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未来へ続く道~Wings to flap~  作者: 禾楠
第一章
3/43

驚きと謝罪



4年ぶりの再会。

驚かせる為に、一輝と梨央には何も連絡せずに帰国していたりする。


ドッキリ企画みたいだなー、と1人この瞬間を楽しみにしていたわけだが……



遼「えっと……一輝? 梨央?」



俺の姿を見て固まってしまった2人に、さすがに心配になって声をかける。

ドッキリ企画としては成功なのかもしれないが、このままでいるわけにもいかない。



一輝「ちょ、ちょっと待てよ……急すぎてついていけん……」


梨央「……ほんとに、遼くんなの……?」


遼「ほんとも何も、正真正銘本物だよ?」



呆然と俺の顔をまじまじと見つめる2人に、笑ってみせる。

すると、一輝がため息をつきながら……



一輝「はぁ……本当に本物みたいだな。その笑顔、忘れるわけもない……」



そう言って、一輝は苦笑した。

そして、俺から視線を外して周りを見渡す。



一輝「とりあえず一回教室に行こう。幸い、遼も同じクラスだ。ここは邪魔になるし、何より落ち着かないからな……」


梨央「う、うん……そだね。私達は先に言ってるから……さくらちゃん、行こっか?」


さくら「ふぇ? う、うん……?」



まだ信じられないのか、梨央は俺の方をちらちらと見ながら、女の子を引き連れて歩いていく。

友達らしい女の子は、控え目に頭を下げていった。



遼「俺は職員室行かなきゃいけないから、また後で」


一輝「あ、そうか……おう」



まずは、職員室に挨拶しにいかなければならない。



一輝「職員室の場所、わかるか?」


遼「あぁ。この間手続き来たから」



一輝の気遣いに感謝して、職員室を目指すべく俺は校舎の中に入っていった。








………

…………

……………









ざわつく教室の前、廊下に1人立つ俺。

中々に違和感のある光景だ。


教室の中からは、担任の大きな声が聞こえてきた。



「噂を聞いてる奴も多いと思うが、このクラスに転校生だ。帰国子女になるんだが……入ってこい」



呼ばれて教室に入ると、一斉に好奇の視線が集中する。

その中には一輝や梨央、そしてさっき一緒にいた女の子の姿もあった。



カッ!カカッ!


担任の持ったチョークが黒板の上を軽快に走る。

そこには、俺の名前が記された。




「よし、簡単にでいいから自己紹介を」


遼「はい。え~……水崎 遼です。ドイツに、4年間行ってました。小学校を卒業するまではこの島に住んでました。中には俺の事を知ってる人もいると思います。どうか、仲良くしてください」



パチパチ――

皆が拍手で迎えてくれる。



「よし、席はあそこだ」


遼「はい」



俺は担任とクラスメートに頭を軽く下げ、言われた席……右後ろの後ろから二番目という好ポジションに座った。



「うっわ~……帰国子女だって!」


「おんなじクラスだったんだ……ラッキー♪」


「俺の青春は終わった……」



様々な声が飛び交う。

喜ぶ声や、落胆する声。


皆が一斉に騒いだせいでかなりのざわつきになっていた。



「はい、静かに!! この後は体育館で始業式だ。うたた寝して怒られたりするんじゃないぞ? 水崎に聞きたい事もあるだろうが、質問は後にしろ。聞かない奴にはもれなく特別課題だからな。それじゃ並んで静かに行け」



