詩織の心霊チャンネル
「詩織の心霊チャンネル?」
日上のスマホを見て影山は呟く。スマホにはRuTubeという動画投稿サイトの日上のアカウントの画面が写っており、アカウント名が詩織の心霊チャンネルとなっていた。
「日上さんってRuTuberだったの?」
「そう。意外とチャンネル登録者いるんだよ」
と言われて影山はチャンネル登録者を見る。そこには約一万二千という数字が書かれていた。
「一万二千人!結構いるな」
「ああ。俺も最初見たとき驚いたぜ。詩織のやつ、なかなか才能あるよな」
(詩織って、いつの間にか下の名前で呼んでるし…)
陽キャのコミュ力すげぇ、と影山は思いながら影山は自分のスマホでRuTubeを開き、日上のアカウントを見る。投稿されている動画のほとんどが心霊スポットに行ったり、都市伝説の検証するような動画ばかりで、視聴数一万越えてるものが多い。
「日上さんって心霊系の動画投稿してるんだね」
「そう。これがなかなか需要あるんだよね」
グッと、親指をたてて、日上はどや顔で答える。その姿を見て冬野は呆れた表情を見せる。
「需要あるって、その動画づくりのために何回も霊にとりつかれてるよね詩織。そのたびにわたしが徐霊しなきゃならないんだから勘弁してよね」
「まあまあ、報酬渡してるんだから許して許して」
とヘラヘラして話す詩織に対して、冬野は呆れた表情でため息をつく。冬野も大変なんだなぁ、と影山は思った。
「とりあえずチャンネル登録すればいいの?」
「うん、それもお願いしたいんだけど、ついでに相談にものってくんないかな?」
「相談?」
「うん。今度配信で一人かくれんぼやろうと思ってるんだけど、それの意見ほしいんだよね」
「一人かくれんぼって確かひと昔流行った都市伝説だっけか?」
話を聞いていた雨野がそう話すと影山はコクりと頷いた。
一人かくれんぼ。
2006年頃ネットで流行った都市伝説である。降霊術の一種とされていて、誰もいない家で行う。ネットでは怪奇現象が起こると言われ、大いに盛り上がっていた。やり方は以下の通りである。
①ぬいぐるみを用意し、中身をすべて取り出し米と自分の爪を入れて、赤い糸で縫って閉じる。
②隠れ場所をあらかじめ決めておき、そこに塩水を置いておく。
③午前三時になったら風呂場でぬいぐるみに「最初の鬼は◯◯(◯◯は自分の名前)」と三回言って、水をはった風呂桶に入れる。
④家中の電気を消し、テレビは砂嵐の状態にして目をつぶって十秒数える。
⑤刃物を持って風呂場に行き、「××(××はぬいぐるみの名前)見つけた」言って刺す。そして「次は××が鬼」と話し、塩水のある場所に隠れる。
⑥隠れて終わらせる場合は塩水を少し口に含んで、ぬいぐるみに残りの塩水と口に含んでいる塩水を順にかけて「わたしの勝ち」と三回宣言して終了となる。なお、一人かくれんぼは二時間以内に終わらせること。使ったぬいぐるみは燃やして処理することが絶対である。
「結構手順が複雑なんだね」
スマホで一人かくれんぼの手順を調べていた冬野が呟く。
「詩織はこの手順全部覚えたのか?」
同じくスマホを見ていた雨野が尋ねると日上は「イエス!」とノリよく答えた。だが、そのあと少し不安げな表情を見せながら、影山の方を見た。
「ただ、心配なのがこの手順で本当に大丈夫なのか、そもそも一人かくれんぼは大丈夫なのか気になってね。そこで、影山くんの出番ってわけよ」
「俺?」
「そう。雪に聞いてもわかんないって言うし、それならオカルト系に詳しいっていう影山くんなら一人かくれんぼが安全かどうか教えてもらえると思ってね」
影山が冬野を見ると、うんうんと冬野は頷いていた。前回の黒坊主討伐にあたって妖怪の解説をしたりとしていたために、オカルトに詳しいという認識になっていた。
「まあ、確かに陸はこういうの詳しいよな。それで、実際のところどうなのよ?」
「安全ではないけど、危険でもないかな」
「どういうことだよ?」
