運命の出会い?
ガチャ――バタンッ!
玄関に走り込み、勢いよく扉を閉める。
扉に背中を向けたまま、あたしは座り込んでしまった。
「す……すっごくかっこよかった……!! 何あれ!? いきなり現れて解決していっちゃった……!!」
「おかえり、深雪。夜は危ないから散歩にいっちゃだめだって言ってるのに……って、そんな所で座り込んでどうしたの……?」
そこに、あたしの家族……姉が、部屋から顔を出す。
あ、今更だけどあたしの名前は水城 深雪。
今年咲島高校に入学したばかり。
そんなあたしは、座り込んだまま姉である、水城 さくらに鼻息荒く話しかけた。
深雪「お姉ちゃんっ!!! 今ね、今ね!?」
さくら「はわっ!? と、とりあえず落ち着いて? 深呼吸して……」
深雪「深呼吸なんてどうでもいいっ! 今ね、変な人に絡まれたんだけど……すっごぃカッコいい人が助けてくれたの!!」
最近は、退屈な毎日に少し嫌気がさしていた。
だから、ほんの少しだけ……
何か、少女マンガのように運命的な事が起こらないかと期待して、危険を承知で出た、夜の散歩。
そしたら、本当に起きてしまった。
それもとびっきり、運命的な事が!!
さくら「ッ! 変な人って……だから危ないって言ってるじゃない!! 変なことされなかった? 大丈夫!?」
お姉ちゃんが怒りを露わにしながら早口でまくし立てる。
いつもの、おっとりとした様子からは想像できない。
本当に心配してくれてるのがわかるから、あたしはお姉ちゃんの事が本当に大好きだと思う。
深雪「大丈夫だよ……だって、助けてもらったし……♪」
少し頬を赤らめながら、夢心地で答える。
あたしはこの数分で、所謂一目惚れをしてしまったのかもしれない。
さくら「無事ならよかった……。でも、当分夜中の散歩は禁止だからねッ!!」
一瞬、安堵の表情を見せた後、すぐに怒って見せたお姉ちゃんは家の奥、居間へと小走りで入っていく。
さくら「お母さん聞いてよ~、深雪が……!」
お姉ちゃんの声が聞こえる。
どうやらお母さんからも圧力を掛けてもらおうとしているらしい。
これは、今の内に部屋に逃げ込んだほうがよさそうだ。
あたしはそう思って、すぐに部屋へと繋がる階段をあがっていった。
バタンッ――
部屋の扉を閉めると、あたしはすぐに勉強机の上で充電している携帯電話を手に取った。
高校の入学祝いに買ってもらった、真新しい携帯。
そのメモリの中には、家族と中学時代に仲の良かった友達、高校に入ってできた友達しか入っていない。
深雪「えーっと、美咲はっと……」
そのメモリの中から、中学からの親友で、高校のクラスも一緒になった女の子の名前を出す。
そしてそのまま通話ボタンを押した。
プルルルッ……ガチャッ――
美咲『はいはーい、もしもし? こちら貴女の美咲ちゃんだよー。どったのー?』
深雪「あ、美咲!? 聞いて聞いてっ!」
美咲『おぉぅっ……深雪、声おっきいよ……? ボリュームダウンプリーズ……』
深雪「それどころじゃないんだってばっ! もうすごかったのっ!!!」
美咲『私の鼓膜もそれどころじゃないんだけど……? まぁいいや。とりあえずあんたは主語を言えっ!!』
深雪「あのね、あのね!!」
騒ぎ立てながら、さっきあった出来事を話す。
知らない男の人に絡まれた事、それを助けてもらった事。
その人が凄く格好よかった事。
一目惚れしてしまったかもしれない事。
この興奮を、胸の高鳴りを、今すぐ誰かに伝えたくて仕方がなかった。
美咲『まぁたあんたは夜の散歩とか危ない事して……』
深雪「お説教はお姉ちゃんにもらったからもういらないよ!」
美咲『さくらさんも気苦労が絶えないなぁ……で、その相手の名前は聞いたの?』
深雪「へ? ……あーっ!!!!!!」
美咲に言われて気がついた。
あたし、助けてもらったのに名前聞いてない!!
動転してすぐに走り去っちゃったから……
美咲『深雪うっさい!! やっぱ聞いてなかったか。まずは人捜しからだねー、がんばっ♪』
深雪「うぅー、あたしのバカバカバカッ!」
美咲『はいはい、続きは明日学校で聞いてあげるから。今日はもう大人しく寝たら?』
深雪「うぅ~……」
美咲『ダメだこりゃ、聞いてないわ……んじゃ、バーイ♪』
ブツッ……ツーッツーッ――
一方的に通話を切られ、携帯からは無機質な音が流れる。
携帯を閉じて、ベッドに放り投げながらあたし自身もベッドに倒れ込んだ。
深雪「……はぁ……なんで名前聞かなかったかなぁ、あたし……」
名前を聞かなかった事を改めて後悔。
気が動転していたとはいえ、かなり手痛いミスだった。
深雪「歳は同じくらいだったから……多分高校生だよね……。うん、探せば会える。島に高校は2つしかないんだし。……よしっ! 後悔終了っ!」
自分に言い聞かせ、これ以上後悔する事をやめた。
後悔する事をやめると、頭の中ではさっきの出来事が思い出されていた。
変な人にからまれて……
力じゃ適わなくて、凄く怖かった。
あの時も頭の中では後悔していた。
何か起きないかな、なんて思って夜の散歩を始めた自分自身に。
でも、助かった。
知らない人が、助けてくれた。
それも、殴り倒すとかじゃなくて冷静に、まるで映画の刑事さんが犯人を捕まえるみたいだった。
ケンカとかは正直好きじゃないし、人が殴られる所を見ても怖いとしか思えない。
あたしからしたら、ボクシングやプロレスなんて何がいいのか全くわからない。
見てるだけで痛くなる。
だから、そんな所が自分の中で更にプラスに働いているのかもしれない。
名前もわからない、助けてくれたあの人。
なんて名前なんだろう?
彼女いるのかな。
格好よかったからいても不思議じゃないな。
深雪「……また、会えるかな……」
ポツリと呟く。
逃げるように帰ってきてしまったから、変に思われてないかが心配。
もしかしたら、怒らせちゃったかもしれないなぁ……
せっかく助けてもらったのに……
もう一度、ちゃんとお礼を言う為に……あの人を探してみよう。
まずは、明日咲島高校の全クラスを見て回ろう。
もちろん、美咲を連れて。
深雪「よしっ、お風呂はいろっ!!」
決意を新たにして、起き上がるとあたしは寝間着を手に持ってお風呂場に。
明日から、きっと忙しくなる。
でも、高揚したあたしの気持ちは、留まる事はなかった。