなさそうな表情で影山の腕をつねった。
「痛い痛い、どしたの?」
「なんでもないよ。早く部屋に行こう」
そう言って冬野は影山の腕を掴み、居間を出て二階に上がっていく。階段を上がり終わると、人が良さそうな少し小太りの男性と遭遇した。
「おかえり雪、その人は?」
「影山くんだよ父さん」
「ほぉ!君が!」
冬野が父さんと呼んだ人物はニコニコした表情で影山を見た。
「雪の父です。雪から聞いてるよ、結構なゲーマーなんだってね」
「はい。一応色々やってます」
「娘と最近FPSやってるよね?今度俺も混ぜてよ」
「えー、父さん雑魚だからダメだよ」
「そんなこというなよー、父さんだって影山くんと遊びたい!」
「ダメー。もっと強くなってから出直してくださーい」
「わかったよ。それじゃ影山くん、ゆっくりしてってね」
「はい…」
冬野の父は影山に手をふって階段を降りていった。
(あの人が冬野の父親か…)
若干だが冬野の父から妖力を感じたが、それは妖怪のものとは違う、人間としての妖力。つまり、冬野の父は人間であり、虚であることを影山は認識した。
「さ、部屋はこっちだよ」
冬野に誘導されて、影山は冬野の部屋に入った。冬野の部屋には、ベッドや机、棚などあるが、大きな特徴としてたくさんの着物がハンガーラックにかけられていて、テレビの前には数種類のゲーム機が置かれている。さらに、棚には大量のゲームが並べられている。
「なんというか、すごい部屋だな」
「え、変かな?」
冬野が不安そうな表情で影山に尋ねるが、影山は首をふって否定した。
「いや、そんなことないけど、インパクトがある」
影山はたくさんかけられている着物を見る。
「綺麗な着物だね」
「ありがとう。わたしの部屋着なんだ」
「へー、部屋着かぁ」
影山は目の前の着物を見ながら着物を着た冬野を想像する。和風美人感があり、これはこれでいいなと影山は一人考えた。次に部屋にあるゲームの山に目が移る。
「すごいゲームの量だなぁ」
「百以上あるよ。今時のやつは大体揃ってると思うよ」
「百!?それは凄いな…」
圧倒的な数に影山は驚く。ゲームのタイトルを見ていくが、知っているものもあれば、知らないものもある。冬野が相当なゲーマーであることを影山はあらためて思った。
「ねえ、影山くん、配信まで時間あるし、一緒にゲームしよ」
影山は現在の時刻をスマホで確認する。今の時刻は11時20分。もし配信が始まるとしたらまだ三時間以上ある。
「そうだね。なんかゲームしよか」
「じゃあ二人でラインクラフトやろ!究極の建造物二人でつくろ」
「暇だし、やるか」
ということで二人はゲームをして配信まで過ごすことにしたのだった。




