Wing.1
一輝「それじゃ、一時間後ここに集合な!」
一輝がそう言うと、皆楽しそうに喋りながら割り振られた場所へと歩き出した。
俺の引いた割り箸の番号は1番。
そして、もう一本の1番を引いたのは……
陽菜「……行こっか?」
幼馴染みであり、小さな頃に仲違いをし、紆余曲折を経て仲直りしたばかりのこの人。
華鍬 陽菜だった。
遼「あ、そうだな。えっと……俺達は確か……」
陽菜「はぁ……ちゃんと聞いてなさいよ。私達は、遊園地でしょ」
ぼーっとしていたせいで目的地を聞きそびれていた俺の顔を見て、呆れた様にに溜め息を吐く陽菜。
そんな陽菜に、少し申し訳なさを感じながらも俺はバッグからパンフレットを取り出した。
遼「うん、ごめんごめん。それじゃ、早くしないと調べられないな」
そう言って、取り出したパンフレットに目をやった。
海浜公園内、特設遊園地。
入場料のそんなに高い訳ではない海浜公園内にある遊園地なのに、思いの外広い。
勿論、全て有料制ではあるものの、ジェットコースターやコーヒーカップ等、様々なアトラクションがあるようだ。
大型アミューズメントパークに比べれば、ジェットコースター等はサイズが小さいのは仕方ない事だが。
陽菜「そうね……私も来るのは始めてだし……とりあえず早く行くわよ」
遼「あ……」
そう言って、陽菜は背を向けて早歩きで歩き始める。
その背中に、若干の拒否を感じながらも、俺は陽菜の背中を追いかけるしかなかった。
まだまだ前途多難なようだ……
………
……………
………………
~陽菜時点~
陽菜「……ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って……っ!」
遼に背を向け、意図的に歩幅を大きく歩きながら私は小さな声でそう呟き続けていた。
頭の中は、常に混乱しっぱなしである。
仲直り出来たのは、勿論嬉しい。
何だかんだで梨央には感謝もしている。
その分、少し恨みもしてるが。
でも、正直な話し……まだ私の中では完全に踏ん切りがついた訳ではないのだ。
少しずつ……そう、本当に少しずつ慣れて行こう。
そう思っていた矢先に、遼と2人っきりにされるなんて。
一輝……恨むわよ……
明らかに八つ当たりと言える感情を、自分の中で燃やし始める。
でも、ほんとにどうしよう……
普通に振舞えるのかな。
というより、既に振る舞えていないのだが。
それに、簡単に出来るのならば遼が帰って来てからあれだけの期間。
私は避けたりはしなかったはずだ。
何故か、そんな事だけは自信を持って言える。
そんな自分が、何とも情けなく感じた。
遼「ちょっと待ってってば、陽菜!」
追いかけてきた遼が、隣を歩き出す。
それを横目に見ながらも、私の歩幅は広まる一方だ。
陽菜「な、何よ、早く行かないとだめだってさっきから……」
視線が合った瞬間、私はすぐさまパンフレットを開いて凝視。
そのまま早歩きで歩き続ける。
端から見れば危ない歩き方である。
遼「……だからっ! こっち、行ってみようよ。パンフも大事だけど、せっかくだしまずは自分たちの眼で見て周ったほうが楽しいって♪」
そう言って、突然私の手を引っ張る遼。
陽菜「なっ……!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
急に手を握られたせいか、声が上擦ってしまう。
見るからに焦って、動揺している私の事なんてお構い無しに、遼はどんどん前へと進み、引っ張っていく。
私には、こんな風に接してもらう権利なんてない――
私には、こんな風に接してもらっても、どうしていいかなんてわからない……
そんな困惑している私をよそに、遼は私に笑顔を向ける。
それが、どれだけキツいかも知らずに。
その笑顔が、罪の意識を呼び起こすというのに。
遼「ほらほら、時間は待ってくれないって♪」
そんな私をお構いなしに、遼は笑顔のまま歩き……
私はそれに、どうする事もできなくて従った。
………
…………
……………
遼「……(これで、いいんだよな。きっと。)」
陽菜の手を握りしめ、頭の中でそう言い聞かせる。
突然陽菜と2人きりになって。
どう考えたって陽菜が素直になるとは思えなかった。
実際、その通りでもあった。
だから、強攻策に出る事にした。
せっかく仲直り出来て、皆で遊びに来て。
どこかで話しかけるつもりだった。
すぐにとは言わずとも、出来るなら……小さな頃の様に、気兼ねなく何でも言い合って、笑い合いたかったから。
そして幸か不幸か、2人で周る事になった。
それなら、楽しく周りたい。
陽菜に笑って欲しかった。
多少強引にすれば、きっと無理やりでも陽菜のテンションを上げられる。
少しでも“楽しい”という気持ちが芽生えれば、笑顔を見せてくれるはず。
そう考えた末での行動だった。
陽菜「もう……いつからそんなに強引になったのよ、遼らしくない……」
そっぽを向きながら、拗ねたように文句を言ってくる。
観念したのか、どうなのか。
まだ今の状況じゃわからない。
遼「ごめんごめん。まぁ、とりあえずは久しぶりの遊園地だし、何か乗ってみよう?」
陽菜「……はいはい、どうせ今日の遼は嫌って言っても無理やり引っ張っていくんでしょ……なら行ってやるわよ!」
そう言って、陽菜はようやく笑顔を見せてくれた。
無理やりでも、久しぶりに見れた満面の笑顔。
それがただ嬉しい。
今は、それが全てだった。