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未来へ続く道~Wings to flap~  作者: 禾楠
第一章
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片付け・笑顔



一輝達と別れた後、商店街に寄って食料や必要な物を買い、帰宅する。



遼「ただいま~……って、誰もいないか」



帰宅の挨拶を言いながら、返事が返ってこない理由を自分自身にツッコミを入れる。

この家には、大事な思い出がたくさん詰まっている。


小さい頃に悪戯して書いた落書きの跡や、誕生日を祝って食べたケーキとか。

だから、日本に戻る時に父さんがこの家を手放していない事を聞いてすごく嬉しかった。


ドイツに行く時、必要最低限のものしか持っていかなかったから家具類は揃っているし、住む分には申し分ないんだけど……



遼「4年分の埃は、半端なくすごいんだよなぁ……」



窓の淵を指先でなぞる。

指先には埃の固まりが出来上がった。


簡単に掃除はしたが、やはり大掃除しないと生活衛生上宜しくなさそうだ、という結論に達したのだ。

一度部屋に戻って私服に着替える。


物置から掃除道具を持ち出し、掃除の準備は万端。



遼「よしっ、やるか!」



気合いを入れ、掃除を始める。

まずは居間からだ。


はたきを取り出して、棚の上をはたいてみる。



遼「ぶっ、げほっげほっ!! な、なんだこの埃の量は……!!」



落ちてきた埃が顔にかかり、せき込みながら頭を振って埃を振り落とす。

開始早々の洗礼に、早くも心が折れそうだ……



遼「今日は居間と部屋だけにしとこ……」



今日中に家の半分以上を掃除してしまおうと考えていたが、必要最低限の場所である居間と部屋の掃除だけに切り替える。

残りは週末にでもしよう……


この家の間取りは4LDK。

1人では住むにも掃除をするにも広過ぎる。


泣き言を言っても終わらないし、さっさと片付けてしまおう。

そう決め、俺は黙々と掃除に取りかかった。








………

…………

……………









掃除開始から3時間後。



遼「ん~……! やっと落ち着いた~……」



片づけで凝り固まった身体の筋肉をほぐす為に伸びをする。

背骨からごきごきっ、と鈍い音がして気持ちよかった。


現時刻はPM16:00。

学校が始業式だけで終わり、昼過ぎには帰れたおかげで時間はまだ早かった。


ずっと埃の匂いを嗅いでいたせいか、外の新鮮な空気が吸いたくなった。



遼「散歩にでも行こうかな」



思い立ったが吉日だ。


部屋に戻って埃まみれの服を脱いで着替える。


財布に携帯、そして家の鍵を持って、俺は家を出た。


家を出て、まずは商店街に行ってみる。

買い物した時には気づかなかったが、昔あった駄菓子屋がなくなっていたり、記憶では古ぼけた本屋だったはずが改装されていたりする。



遼「やっぱり変わってるんだなぁ……」



商店街の近くにあった、小さい頃遊んだ空き地にはマンションが建っていた。

4年間、自分の離れていた時間がどれだけ長かったのか……それを改めて感じる。

時間が経てば、変わらないものもあれば、変わるものだってある。

それは人間関係も一緒だと俺は思っている。



遼「そうだ……あそこは……」



ふと、ある場所が頭に浮かぶ。

そこは、避けては通れない場所。


4年ぶりに戻ってきた俺が、今後を見つめていく上で大切な通過点だと思う。

少しだけ歩調を早め、その場所へと向かう。


商店街を抜けてすぐの路地を左に曲がって後はひたすら真っ直ぐ歩く。

少しすると、家が建ち並んでいた景色が拓けた。



遼「ここは昔と変わってないな……よかった」



そこは一輝、梨央、陽菜の3人に別れを告げた、あの公園。


公園の中に入ると、小学生くらいだろうか……小さな子供達が元気に走り回っていたり、赤ちゃんを連れたお母様方が井戸端会議に興じたりと思い思いに過ごしている。



遼「………」



懐かしくなり、公園の中にあるベンチに座り込んだ。

ここは、悲しい思い出で途切れてしまった場所。


