陰キャの日常
黒坊主討伐から2日後。影山は退院し、有平学園大学に来ていた。怪我は完治し、今は次の講義の時間まで暇なので、学内の休憩スペースでだらだらしていた。
大きな欠伸をしつつ、スマホをいじる。そして、影山は周りをチラッと見た。休憩スペースにはたくさんのテーブル席が設置されていて、多くの学生が陣取っている。ほとんどの学生は数人の友達と楽しそうに談笑しているが、影山はボッチでひとつのテーブル席を陣取っていた。
(ふん、普通のやつなら恥ずかしくてこの場にいられないだろう。しかし、俺は陰キャのプロ。一人で優雅に休憩を楽しむのがオレ流だ…!)
と謎の理論を脳内で展開していると、「おう、陸!」と声をかける男が一人いた。影山は声の方を見ると、数人の男と女のグループの中に幼なじみの雨野智樹がいた。
「ボッチで暇そうだな!」
「別に、まとめサイト見るのに忙しいんだよ」
「それを暇だって言うんだよ。なあ、これから遊びに行くんだけど陸も行かね?」
そう言われて影山は雨野の後ろの友達連中を見る。明らかに歓迎ムードではなく、「そんなやついいから早く行こうぜ」というオーラを出しながら、ただじっーと影山を見ていた。
「俺はいいよ。遊んできな」
「まあそう言うと思ったよ」
雨野は後ろにいる友達グループを見た。
「悪い、今日は俺陸と一緒に遊ぶわ。みんなは遊んできて」
「えー、雨野くん遊ぼうよぉ、そんなやつと遊んだって楽しくないって」
グループの中のチャラついた女が雨野にそう言うと、明らかに不機嫌になった雨野がその女に詰め寄った。
「なあ川口、陸のことそんなやつとか言わないでくれないかな?」
「だってそいつなんか暗いし、嫌じゃん?雨野くんとは釣り合いとれてないというかぁ」
「あーそうかい。俺は今お前が嫌になったけどな」
「は?」
ざわつくグループの中の川口という女が雨野に対して明らかに不機嫌な調子になる。そんな川口のことを気にしないで雨野は話し始める。
「陸は俺の親友だ。親友をバカにするようなやつを俺は許さねえ」
「何さ、アタシは雨野くんのために言ってるんだよ!」
「俺のため?だったら、さっさとここからいなくなれよ」
そう言うと川口という女が泣き始める。グループ内の川口の友達らしき女性二人が川口をなだめ、どこかに連れていった。グループ内の男性たちも「まあ、また今度な智樹」と言って女性たちについていった。グループを見送った雨野は影山のとなりに座り、「あー、疲れた」とのんびりした調子で話した。
「悪い。なんか俺のせいで気まずくなっちまったな」
「気にすんなって、俺がそうしたかっただけだ」
へへっと雨野は笑う。昔からボッチでいることが多い影山は学校でよくからかわれることが多い。そのたびに雨野は影山を庇い、人から嫌われてしまうということがある。
(ホント、主人公みたいな性格だよなぁ)
陰キャである影山に対して、積極的で人当たりがよく、優しく明るい性格の雨野は典型的な陽キャである。そんな雨野を影山は羨ましいと思っていた。しかし、その一方でいつも庇ってもらうことがとても申し訳ないと思っていた。
「智樹、俺のことなんか気にしなくていいんだぞ?お前はお前の友達を大切にしろよ」
「いいんだよ。俺の親友をバカにするようなやつは友達でもなんでもねえし。てか、お前もバカにされてんだから怒れよな」
「別に、怒るほど気にしてないし」
「たく、そんな態度だからなめられんだぞ。それじゃあいつまでたっても俺以外の友達できねーぞ?」
「お前以外にも友達くらいいるっての」
と影山が言うと雨野は心底驚いた様子で「え、マジ?誰だよ俺に紹介しろよ!」と嬉しそうな声で絡んでくる。影山は小学校から現在まで一緒に遊ぶような間柄の者は雨野くらいしかおらず、雨野がいないときは基本的にボッチである。幽霊や妖怪が見えるということで他の人からは気味が悪がられ、避けられることが多かった影山は自然と人と距離をとるようになっていて、気づけば雨野くらいとしか関わらなくなっていたのだ。そう言う事情を知っていることもあり、雨野は影山に友達ができたことに対して嬉しく感じていた。
「その友達って、俺が知ってるやつ?」
「まあ、そうだな」
「マジか!誰なんだよ?」
「それは…」
影山が言いかけた瞬間。少し離れた場所から「あ、影山くん!」と声をかけられる。影山が声の方向を見るとそこには笑顔で手をふる冬野と茶髪の女の子が影山の方に近づいてきていた。
「怪我はもう大丈夫なの?」
「ああ。もう大丈夫。今日からバイトもでるよ」
「そうなんだ。じゃあ今日よろしくね」
二人の会話を聞いていた雨野が意外そうな表情で「おい、陸」と影山に話しかける。
「お前冬野雪と知り合いなの?」
「そうだよ。ガイストで一緒に働いてる」
「へー、そうなんだ…」
「えと、影山くんそちらの方は?」
