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王室エスチュアリ

 昔々から広い海の中に、1つの島とその付近の大陸の一部を統治する王家があった。

その名もエスチュアリ王国。


 その膨大な軍の力によって土地を支配、統合してきたその王国は、世界統一を成してから数百年が経とうとしていた。


 次第に人口の増加、作物の大凶作、治安の悪化により農民の不満は高まり、政治の腐敗を指摘された第37代国王メイガスは世界の統治を3つの地域に分ける事を約束した。


 氷雪と鉱山に囲まれたオリノコ地方。


 密林と無数の島々から成るミュー地方。


 交易と工業の発展の場ジュタルト地方。


 エスチュアリ城が有る島を中心にしたこの3つの地方は互いの力に干渉し合い、均衡を崩す事は無かった。そう、あの時までは。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おい爺さん、茶いれてくれよ」


「はいお坊ちゃま、山盛り2杯ですね?」


「おう、てかその呼び方やめてくれよもう17だぞ?」


 俺は王国の子として生まれたルシウス、急な自分語りすまん。

 王子としての規律だの、成すべき使命だの、ダルくてしょうがないとしか思えない。


 子供の頃から、ヴァイオリンだの、食事のマナーだの、剣術だの、色々やらされたあげく、


「才能が無い」

「やる気が無い」

「こんなのに国王が務まるか」


 と散々な事を言われてきた。


 王国の兵士達をいつか見返してやると思っていたが、いくら努力しても、剣の腕が上がる事はなかった。


 そりゃあ、ここまで腐るよな。


「また剣術試練サボってんの!?ちゃんとやりなさいよ!」


 部屋の戸を開けて入って来たのは、専属メイドで幼馴染のエミル。


 オリノコ出身の特徴で、色は白く、瞳は青い。


「嫌だよあんなん、痛てぇし、面倒くせぇわ」

「何でそんな事言うの!?前までは本当に頑張ってたのに!」

「俺には才能が無いんだよ!放っておいてくれよ」

「この意気地無し!」


 …そう言い放ち、掃除をし始めるのは、何かシュールだな。

王国の兵士達が俺を見下す中、味方で居てくれるのはエミルと爺くらいだろうな。


 俺とエミルが出会ったのは、父のオリノコ視察に付いて行った時だった。

 初めて目にする雪の景色に、5歳だった俺は興奮していた。


「このしろいのなに??すげーつめたい!」

「これは雪って言って、空から降ってくるものなのよ」


 俺の母、メフィアはそう言った。

ここから先は道が凍ってて危ないと、馬車から降り、母に手を引かれ、俺は街まで歩いていた。


 しばらくして街に着くと、俺達一家は戸のさびた小さい家に立ち寄り、その家の主人と話を始めた。


 母の手から解放された俺は、ここぞとばかりに雪の中ではしゃぎ回った。


 父であるマルサスは、腕が立つ身売りの娘が居ると聞き、買取を申し出たそうだ。

国王は普通主人と直接話などしないのだが、義理がたかった父は顔を一目見ておきたかったのだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「エスチュアリが王、マルサス・エルリック・アンフィニだ。かの腕の立つ娘は、何処にいる。」

「国王陛下、お待ちしておりました。」


 家の主は奥から娘を連れて出てきた。


「エ、ェエミルです、よろしくお、おねがいします…」


 目に涙を浮かべながら娘はそう言った。


「では陛下、代金を…」

「お前、悲しくは無いのか?」

「元々、種違いの子でして、この子の母も病気で亡くなりまして…エレメ…」


 マルサスは、エミルを不憫に思った。


 マルサスとメフィアがオリノコ中心都市を視察してる間


「今日からお友達なんだから、仲良くしなさいね」


 と言われて、ルシウスはエミルと広場で遊ぶように言われていた。爺やも一緒に。


 しかし、エミルは泣いてばかりいる。


「わたしっ…おとうさんもっ…おかあさんもいなくてッ…おじさんともおわかれでっ…なにもいいことないよっ……グスッ」

「そんなことないよ!エミルはかわいいし、そのふくにあってるよ!!」

ルシウスはそう言うと服の綺麗な花の刺繍を指さした。

「ほんと?……これ、わたしがつくったの」

「ええ!すごいね!」


 エミルは嬉しそうにし、涙を手で拭った。


「…ねぇエミル、かぞくがいないんだったらぼくたちとなろうよ」

「え?」

「おとうさん、おかあさん、ぼく、エミルのよにんでかぞくできまりね」

「ありがとうぅっ…ルシウス、、だいすき!!」ギュッ


 拭った涙が、また溢れていた。


 爺や「キマシタワー」


 それ以来、エミルはメイドとしてエスチュアリ城で訓練を受け、次第にその並外れたメイドとしての才能が、城の噂を呼んだ。


 そして、10歳になるまでには、大抵の家事労働をこなせる様になっていた。


 ルシウスの食事、服、部屋の掃除、ほぼ全てエミルが出来る程に。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 思い返せば、あの頃からエミルの才能が出てたんだな。5歳であの刺繍って、もはや勲章ですよ。