小さい頃から、それこそ日が落ちて星が見えだす時間まで遊び続けてた。

この公園にも楽しい思い出がたくさんある。


でも、最後の最後で思い出は悲しみに塗り替えられた。

何を隠そう、この俺の手によって。


自業自得なのはわかっているつもりだ。

でも今思い出すと、あの頃の俺は言葉が足りなさすぎるよな、と自分自身苦笑してしまう。


伝えなきゃいけない言葉があった。

伝えたい言葉があった。


説明しなきゃいけない事がたくさんあった。

でも、4年前の俺にはそれが出来なかった。

ただそれだけが後悔として胸に残っている。


今ならきっと、あんな言い方じゃなく、きちんと説明できるんだけどなぁ。


そんな、考えてもしょうがない事に思考を巡らせていると、足元にボールが転がってきた。


昔、小学生の頃に使ったドッジボール用の黄色いボール。


ボールの転がってきた方向には、さっきまで走り回っていた子供達が息を切らしながら走り寄ってきた。



遼「ん……?」


「にーちゃん、それぼくたちのなんだ!!」



髪を短くした、活発そうな男の子2人。

ロングヘアーの子は、どことなく梨央に似ていて、肩にかかるくらいのセミロングの子は陽菜に似ている気がする。


男の子2人、女の子2人の4人組。


子供達は、まるで昔の俺達のように見えた。

もちろん、感傷的にになっているせいでそう見えるだけ。


そっくりというわけではない。

それでも、一目見ただけで仲が良いのがわかる。


皆、純粋な笑顔をしているから。

今が楽しくてしょうがない、そんな笑顔。


見ているこっちまで微笑んでしまう。



遼「はい、ボール。道路に出ないように気をつけなきゃダメだよ?」



拾ったボールを手渡すと、受け取った男の子が俺の顔をまじまじと見つめてくる。

男の子の後ろから、ロングヘアーの子が一歩近づいてきた。



「おにいちゃん、いっしょにあそぼ?」


「ユキ、それいいな! にいちゃんあそんでよ!」


「ユキちゃんにコウくん! むりいっちゃだめだよ……ほら、ダイくんもとめるのてつだってよ!」


「でもサキ……おもしろいよ、きっと!」



子供達は俺の意見などお構いなしに、4人で騒ぎ出す。

小さい頃の俺達も、大人から見たらこうだったんだろうかと思うとなんだか可笑しくて笑えた。



遼「よしっ! 兄ちゃんでいいなら一緒に遊ぼうか!」



ベンチから立ち上がり、ユキと呼ばれた子の目線に合わせてしゃがみ込む。

すると、コウと呼ばれていた子がガッツポーズをしながら飛び上がった。



コウ「やったぁ! なにする?」


ユキ「んー、たすけおに!」


ダイ「たすけおにか~」


遼「……ん?」



これから何をするか考えている中、服が控え目に引っ張られる。

見ると、そこにはセミロングのサキと呼ばれていた子が立っていた。



遼「……どうかした?」


サキ「……ほんとにいいの? おにいちゃん……」



心配そうに俺の顔を見ている。

そんな顔をしないでほしい。


子供は笑っている方がいいに決まっている。



遼「大丈夫だよ。ほら、お兄ちゃんと遊ぼう?」



だから、頭を撫でながら微笑みかける。

すると、サキちゃんはぱぁっと表情を明るくさせた。


サキ「……うんっ! いこ、おにいちゃん!」



俺の手を引いて3人の方へと走っていく。

引っ張られるままについていく。



コウ「にいちゃん! はやくっ!」


ダイ「サキもはやくっ!」


ユキ「たすけおにだよたすけおに!」



3人が手を振りながら呼んでいた。

子供の笑顔は、かけがえのないものだなと思いながらサキちゃんと一緒に走るスピードを上げる。



遼「よーし!! それじゃぁ兄ちゃんが鬼だ!!」


コウ「わ~! にいちゃんがおにだ~!!」


ダイ「にげろ~!!」


ユキ「おにいちゃんがわたしたちぜーいんつかまえたらかちだよっ!」


サキ「きゃ~♪」



公園には子供達の楽しそうな声が響いている。

俺は昔に戻ったつもりで子供達との遊びを楽しむべく走り出した。


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