大丈夫かな?
「ありがとうございました!」
大学での講義が終わり、影山と冬野はガイストで働いていた。今最後のお客さんが帰り、影山はレジの清算をし、冬野は洗い物をしていた。
「ふぅ、これで今日の仕事も終わりだな」
「だねー」
洗い物が終わり、冬野は食器をすべて片付けた。一方で影山のレジ閉めも終わり、二人は一段落していた。
「今日店長、一回もでてこなかったね」
「だな。相変わらずいい加減な店長だよ」
「そうだねー」
冬野が頷く。その表情は少し浮かない顔をしてるのに影山は気づいた。そして、その気がかりなことを影山はなんとなく察しがついていた。
「日上さんが心配なのか冬野?」
「え、なんでわかったの?」
「一人かくれんぼの話聞いてからずっとバイト中浮かない顔してるよ」
「そう、なんだ…」
そう言って冬野は近くのイスに座って、スマホを見る。そして、日上のRuTubeのマイページを開いて眺める。
「なんか嫌な予感がするんだよね。今回の配信」
「考えすぎだよ。一般人が降霊術したところでまず何も起きない。心配ないよ」
と言いつつ、影山も内心なんとなく胸騒ぎを感じていた。日上には確かに妖力を感じられなかった。しかし、なぜか気になる感じである。影山が心配ないと言うと、冬野が「これ見て」と言って、日上のチャンネルに投稿されている動画の一つを再生し、影山に見せた。その動画は日上が心霊スポットを探検するという内容のものだった。
「これ、動画の後半あたりにホントに霊が映るんだよね」
「これ一人で行ってるのか、日上さんすげー度胸あるんだな」
「度胸あるのはいんだけど、この後、霊にとりつかれて大変だったんだよ」
「とりつかれてって、霊はどうしたんだ?」
「もちろん、私が祓ったよ。それと、心霊動画はこれだけじゃないんだよ」
冬野はスマホの画面をスライドして影山に見せていく。ホントに霊が映る動画を冬野がピックアップし、影山が見る。
「結構あるんだな」
「そう、詩織はたまに幽霊にとりつかれやすくて、何かしらトラブルが起きてるの」
投稿されている動画には、霊ががっつり映り込み、テレビやRuTubeの嘘臭い心霊動画と比べると、日上の動画はガチであり、人気な理由もなんとなく理解できる。
「トラブルか。今回も何かしら起こる可能性があるということか」
「と思うんだよね。あー、やっぱり三時まで起きて配信見ててあげないとまずいかなぁ」
「でも、なんで日上はとりつかれやすいんだ?日上は妖力ないはずだろ?」
「そうなんだよ。おかしいよね?」
基本的に霊にとりつかれやすいのは、霊のことが見えている人物に限られる。それは、霊が自分を助けてくれるかもしれないと助けを求めている、もしくは見られたことで警戒し、危害を加えるパターンとなる。いづれにせよ、前提条件として霊がいることを認識できる必要がある。認識するには少なからず妖力が必要であり、なければ見ることも感じることもできない。故に妖力がない日上がとりつかれるのはおかしいということになる。
「動画見ても霊が映ってるシーン詩織はいつも気づいてない。見えてない。なのになんでとりつかれるのかなぁ」
「それはたまにしか妖力を発しない体質なんじゃない?」
冬野の発言に対し、突然となりから返事が来て、見てみると、そこにはいつの間にかトイレの花子さんが座っていた。
「うわ、花子さん!?」
突然現れた花子に驚き、冬野は立ち上がった。そんな様子を気にせず、花子は冬野のスマホに流れている日上の動画を見ていた。
「へー、この子、虚じゃん。珍しいわね」
「虚?」
意味を知りたくて冬野は無意識に影山の方を見る。影山に当然虚について知っていて、解説する。
「虚はうまれつき莫大な妖力をもっていて、その妖力を無意識にセーブしてる人のこと」
「ちなみに、この影山陸も虚なんだよ雪ちゃん」
影山もうまれつき妖力をもっていて、霊や妖怪を見ることができる。昔は無意識に妖力をセーブしていたが、今は自由にコントロールでき、妖力を発することもできれば、抑えることもできる。妖力を持つ人間や妖怪は霊や妖怪から狙われやすいため、妖力をコントロールできる人間や妖怪は普段は妖力を抑えて、狙われないようにしている。