「こういう一般人でもできる降霊術っていうのは大体失敗するか、成功しても大した霊は現れない。簡単に徐霊できるし、実害もそんなにない」
「じゃあ、安全ってことだね」
影山の話を聞いて、冬野が安心した表情を見せるが、影山は首をふって否定した。
「一概にもそうとは言えない。希にヤバいやつも呼んじゃうときもある。そうなったら簡単に徐霊はできない」
「ヤバいやつってどんなの感じの?」
「俗に言う悪霊ってやつ。とにかく降霊したやつを殺そうと動くからめっちゃ厄介。並みの霊能力者なら殺されるだろうな」
話を聞いてる冬野と雨野は何も言わず、場の雰囲気が重くなる。しかし、話を聞いてる日上は「なるほどー」と言いながら、まるで世間話を聞いている感じくらいでのんきに話を聞いていた。
「詩織、一人かくれんぼ危険っぽいみたいだし、別の動画にした方がいいんじゃない?」
「うーん、でも基本的にその悪霊って出ないんでしょ?」
「そうだね。悪霊呼び出すくらいになると、相当な妖力必要になるし、大体は現れない」
「でしょ?他の投稿者の一人かくれんぼだって結局何も出てきてないし、やっても問題ないね。よし、そしたら今日の夜にでも配信しようかな。みんなも暇だったら見てね」
冬野の話を聞かず、実行決意する日上。日上は雨野を見て、「見てくれる?」と話すが、雨野は「うーん」と考え込む。
「確か午前三時にやるんだよな?すまん、たぶん寝てると思うけど、起きてたら見るわ」
深夜の生放送を見るというのは、それまで起きていなければならないということでなかなか難易度が高い。さらに言うと次の日も普通に大学があるのでその時間まで起きて視聴するのは朝の講義の勉強に支障がでるレベルである。
「雪と影山くんは見てくれる?」
「うーん、流石に生放送見るのはつらいと思うから俺はアーカイブで見るよ」
「わたしもその時間まで起きてるのはつらいから、アーカイブで見るね」
「OK。それじゃあ早速準備しなきゃね」
日上は立ち上がり、この場を立ち去ろうとするが、冬野は日上の手をつかみ、ひき止めた。
「待って詩織。このあと講義あるでしょ?」
「めんどくさいー、雪、代わりにでてくんない?」
「ダメに決まってるでしょ。ちゃんと出てよね」
「はーい」
冬野に怒られて日上はサボるのを諦めた。
「さてと、俺そろそろ次の講義に行こうかな」
「影山くんこのあと何の講義あるの?」
「歴史学。雨野も行くだろ?」
「そうだな。たまにはまじめに出るかな」
影山と雨野は立ち上がり、置いていた鞄を持った。
「それじゃあ、俺たちは行くわ」
「うん、またね。影山くん」
「ああ。また後で」
影山と雨野は冬野たちと別れ、二人は歴史学の講義室へと向かった。向かっている最中雨野が影山の肩をポンッと叩いた。
「よかったな陸。友達ができて」
「ありがと」
「てか、お前冬野のこと好きだろ?」
「はぁ!?そ、そんなことねーよ!」
突然言われ、明らかに焦った口調で影山は否定したが、わかりやすい反応で雨野は笑った。
「隠すなって、お前冬野にただの友達って言われたときに明らかに落ち込んでただろ。ホントわかりやすいよな」
冬野が彼氏ではないと言ったとき、雨野は影山の様子を見ていた。影山の表情がわかりやすいほど、がっくりしていたので、影山が冬野に惚れていることにすぐ気づいた。
「にしても女に興味なさそうなあの陸に好きな子ができるとはなぁ」
「うるさい。人の勝手だろ」
「そうだな。面白そうだから応援してるぜ」
「面白そうっていうのが引っ掛かるが、とりあえずありがとう」
「にしても噂の冬野も可愛かったけど、詩織も結構可愛かったよなぁ。ぶっちゃけ俺的には詩織の方が好みだったかも」
「日上さんかぁ」
「なんだ、陸も気になってんのか?」
「いや、そういうわけじゃないけど、配信大丈夫かなぁと思って」
「たいていは何も起こらないんだろ?」
「まあ、そうなんだけど…」
(なんか胸騒ぎがするんだよなぁ)
嫌な予感を感じつつも、影山と雨野は次の講義室へと向かっていった。




