偽者少女とゴロツキに出会う
俺の名前はジロー。
一応勇者だ。
今、世の中は20年前に魔王が復活してしまい、全世界は魔王を倒せる勇者を探して大騒ぎ。
勇者というだけで、周りからちやほやされ、食べ物や寝るとこに困ることないし、有名勇者ともなると至る所で女性にモテモテで、夜のお誘いなんかも引く手数多なのだ。
ちなみにこの勇者って奴は誰にでも名乗れるわけじゃなくてちゃんとした条件がある。
それは魔王復活と共に復活したといわれる神の力を与えられている者ってやつ。
まぁ簡単に言えば魔法が使えるって事だ。
つまり俺は魔法を使えるすごい奴ってこと。まぁ、完璧にコントロールできるのは中級魔法までなんだけどね…
中級魔法までしか使えない俺は魔王様を倒す気もなければ、世界を救いたいわけでもない。
ただ楽に贅沢に過ごしたいだけ!!
そんな俺の生活といえば有名勇者の名前をかりて贅沢三昧とモテ三昧。
遠方との連絡が難しいこの世界では、田舎に行けば行くほど、ちょっとした魔法を見せて有名勇者の名前を出せば、みんな簡単に騙されてくれる。
まぁザコモンスター倒してるだけ村は平和にしてるから誰に迷惑をかけているわけでもないし、毎日気の向くまま楽しく暮らしている。
そんなこんなで今日も今日とて、ちんけな田舎の村を探して、村から村へと歩き回っているのだが、気づけばいつのまにか山のなか。
「だいたい、こんな宝探しの地図みたいなやつで迷わないほうが変なんだよ。」
3日ほど前に出た村で書いてもらった大まかな地図をもう一度広げてみるが、そこには、山が3つ並んでいてその山から川が五本ほど流れている。その川の4本目の真ん中より少し上に黒い丸と、『この辺』の文字。
こりゃ、今日も野宿かなぁと1人ゴチていると
「きゃー、助けて」
と飯のタネ…もとい若い女性の声。
いやぁー森の中で叫び声って…
ベタすぎるだろと思いながらも声のするほうに走る俺。
これで若い女が山賊とかに襲われてたら逆にあり得ない光景だよな、などとくだらない事を考えながら声の聞こえてきたほうの茂みを出来るだけ静かに、そして素早くかき分けていった。
茂みをかき分けそこにいたのは若い女性とイカツイ男が3人ほど女性を取り囲んでいた。
そのあまりのベタな展開にせっかく気配を消して、そっと近づいたにもかかわらず、つい声を出してしまう。
「これ、よく劇の初めに見るやつや」
何を隠そう、俺はツッコミ気質なのである。
俺の鋭いツッコミに全員の視線が一斉に集まる。
このベタすぎる展開を、打破しようとする俺だったが、そんな俺の気持ちもしらず若い女性がいち早く俺に
「旅のお方助けて下さい」
などと言うからたまらない。
俺の鋭いツッコミは無かったことにされ、さらにベタベタな展開を広げようとする女性に対して、俺はしかたなく、めいいっぱい格好をつけて大きな声で叫ぶ。
「その娘さんを放しなさい!」
結局普通なことを言う俺。
いや、意外に思いつかないもんだよ、カッコいい台詞って。
「おいおい、カッコいい王子様が勇者気取りかよ」
数の有利で余裕があるのか、ニヤニヤ笑いながら馬鹿にするイカツイごろつきたち。
カッコいい王子様と言うのはヒョロい俺を見ての嫌味だろうけど、言われて嫌な気分はしない。
俺はニヤリと笑うと片手の上に火の玉を浮かべ
「それは誉め言葉として受け取りますよ!」
そう言うと、ごろつき達の横の木を目掛け一つの火の玉を投げつける。
木は油でもかけられていたかのように燃えあがった。
「もう一度言います、娘さんを放しなしてくれませんか?」
今度は笑顔で丁寧に言う俺!もちろん火の玉を片手に掲げながら。
「ま、魔法!?」
驚きを隠せないように木を見ながらつぶやくごろつき達。
「お前本当に勇者なのか?」
完全にビビって聞いてくる。
「えぇ!灼熱の魔法あなたも味わいます?」
と有名勇者の台詞をパクりびしっと指を差す俺。
完全に台詞もポーズも何となくのパクりなのだが、カッコいい!俺カッコいい!
少女を見るとすでに俺に釘付けで目がハートになってる。有名勇者様々である。
すると、3人の内のいかにも子分ぽいやつがあわてながら
「アニキ!!最近この辺りに炎のゴメスが来ていると言う話しがありましたが、あの魔法!あの台詞、間違いありませんよ」
と青ざめながら話しかける。
「お前、ゴメスっていったら、あのウッドドラゴンを倒したっていうゴメスか?」
こちらも一気に顔が青ざめる。
まぁごろつき達の反応も無理ない。
ゴメスったら勇者の中でも有名で、ごろつきの言うとおり、森の王ウッドドラゴンを倒したことで一気にその名は全国に知れ渡っているほどだ。
実はウッドドラゴンってやつは普通の戦士には近づくことも難しいが炎の魔法が使えるなら大したやつじゃない。
ならなんでこんなに有名になって騒がれているかって?
それは簡単。単に炎の魔法、てか魔法を使えるやつがほとんどいないって事。
それほど勇者ってやつは珍しく偉いって事だ。
えへん!