「ただ、花子さん、セーブ出来てるってことは妖力を発してないってこと。発してなければ霊から襲われることはない。なのに、日上さんはとりつかれることがある。これっておかしくないですか?」
「そうだね。霊は妖力を発する者に寄りやすい。つまり、その子は妖力を発してるんだよ」
「待ってください花子さん。私、詩織とは子供のときからの付き合いだけど、一度も妖力を感じたことないですよ?」
「常に一緒にいるわけじゃないでしょ?この子の場合、無意識に身の危険を感じたときに、セーブしている妖力が一瞬だけ発してしまうんだと思うよ。そういう虚の子はたくさん見てきたし」
妖力を意識的にコントロールできている虚は無意識に妖力を発することはない。しかし、コントロールできない虚は自身に危害が加わろうとすると、身を守ろうと妖力を発してしまうことがある。常に妖力を発し続ければそれはバリアとなり、霊はとりつくことができないが、一瞬だけ発して元の状態に戻れば霊がとりつくことは可能である。
「それにしても、一人かくれんぼか。虚の子が降霊術をしたら、いったいどんな霊が現れるのかしらねぇ」
ウフフ、と愉快そうに花子は笑う。対して、影山と冬野は危機感を感じていた。
「まずいな。虚の日上さんが降霊術なんてしたらヤバい霊が現れるのなんて目に見えてるぞ」
「わたし、詩織にやめるよう電話してみる」
冬野はすぐに日上に電話をかけた。二回コールがあり、日上はすぐにでた。
「もしもし、詩織?」
「はーい、どしたの雪ー?」
「今日の一人かくれんぼね。やっぱり危険みたいだから今日の配信中止にして」
「えー、でも視聴者にはやるってメッセ送っちゃったからなぁ」
「とにかく危険だからダメ!いい?ダメだからね!」
「わかったわかった、じゃあ一人かくれんぼはやめときますよー」
「ホントにダメだよ?」
「はーい、それじゃねー」
と言って、日上は電話を切った。軽い口調の日上に対し、冬野はとても不安だった。
「大丈夫かな?」
「ダメそうなのか?」
「やめとくとは言ってるけど、なんか軽い調子で言ってるから不安かも」
「日上さんの家に直接行ってみる?」
「うーん、たぶん詩織のことだから今日行っても、明日とか明後日とか、やる気がするんだよねぇ」
「ええ、なんとかならないのか?」
「言っても素直に聞かない性格だからね。ホントに危険な目に合わないとやめないかも」
「大変な友達をもったな冬野」
「良いところもあるんだけどね」
普段から日上のトラブルに振り回されているのだろうと、影山は思い、同情した。
「とりあえず、今日の配信注意して見ておく必要があるということだな」
「影山くんは寝て良いよ。わたしが起きて見てるから」
「いや、冬野の友達なら放っておけないよ。俺も今日は家で見てる。それでヤバそうだったら冬野に連絡して日上さんの家に向かうよ」
「それって、なんか効率悪くない?」
影山と冬野が話していると、花子が突然間に入ってきた。
「どっちかが、家に泊まって一緒に配信見てる方がすぐに行動に移せるし、効率良くない?」
「いや、そうですけど、流石にそれは…」
彼氏でもない影山が冬野の家に泊まりに行くのは、冬野の親が許すわけないし、逆に影山の家に冬野を連れてくるのも許すわけがないと、影山は思ったが、冬野は「あ、それいいですね!」と花子の提案に乗ってきた。
「じゃあ影山くん、わたしの家に泊まりにきなよ。わたしが泊まりに行くのはたぶんダメって言われるし」
「待て待て冬野!そんなの許されるわけないだろ!」
「え、なんで?」
冬野は何を慌てるんだろうと不思議そうに影山の顔を見ている。
「普通、冬野の親が許さないだろ。彼氏でもない男を家に呼ぶのは…」
「うーん、気にしないと思うよ?さ、影山くんの家に荷物取りに行ってわたしの家に行こ!」
そう言って冬野は帰りの支度をして、ガイストを先に出ていってしまった。
「良かったわね。泊まれて」
「花子さん、もしかして俺が冬野に惚れてるの知ってて言いました?」
「さて、どうでしょう?」
ウフフ、と愉快そうに笑う花子。対して、影山は不安だらけだった。
(ホントに泊まりに行って大丈夫なのか?)
ということで影山は冬野の家に泊まりに行くこととなった。