冬野が雨野を見て影山に尋ねると、雨野は冬野を見てニコッと笑った。
「俺は雨野智樹。こいつの友達。よろしくね」
「うん、よろしくね。わたしの名前はもう知ってるみたいだね」
「まあね」
冬野は学内では悪い噂の方で有名人なために、雨野ももちろん冬野のことは知っている。しかし、雨野は噂をあまり信じないタイプであり、実害がない限りは人を差別しない人物である。そのため、冬野に対して嫌悪感は特になく、むしろ今は影山の知り合いということで、興味津々である。
「雪、もしかしてこの人が影山くん?」
雨野と冬野が話をしていると、まざるように冬野のとなりいた茶髪の女の子が話しかけてきた。
「そうだよ詩織。この人が影山くん」
「へー、この人が…」と言って茶髪の女の子が影山を見た。
「アタシ日上詩織。よろしくね!」
日上詩織。茶髪のセミロングで、さっぱりとした明るい性格の女の子。冬野ほどではないが、一般的に見て可愛い見た目で、今もまわりのテーブル席の男から冬野と同じくらい視線を集めている。
「ねえ、ここ座っていい?アタシたち今暇でどうしようかーってぶらぶらしてたとこなんだよね」
「いいよ。座って」
「ありがとー。では失礼しまーす」
冬野と日上は影山たちの向かいの側に座り、最初ボッチであったテーブル席は満席となった。
(冬野が女の子と一緒にいるの珍しいよなー)
影山は冬野と一緒にいる日上を見る。冬野は男の人に詰め寄られることが多く、嫌々一緒にいることがある。故に女性から嫌われていることも多いと聞く。そのため、今回女の子と一緒に行動しているのが珍しく思った。
影山が日上を見ていると、日上と目線が合い、日上はニヤっと笑った。
「何々、影山くんアタシに興味あるの?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「雪が目の前にいるのに他の女に目移りしちゃうなんて、そんなんじゃ彼氏失格だよ?」
「な、彼氏!?」
影山が驚く。聞いていた雨野も「何!お前ら付き合ってんの!?」と驚く。そして、冬野が慌てて「違う違う!付き合ってない!」と訂正する。日上は不思議そうな表情を冬野に向ける。
「え、雪、影山くんと付き合ってないの?」
「付き合ってないよ!なんでそういう話しになるの!?」
「だって最近、影山くんの話ばかりするじゃん。影山くんは優しいし、趣味もあって一緒にいて楽しいーって」
「わー!影山くん目の前にいるのにそういう話しないでよ!」
「顔真っ赤じゃん雪。あんた影山くんのこと好きなんじゃないのー?」
「違う!影山くんはただの友達!そういうのじゃないから!」
全力で否定する冬野。聞いていた雨野は楽しそうに聞いていて、影山はちょっぴり落ち込んでいた。
(そういうのじゃないかぁ…)
冬野に惚れている影山にとってその言葉はがっくりさせた。普通にフラレて影山は軽く落ち込んだ。
「冬野さんと日上さんって仲良いんだな」
雨野が話しかけると、「そうだよ!」と日上が返答した。
「アタシは雪の親友だし、仲良くて当然よ!」
「いつからの付き合いなの?」
「小学校から。中学校から大学までずっと一緒の付き合いよ」
「へー、それじゃあ俺たちと一緒だな陸」
「そうだな」
「こいついつもボッチでさ、心配だからずっと同じ学校なのよ」
「それわかる。アタシも雪がボッチだし、変な男に絡まれやすいから心配でずっと一緒なのよねー」
((ボッチで悪かったな…))
と雨野と日上の話をうんざりした様子で影山と冬野は聞いていた。それから雨野と日上は互いの親友の苦労話で盛り上がる。話しについてけなくなった。影山と冬野は二人で話をしていた。
「影山くん最近ゲームしてる?」
「してるよ。今最近リメイクされたゲルダの伝説やってる」
「あー、先週でたやつだね。どう面白い?」
「画質よくなったけど、追加要素あんまないな。でも久しぶりだから面白いよ」
「ゲルダはギミックがいいよね。特に三番目のダンジョンがわたし好きだったなぁ」
「あー、わかる。水の神殿だよね?俺結構悩んで詰んでたけど、クリアしたときには凄い達成感あったわ」
「そうそう!水の高低さを利用するって気づいたとき凄い感動したし」
ゲームの話で盛り上がる二人。そんな話をしている最中、日上が「ねえ、二人とも」と声をかけた。二人は一旦会話をやめて日上の方を見る。
「今雨野くんとLINE交換したんだよね。影山くんもアタシと交換しない?」
「ああ。いいよ」
「冬野さんも俺とLINE交換しない?」
「はい。いいですよ」
ということで四人はLINE交換する。交換が終わると、日上が「影山くん、これ見て」と言ってスマホをつき出してきたので画面を見た。
「詩織の心霊チャンネル?」
影山は怪訝とした様子で画面を見る。このチャンネルが後々大騒動を起こすことになるとは、この場にいる誰もが思わなかった。