担任の言葉に、「えぇー」等と多少の不満をもらしながらも、クラスメートは体育館へと向かうのだった。


校長や教頭の長い挨拶、生徒指導からのお言葉。

生徒会長からの挨拶、そしてこの後の新入生に対する部活動勧誘に対する注意。


退屈ながらも、至って普通な始業式が終わり、生徒は各教室へと戻された。



一輝「で、だ。一体どういうことだ?」



教室に戻り、席についた瞬間。

俺の席の周りに一輝と梨央が集まってきた。



梨央「まだ信じられないよ……この間の手紙には何も書いてなかったし……」


遼「あ~……驚かせようと思ったんだけど。予想以上に効いたみたいで……?」



ここまで驚かれるのは予想外だった。

正直、苦笑いするしかない。


そんな俺の苦笑いを見て、一輝がまたため息をついた。



一輝「はぁ……驚くに決まってんだろうが!! 掲示板見た時は固まったぞ……」


そう言って、一輝はもう一度盛大にため息をついた。



遼「……一輝」


一輝「……なんだよ?」


遼「ため息つくと幸せが逃げるって言うよ?」


一輝「このっ……誰のせいだ誰の!!」


梨央「あ、あはははっ……なんか懐かしいやり取りだね……」



俺と一輝のやり取りに、梨央がようやく笑顔を見せた。

それが何だか嬉しくて、そしてまだ大切な言葉を言ってない事に気がつく。



遼「えっと……ただいま。一輝、梨央」




本当に、俺は一輝や梨央のいるこの島に帰ったきたんだ、という気持ちを込めて。

あの日、誓った約束を守る為に。


本当は最初に言おうと思っていた、その言葉を口にした。



一輝「……あぁ、おかえり」


梨央「うん、おかえり! また一緒にいられるんだね……」



嬉しそうに微笑んでくれる2人。

その笑顔は、本当に懐かしい物で……俺自身も、帰ってきた事を殊更実感した。



一輝「とりあえず……放課後はどうするよ?」


梨央「んー、再会を祝してパーッと! と言いたい所なんだけど……その前に、遼くんはあっちの皆の相手しなきゃだね?」


遼「……みたいだね」



梨央が横目で見た方向を見る。

そこには、クラスメート達が興味津々に待ち構えていた。



一輝「……頑張れ、転校生」



今から質問責めを受けるのか、そう考えると何だか少しだけ悲しくなった。










………

…………

……………









一輝「お疲れさん」



数十分後、廊下に出ると一輝が苦笑しながら迎えてくれた。



遼「まさかここまでとは思わなかったよ……」



今体験して来た光景を思い出す。

周りには人、人、人……


どうやっても抜け出せない、まるで壁のようだった。


ドイツってどんなとこ?

今はどこに住んでるの?

身長は何cm?

彼女はいるの?

等々……


まるで台風の目に立っているような気分になった。

もう転校はしたくない、と本気で思う。


廊下には、一輝1人が立っている。

そこには梨央の姿がなかった。



遼「あれ? 梨央は??」


一輝「ちょっと用事があるから済ませてくるって。待っててくれってさ」



改めて見渡すと、他の生徒の姿もない。

予想以上に時間は経っていたらしい。



遼「なぁ、一輝。廊下で待つのもなんだし、教室で待たないか? 座れるしさ」



今出てきたばかりの教室を見て、一輝を促す。

が、一輝は真剣な表情で俺を見つめている。



遼「一輝?」


一輝「遼、ちょっといいか……?」



一輝の声は思い詰めた感じで、笑い話をする雰囲気ではなかった。

だから、俺は一輝に向き直って身構える。



遼「……どうかした?」



帰ってきて早々、何かやってしまっただろうか?

そんな心配が脳裏をよぎる。


強い決意を宿した一輝の瞳が俺を映す。



一輝「……お前がドイツに行く時さ……。思いっきり殴っちまって、悪かった……」




そう言って、一輝は頭を深く下げた。

それは、予想外の謝罪だった。


俺はあの時殴られた事を気にしてはいなかったし、この4年間、手紙や電話で話した時にその話題が出た事はなかった。



遼「そ、そんな気にしなくていいよ! 頭上げてよ、一輝……あの時は俺が黙ってたのが悪かったんだ、一輝が怒るのも当たり前なんだからさ」


一輝「いや、謝らせてくれ。最初は電話ででも謝ろうかと思った。だけど、ちゃんと面と向かって謝らないといけないって思ったんだ。だから、再会できたら……必ず謝るって決めてたんだ。あの時のお前の気持ち、わかってたはずなのに……本当に悪ぃ……」



そう言って、一輝は上げた頭をまた下げた。

それは、一輝の強い決意だった。


悩み、苦しみ……

手紙や電話で謝ってしまえば楽になるはずなのに、それでも自分を許さず、今まで耐えてきたんだ。


そんな、男の決意をこれ以上否定してはいけない。

これ以上の否定は、一輝の決意を汚す事だと思った。



遼「大丈夫。俺は気にしてないから。だから、これで終わりにしよう? 一輝の気がどうしても修まらないって言うなら……俺からのお願い、聞いてくれるか?」



だから、俺は一つの提案をする。

今の俺の……たった一つの願いを。



一輝「俺にできることなら……なんでもする」



一輝はようやく頭を上げ、俺の目を真っ直ぐ見てくる。

その目を見て、俺は頷く。


大丈夫だ。そう伝わるように。



遼「また、昔みたいに仲良くしよう。一緒にいれなかった4年間を埋めるくらいに、たくさん思い出を作ろう。だから、一輝にも手伝って欲しい。それが、俺の願いだよ」



そう言って一輝に笑顔を向ける。

ドイツにいた4年間で、俺は一輝や梨央のいない時間を過ごした。


だからこそ、俺にとって幼なじみ達がどれだけ大切かを改めて知った。


だから、これが俺の願い。

その為に、俺は帰ってきたんだ。


一輝は、驚いた表情のまま固まっている。

少しすると、固まった顔を緩ませ……



一輝「……あぁ。当たり前だ。俺にとってお前は、幼なじみであり……大事な親友だからな!」


遼「ん、ありがと。これからも、よろしくっ!!」



パァンッ!



そう言って俺は一輝に向けて掌を上げて向けると、一輝と俺は笑顔でハイタッチを交わした。

そこにわだかまりはなく、俺と一輝は昔のように笑い合った。




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