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未来へ続く道~Wings to flap~  作者: 禾楠
第一章
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自己紹介



一輝から言われた、予想外の謝罪の後、俺達は少しだけ照れくさくはあるものの、梨央が戻ってくるまでの間に色々な事を話していた。



一輝「へぇ~……ならドイツ語とかペラペラか?」


遼「まぁ少しくらいなら……でも、こっちじゃ使う機会もないけどね」


一輝「確かにな。あ、将来皆でドイツ旅行なんてどうだ? そしたら遼のドイツ語かなり役立つぞ」


遼「それはそれで楽しそうだね。でも何年先の話ししてるのさ」


一輝「んー……7~8年後くらい?」


遼「なら一輝がちゃんと覚えといて、企画してよね」


一輝「それはそれで面倒くさいなぁ」



そんな、他愛ない会話に花を咲かせていた。

そこには気を遣わないでいい、居心地のいい空間があった。



梨央「おっまたせ~♪」


さくら「あぅ……」



そこに、妙にハイテンションな梨央と、対照的にしょんぼりとした表情の女の子が入って……いや、引きずられてきた。

緊張してるのか、そわそわして目を泳がせている。



遼「おかえり、梨央。えっと……その人は?」


梨央「ふっふ~ん♪ 遼くんが帰ってきた以上、ちゃんと紹介しないといけないからねー。ほら、さくらちゃん自己紹介♪」


さくら「うぅ……水城 さくら、です……」



顔を真っ赤にしながら名を名乗ると、すぐに梨央の後ろに隠れてしまった。

緊張しているというよりは、恥ずかしがり屋という方がしっくりくる。



遼「えっと、水崎 遼。梨央や一輝の幼馴染で、知っての通り転校生だ。よろしくね」



簡単に自己紹介を終え、笑顔を向ける。

すると、一輝は苦笑しながら俺の首に腕を回した。



一輝「水城は極度の人見知りだからな……慣れてもらえるまで時間かかるぞ?」


遼「性格だししょうがないよ。俺なりのやり方で、ゆっくり友達になれるように頑張るさ」


さくら「……ごめんなさい……」


遼「いいよ、気にしないで」


梨央「ふふっ……遼くん、かわってないねー。そういうとこ」



俺の答えを聞いて、梨央が嬉しそうに微笑む。

そんなに変わってないかなぁ、と内心で苦笑した。



遼「そうかな? これでも、少しは変わったと思うんだけど……ほら、身長とかさ」


梨央「それ! 身長!! 昔は私と同じくらいだったのにさ~……遼くんもかずくんもいつの間にか伸びてるんだもん!」




不満げに梨央がずんずん近づいてきて、俺との身長差をアピールする。

水城さんがその場に取り残されてあたふたしていた。



遼「成長期ですから」


一輝「だな。まぁ諦めろ」


梨央「むぅ~……」



悔しそうに唸る梨央に、俺と一輝は笑った。

ふと、一輝から笑顔が消えた。



一輝「なぁ、遼。この後はどうする……? 俺らは、陽菜と合流することになってるけどよ……」


遼「……陽菜と会うんだ……今日は遠慮しとくよ。あいつには心の準備必要だろうからさ……梨央、俺が帰ってきてるって伝えてもらえるかな? 明日にでも会いに行くからって」



そう言って、鞄を持ち上げる。

陽菜とは……4年前のあの日以来、連絡も取っていない。


いきなり会うと、取り乱すだろう。

そうすると話しもややこしくなる。


そんな風に言い訳を並べているが……もしかしたら、俺も怖いのかも知れない。


何故かそう思った。



梨央「あ、うん……わかった」


さくら「……そっか、一輝くんや梨央ちゃんと幼馴染って事は、陽菜ちゃんとも……(じゃぁ、昔陽菜ちゃんが言ってた幼馴染って……)」


遼「あ、うん。陽菜とも幼馴染だよ。陽菜の事も知ってるんだね」


さくら「あっ……は、はい……」



無意識の内に声に出していたのか、話しかけると急に顔を真っ赤にして俯いてしまった。

何か気になる事でもあるんだろうか、と思いもしたが、人見知りなら今無理に聞くのは悪い気がした。



遼「一輝と梨央と仲が良いなら、陽菜とも仲良くても不思議じゃないもんね。……それじゃ、俺は先に帰るよ。家の片付けも終わってないし」



無難に自己完結させ、帰るべく教室の出入り口へと向かって歩いていく。

そんな俺に、一輝が声をかけてきた。



一輝「……遼っ! お前今どこに住んでるんだ?」


遼「ん? あぁ、昔住んでた家にいるよ。親父が手放してなかったし、あそこには大切な思い出もあるしな」



一輝の問いに、立ち止まって振り向きながら答える。

すると、一輝の横で梨央が何か言いたげな顔をしているのが見えた。



梨央「遼くん……わかってると思うけど、陽菜もきっと喜ぶと……」




遼「わかってる」



そんな梨央の言葉を途中で遮る。

梨央が目を見開いて驚いていた。



梨央「遼くん……」


遼「わかってるから大丈夫だよ、梨央。あの時の事も、きっとすぐに笑い話にできる。また昔みたいに、どうでもいいような事で笑って、言い合って……そんな時が来るって、俺はそう信じてるから……だから、大丈夫。一輝、梨央、水城さん。また明日ね」



俺はそう言って笑うと、教室を出た。

少しだけ痛んだ気がした、心の痛みに気づかない振りをして……








………

…………

……………










一輝「本当に変わってないなぁ、あいつは……」



遼が出て行った後、教室に残ったままの俺達。

見えなくなった背中を思い浮かべながらそう呟いた。



梨央「んー、根っこの部分は変わってないけど……容姿とか優しさとかは昔以上な感じしたなぁ、私は。あれじゃ、周りがほっとかないだろーねぇ……」



あはは、と苦笑しながら梨央も優しげに微笑んだ。

その優しい目には、きっと昔の情景が浮かんでいるはずだ。


今の俺と同じように。



さくら「何だか優しそうな人だったね……私は結局殆ど喋れなかったけど……」


一輝「水城、優しそうな人じゃない。感じた通り、優しいんだよ。バカがつくくらいにな」


梨央「一緒にいて、すごい居心地がいいんだよね、遼くんは。中々できないよね、普通の事って。人に優しく、だとかさ。人助けとか、さらっとやっちゃうのが遼くんだよ? おばあちゃんの荷物持ってあげたりとか。だからさくらちゃんもすぐ喋れるようになるよ」


さくら「そう、かな……?」



遼の事を話しながら、誇らしげに笑いながら梨央はそう言った。

確かに水城も相手が遼ならすぐに打ち解けられるだろう。



一輝「とりあえず、陽菜に連絡するか」


梨央「陽菜か~……これから大変だね~……」


一輝「やっぱり、簡単にはいかないだろうなぁ」


さくら「………」



事情を知っている俺と梨央としては、頭の痛い所だ。

陽菜はずっと悩み続けていたからこそ、きっと長引くだろう。



一輝「はぁ……まぁ、できるだけ俺達も頑張るか」


梨央「そうだね……さくらちゃんも、よろしくね?」


さくら「あぅ……私なんかに何か手伝えるかなぁ……」


一輝「ははっ……そんなに難しく考えなくていいだろ。水城はまず喋れるようになってからだろ?」


梨央「だね~。まぁ、帰ろっか?」


さくら「あぅ……」



仲直りして、また皆で遊べたら……

昔のような時間を過ごせたなら、どれだけ楽しいだろうか。


そんな未来を夢見ながら、俺達は帰途についた。





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