 この前城専属のシェフも、エミルの料理に舌鼓を打ってたしなぁ。

 才能の無い俺は、エミルに劣等感を抱いて、つい卑屈な態度をとってしまう。


「矢筒の穴空いてたところ、繕っておいたから」

「もういいよあんなの、どうせ使わないし」

「そんな事…言わないでよ…」


 悲しそうにエミルは言う。ああ、またやってしまった。


「周りの目なんか気にしないで!訓練に行かなくなったらそれこそ終わりだよ!」


「ンだようるさいな!こっちだって望んでこうなった訳じゃないだろ!」


「でも上達する見込は誰にでもある!努力をしなければその可能性はゼロになっちゃうよ!」


 …度々、こういう口論になる。いつもはどちらかが謝って終わるのだが、この日ばかりは違った。


「努力しても可能性ゼロの奴だって居るんだよ!!エミルは良いよな、王国に買われる程の家事の才能あって!」


「私は、ルシウスに才能があるって信じてるから!」


「嘘つくなよ、衛兵に聞いたら100人中100人、無いって答えるぞ!」


「それは、兵士が間違ってる!」


「もういいよ、どっかいってくれ」


「ルシウスの馬鹿!分からずや!訓練いきなよ!」


 あまりにしつこかったので、俺は頭に血が上ってしまった。


「うるっせぇぇんだよ!!!お前ぇは才能があるからそういう事言えるんだろうが!!!俺の努力なんて知ってるはずねぇんだよ!!!もう二度と顔見せんじゃねェ!!!!」


 言ってしまった。大切な家族に。


「ッ!!…分かったっ…ごめんねっ…」


 エミルが部屋を出たあと、涙をすする音が聴こえた。


ーエミルの部屋ー

「ううっ…ゔっ…ルシウスに嫌われたっ…絶対言い過ぎた…」

「ルシウスが努力してるのはっ…私が1番知ってるのにっ…」


 彼女は縫い物にも手が付かず、枕を濡らしていた。


「っ…これじゃあ母上の遺した言葉に答えられない…」


 彼女の言う母とは、メフィア妃の事であり、ルシウスの言った通り、本当の家族の様に接してきた。

メフィアは病死する前、エミルに


「ルシウスをよろしくね」


 とささやいていた。

 それは嬉しくもあり、悲しい宣告でもあった。


「私は…ルシウスに救われた…だから今度は、私が彼を救う…」


 エミルの儚くも深い愛は、本物だった。


 もう日も傾いてきたので、城の門を閉じるため、エミルは外に降りた。


 太古の昔、島での統治争いを行っていた時代からの名残なのか、城は小高い丘の上にそびえ、その城下町を一望できる。


 白い壁が立ち並ぶ街並みは、夕焼けを反射し、キャンバスの様に色を写し出す。


 紅い海には蒸気船の影がくっきりと浮かんでいる。

 ジュタルトとの交易船だろうか。


 そう思って門にたどり着くと、衛兵が何やら立ち話している。


「俺結構前にルシウス王子と剣術訓練させて貰えたんだけどさぁ、」

「どうだった?」

「なんか、拍子抜けしたよ。剣筋がねぇ…」

「やっぱそうなんやなぁ。駄目みたいですね」


 エミルは黙っていられなかった。

「そんな事無い!!皆勘違いしてるよ!!」


 エミルを見てビビったのか、衛兵はそそくさと僚に帰って行った。

「なんでよ…ルシウスは悪くないのに…何でこうなるんだろう…」

 

 エミルは悪口を聞く度に、自分の事の様に悲しんだ。


ー王室ー

 マルサスは、机を叩き占い師に言った。


「おい!どういう事だ!ルシウスには勇気のエレメントが備わっていると言っていたじゃないか!」

「ええ、備わっているとも、確かに今もな」


 占い師の宝玉には、光溢れるルシウスが映っていた。


「じゃあなんで剣術も馬術も、息子は優れていないんだ!」

「エレメントは言わば『才能』の塊…それを使う運命を持つものに与えられる…時が来ない事には解放されん」

「っ…そうか…その運命を占う事は出来ないのか?」

「それは…残念だが難しい…」

「そうか…」


 マルサスは、焦っていた。息子の城での噂は嫌でも耳に入ってくるものであり、王として、そして親として耐えられなかった。

 かの偉大な王マルサスの跡継ぎとして、大きな期待を掛けられていたからこそ、だ。


 小さい頃は、愛する一人息子として、大切に育てた。体の弱かったメフィア妃は、妊娠自体しづらかったのかも知れない。

 ルシウスが剣術の鍛錬をするにつれて、王として厳しく接するようになっていった。


 できない息子を、責めるようになっていった。


 息子の努力を、分かっていたからこそ、辛かった。

 

 終いには息子の将来を案じ、占い師などというものにまで縋った。息子はエレメントなどというものを持つと聞いたが、とても信じられなかった。


「もういい…分かった…ありがとう。報酬だ。」

占い師が金貨を数え出ていった。


 王の視線の先には、4人の家族として撮った写真があった。


「メフィア…教えてくれ…お前ならどうした?」


 返事は無い。磨りガラスの窓から、痛いくらいの夕焼けが目を差した。




ありがとうございました

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